拾捌之伍 姫
私の発言に、舞花ちゃんが「だよね!」と嬉しそうに頷いた。
「リンちゃんの直感がやった方が良いっていうなら、そうな気がする」
志緒ちゃんがそういいながら、四季の箸を手に取る。
その箸を受け取りながら「次はユイの番でしょ」と結花ちゃんが不敵に笑った。
「えー」
不満そうな声を舞花ちゃんが上げたところで、結花ちゃんは「本番はマイだから良いでしょ?」と切り返す。
「な、ならいいけど……」
舞花ちゃんはどこか納得できないようで、首を傾げながら頷いた。
状況が悪化してしまった場合、その本番は無いかもしれないから、結花ちゃんが上手く切り抜けたと思う。
舞花ちゃんはそこまでは考えてなかったようだけど、なんとなく違和感のようなものを感じ取ったようだ。
双子のテレパシーみたいなものがあるのかもしれないなと思う。
二人のやりとりを見ていると、結花ちゃんが急に私に視線を向けた。
何だろうと思っていると結花ちゃんは悪戯っぽい笑みを浮かべて「ユイもゲートを開くだけで、突入するのはドローンだけだから危なくないし、リンリン様にもついてきて貰うし」と言う。
ああ、リンリン様に話を振ったのかと思っていると、頭上から『任せるのじゃ』という快諾の声が上がった。
そこで話は終わりだと思ったのに、結花ちゃんが想定外な言葉を付け足す。
「いざという時は、凛花姫の祈りが大事なんだから、マイは騎士として凛花姫を守ってて」
結花ちゃんの言葉で、くるりと私の方に向き直った舞花ちゃんは目をキラキラさせていた。
スイッチが入っているとわかる表情を前に、結花ちゃんが舞花ちゃんの意識を私に向けたのだと悟る。
「姫! 姫の身の安全は、この騎士舞花が必ず守りますゆえ、ご安心くだされ!」
右手を握って胸に当てた舞花ちゃんはそのまま頭を下げた。
完全に役に入り込んでいる舞花ちゃんに余計な言葉を掛ける方がややこしくなることを知っている私は、どうするべきかと思いながら結花ちゃんを見る。
すると、舞花ちゃんの視界に入らないところで両手を合わせてこちらを見る結花ちゃんと目が合った。
ごめんなのか、付き合ってあげてなのかはわからないけど、乗って上げてと言っているのがわかってしまう態度に、私も気持ちを定める。
「た、頼みますよ。舞花」
声が震えないように気をつけながらそう声を掛けると、パッと上げられた舞花ちゃんの顔には、嬉しさの感情が満ち満ちていた。
「お任せください、凛花姫!」
「よ、よろしくお願いします」
舞花ちゃんの輝きに満ちた表情の圧に呑まれながら、私は笑顔を繕う。
私の反応に満足してくれたのか、舞花ちゃんは満足そうな顔で「絶対護るからね!」とウィンクを決めた。
那美ちゃん、雪子学校長と月子先生の到着の時間までに、ゲートを開いてみることに決めてからの準備は早かった。
まず、ゲート前には、結花ちゃんとリンリン様、そしてゲートをくぐり抜けるドローンが陣取る。
これに加えて、状況を計測するために、パワーアップした猫スーツ姿の志緒ちゃん、迎撃要員として東雲先輩、サポートとしてシャー君ときらり、ぴかりが、ゲート予定地の前に加わった。
ゲートを開く球に四季の箸を打ち込む場所は、追加メンバーである志緒ちゃんが、自分とシャー君の計測に『オリジン』の計算を重ね合わせて割り出し誘導する。
シャー君は『魔除けの鈴』を志緒ちゃんパワーアップのために既に使用した後なので、ここからは計測がメインとなり、志緒ちゃんにつかず離れずで付き従っていた。
リンリン様は状況に応じて、ゲートの向こう側に躍り出て『魔除けの鈴』を発動するか、迎撃のために桃源郷側で、東雲先輩、範囲に含められるのなら結花ちゃんに向けて発動し、パワーアップさせる。
結花ちゃんまでの効果が及ばない場合、きらりとぴかりが『魔除けの鈴』を発動する予定だ。
布陣が決まり、待機メンバーとなった私と花ちゃんに、舞花ちゃんが「舞花とステラで、凛花姫と花ちゃんを護るからね!」と言ってくれた。
「心強いです、わ」
志緒ちゃんから借りて読んだ漫画に出てきたお姫様を自分なりに思い出しながら答えると、舞花ちゃんは鼻息も荒く頷いてステラに振り返る。
「気合を入れていくよ、スーちゃん!」
「任せてよ。舞花ちゃん!」
息の合ったやりとりを交わしあう両者を微笑ましく見ていると、花ちゃんが耳元で「お姫様役も慣れてきたようですね」と囁いてきた。
思わず文句を言いそうになったものの、なりきっている舞花ちゃんは、なりきっている時の方が暴走しないとこっそり結花ちゃんに教えて貰ったこともあって、お姫様という仮面でどうにか押し込める。
「今は舞花ちゃんが全力を尽くせるように、私なりに全力を尽くすだけです……わ」
澄まし顔を意識しながら、語尾に『わ』を付けるだけで、もの凄く恥ずかしかった。
とはいえ、舞花ちゃんはやる気に満ちているので、やめられそうもない。
良かったことと言えば、花ちゃんがそれ以上弄ってこなかったことくらいだった。




