拾玖之陸 参戦
危険な空気に、私は思わず「作り替えただけです。作ったものを必要な形に!」と声を張り上げていた。
声の主が誰か気付いたのであろう那美ちゃんは『あら、凛花ちゃん。元気みたいで安心したわ』と笑む。
その後で、不快に思っていると一目でわかる顔をして『それで、何故邪魔をしたのかしら? 皆を先導してまで』と低い声で続けた。
その問いにすぐに返せなかった私に代わって、舞花ちゃんが『リンちゃんは先導なんてしてないよ!』と言ってくれる。
対して、那美ちゃんは舞花try案を見ることも無く『否、凛花ちゃんと話しているから、待っててくれるかしら』と議論をする気は無いと言わんばかりにぶった切った。
そんな対処をされると思っていなかったのであろう舞花ちゃんの顔にショックの色が表れ、即座に結花ちゃんがその身体を抱きしめる。
皆を蚊帳の外に置いたままで、話を進めるキノン見ちゃんを見て、私は一つの決意を固めた。
那美ちゃんと対峙する。
私は視線を隣で見ている花ちゃんに向けて「あっちに、行ってきます」と告げた。
白い鳥居の先に広がる桃源郷に入った瞬間、私の姿を確認した那美ちゃんは、棘のある言葉を飛ばしてきた。
「元気そうで何よりだわ。お姫様……いえ、女神様の方がふさわしいかしら?」
挑発の色を多分に含んだ那美ちゃんの言葉を受けながら、私は何故こんなに敵対の色を見せているのだろうと考える。
那美ちゃんが一人で行動を起こしたのは、自分一人で全てを解決しようとしたからの筈だ。
でも、冷静に効率や確実性を考えれば、一人でやりきるのは悪手じゃ無いかと思う。
少なくとも、こうして那美ちゃんと再会出来たのは、東雲先輩や志緒ちゃん、舞花ちゃん、結花ちゃん、花ちゃん、雪子学校長、月子先生、そしてリンリン様達ヴァイアの皆の力を結集したからで、私一人では絶対に無理だったと断言出来た。
それほど皆は優秀だし、頼りになる。
私よりも長く一緒にいる那美ちゃんが、その事を知らないわけじゃないし、追い詰められていたからといって、そこに意識が向かなかった訳ではない筈だ。
それなら、那美ちゃんが敢えて一人で行動を起こした理由、巻き込んだのが私だけだった理由は、神の力だけじゃ無いと思う。
那美ちゃんが本気で自分の状況を語って、協力を求めれば、皆は絶対に効力してくれたからだ。
そして、今、敢えてとげとげしく皆を遠ざけるように振る舞っているのも、根っこは同じだとお思う。
私は自分の考えに間違いは無いだろうなと言う確信を持って「那美ちゃん」と声を掛けた。
目を細めて名前を呼んだ私に、那美ちゃんは「何かしら、女神様?」と返してきた。
那美ちゃんが自分と距離を離そうとしているのを強く感じながら私は「邪魔をするつもりはないです」と告げる。
瞬間、一気に那美ちゃんの感情が怒りの方向に振り切った。
「何を言ってるの!? 今、無理矢理私たちを止めたばかりじゃ無い!」
感情の乗った那美ちゃんの言葉に私は「それはそう」と頷く。
「馬鹿にしているの!?」
強い怒りの感情のこもった那美ちゃんの言葉を受けるほどに、私は不思議と落ち着きを得ていた。
那美ちゃんを受け止めて、一緒に解決したいという気持ちが強まっていく。
私は真っ直ぐに那美ちゃんの目を見ながら「那美ちゃんの目標は、神世界に閉じ込められてしまったお友達を救い出すことだよね?」と問うた。
那美ちゃんは、私の問い掛けが予想外だったらしく、一瞬言葉に詰まってから「……そうよ!」と返す。
「なら、確実に救助しないとダメだよね?」
続く言葉を頭の中に浮かべると、那美ちゃんは驚愕の表情を浮かべた。
那美ちゃんは心を読めるので説明は要らないけど、他の皆はそうじゃない。
だから、私は敢えて思い浮かべていたことを言葉に変えた。
「那美ちゃんのお友達を救うために、私たち全員協力する。より作戦を完璧にするために、一端那美ちゃんに合流して貰っただけ。止めるつもりなんて全くないよ」
私の断言に、那美ちゃんは声を震わせながら「それがどういうことかわかってるの!?」と強い口調で問うてくる。
「志緒ちゃんと『オリジン』がいるから、事実を無かったことにするのはそんなに難しくないと思うよ」
那美ちゃんは私の切り返しに目を丸くする。
「舞花ちゃんのアイデアは、想像もしなかった方法を生み出せるし、東雲先輩の攻撃力は神世界にいるはずの『種』を対処しなきゃいけない時に心強いし、結花ちゃんの観察力と行動力が土台のフォローがあれば、取りこぼしもなくせると思う」
自分でも驚く程スラスラと浮かんでくる言葉を口にしながら、那美ちゃんから棘が消えていくのを嬉しく思いながら続けた。
「花ちゃんも雪子学校長も月子先生も、林田先生だって、生徒が無茶したら助けないわけにはいかないよね。皆優しいし、責任感が強いもの」
言葉に合わせてニヤリと笑ってみせると、那美ちゃんは大きな溜め息を吐き出す。
その後で「僅かな間で随分強かになったわね、凛花」と口にしながら、私のお腹に力のまるで入っていない拳をポスっと当ててきた。




