拾捌之拾陸 洗脳装置
志緒ちゃんの提案が上手く飲み込めず、私は「え、えーと……?」と口にしながら真意を求めて顔をのぞき込んだ。
私のリアクションに対して、志緒ちゃんは晴れやかな表情のままで「那美ちゃんが林田先生を洗脳しているかわからない……だよね?」と聞いてくる。
「それは、はい」
私が頷くと、志緒ちゃんは「でも、私たちは確実に林田先生を洗脳してしまおうというわけ」と笑みを深めた。
「いや、洗脳してしまおうって……できるんですか?」
私の問い掛けに、志緒ちゃんはキョトンとした表情で「え? リンちゃん作って?」と首をコテンと倒されてしまう。
まさか自分が指名されるとは思っていなかったので、思わず「……え?」と声が出て固まってしまった。
「リンちゃんなら、洗脳アイテムgは作れちゃうと思うんだけど!」
笑みを浮かべてズイッと迫ってくる志緒ちゃんに続いて、花ちゃんも「確かに、凛花ちゃんなら作れそうですね」と頷く。
「ちょっと待ってください! 急に言われても!」
勢いで頷いてしまいそうだった自分に気が付いて、私は慌てて無理だと首を振った。
けど、志緒ちゃんは「リンちゃん、最初から無理だと思っていたら出来るものも出来ないよ」と真顔で言われてしまう。
「それは、そうかもしれないですけど……」
つい、トーンダウンしてしまったところに、志緒ちゃんは「落ち着いて、ゆっくりでいいから考えてみて」と顔を近づけてきて、徐々に私の耳に口を近づけてきた。
最後には「大丈夫、リンちゃんなら出来るよ」と囁いて、私の耳元に吐息の熱を残す。
とても小学生とは思えない程大人に感じる囁きに、私の胸はドキドキと高鳴り、熱に浮かされた頭はぼんやりと出来そうな気がすると私に思わせた。
「五円玉……だよね」
「ふぁい」
私の声が籠もっているのは両手で顔を覆っているからだ。
なにしろ恥ずかしい。
志緒ちゃんの言葉に乗せられて私がカードから作ってみた洗脳装置が『糸のついた五円玉』だった。
「花ちゃん、これって……」
再起出来そうにない私ではなく、志緒ちゃんは質問の相手をさっさと花ちゃんに変える。
ただ、話を振られた花ちゃんも多少困惑しているようで、すぐに話し出すことは無かった。
具現化した私自身、どうしてこうなったのか、思考が回らないので、第三者である花ちゃんは余計コメントに困るとは思う。
それでも、客観視出来るからか、私y路先に花ちゃんはアクションを起こした。
「私も実際に目にしたことがあるわけじゃ無いですけど……こう、五円玉を左右に振って暗示に掛けるという催眠方法がその昔会ったらしいので、これはその際言では無いかと思うんですが……」
花ちゃんの言葉は、自信が無いことを示すように、徐々にっボリュームが下がっていく。
そして、そのまま沈黙の時間に突入した。
「えーと、振るんだよね?」
多少回復した私に、机に置いた『糸のついた五円玉』に視線を向けながら、志緒ちゃんは尋ねてきた。
「たぶん……そうだと思います」
返答がつい敬語になってしまったのは、居心地の悪さというか、申し訳の無さというか、ともかく気が引けていることの表れだと思う。
何しろ、相手の目の前で振ることで催眠……暗示を掛けるのが、多分この五円玉の使い方だ。
冷静に考えて、戦闘状態にならなかったとしても、遭遇時、恐らくお互いに警戒している状態で、そんなことが出来るわけが無い。
明らかに使う前から使えないアイテムになってしまっていた。
「振り子のように左右に振って、徐々に暗示を与えていく……なる程、ライターの火を見せて暗示を掛ける方法もあるのね」
志緒ちゃんはタブレットで『オリジン』が用意した資料を確認しながらしきりに頷きを繰り返していた。
そのまま、知識を吸収し終えた志緒ちゃんは「うーん」と唸り出す。
何を考えているんだろうと思いながら、唸る志緒ちゃんを見詰めていると、花ちゃんが「やっぱり、使いにくいってことですよね」と声を掛けた。
志緒ちゃんは「そうですね」と頷いて、視線を糸付きの五円玉に向けながら「『見せる』っていうのが案外難しいのと、あとはこれも振り子のように揺らさないと効果を発揮しないと思うんで、そんな事をする余裕がないかな……と」と続ける。
「確かにそうですね」
頷いた花ちゃんは「視覚情報が人間に大きな影響を与えるというのは間違いないですが、効果発揮素要るまで見せる必要がありそうですよね」と志緒ちゃんと同じように話しながら、視線を糸付きの五円玉に視線を向けた。
そこから少しの沈黙を挟んだ後で、志緒ちゃんは「でも、資料を見る限り、五円玉とかライターの炎とかは、暗示が掛かりやすくなるようにするための導入みたいなものなんだよね」と顎をさすりながら呟く。
「意識を朦朧とさせてから、囁きで暗示を掛ける……これが洗脳とか催眠の基本だと『オリジン』はまとめてくれたんだけど……」
独り言のようにブツブツと呟いた志緒ちゃんは、突然、私に視線を向けた。
「あの、思い付いたことがあるんだけど!」




