拾漆之参拾玖 追加
「それじゃあ、全員参加ということで、改めて気を引き締めましょう……目的地は『黒境』に異常が起きた土地ですから、確実に危険があると考えた方が良いでしょう」
花ちゃんの言葉に、皆が無言で頷いた。
沈黙の続く中、手上げた東雲先輩が皆に視線を向けながら「一つ皆に提案がある」と言う。
そんな東雲先輩に対して、自分が返事をするべきだと皆思わなかったせいか、誰も返事を返さなかった。
結局、私の頭の上に陣取るリンリン様が『言ってみるのじゃ』と東雲先輩の発言を促す。
東雲先輩は少し間を置いてから、気持ちを切り替え、真面目な顔で「現状、アチラとこちらの世界で、箸を突き立てた位置と出現する位置の地表からの距離が同じだということが判明している……が、志緒の開けた穴の中で四季の箸を起動した場合、本来の地表が基準になるのか、その時点の地表である穴の底面が基準になるのか調べた方がいいと思うんだ」と口にした。
「確かに、情報のサンプルが増えれば、確実性が上がるよね」
即座に反応した志緒ちゃんは、慌てて両手で自分の口を覆う。
直前の全員の意思確認に至った切っ掛けが自分の行動にあったことで、いつも通りに発言するをマズイと思ったようだ。
そんな志緒ちゃんに、花ちゃんは「反省したんですし、遠慮していては最良の作戦を立てられないんじゃないでしょうか?」と軽く笑みを浮かべて首を傾げる。
続いて結花ちゃんが冗談めかした口調で「そうね。しーちゃんが思い付いたこと言わないなんて病気になるわよ?」と言い放った。
「確かに、思い付いたこと言わないしーちゃんって、おかしいよね!」
結花ちゃんの発言に、舞花ちゃんが同意したところで、躊躇いを吹っ切ったらしい志緒ちゃんが声を荒げる。
「こらぁ、ユイちゃん、マイちゃん。私を何だと思ってるの!?」
少し戯けた様子で志緒ちゃんが二人に迫るが、舞花ちゃんからは「アイデアガール?」とい言葉が返ってきた。
更に結花ちゃんからは「発想の天才かしら」という答えが返ってきて、志緒ちゃんは「な、なんだか、怒りづらいというか、くすぐったいというか……」と勢いを失ってしまう。
その様子を確認してから東雲先輩が「反対が無ければ、早速、四季の箸を試してみたいんだが……舞花と結花がやるか?」と双子に問い掛けた。
二人は同時に「「え?」」と声を上げた後で、同時にお互いを見合う。
この息の合い方が、双子だなと思わせる動きだった。
しばらく見つめ合って目と目で会話を取り交わした舞花ちゃんと結花ちゃんは、同時に「「本番まで辞めとく」」と返した。
初志貫徹ということもあるだろうけど、どちらかというと、本番で外されないようにという心理があるように感じられる。
そんな事実があったのかどうかは知らないけど、双子は最年少ということもあり、危険度が増すと、参加が禁じられるということがあったんじゃ無いかと思った。
二人が辞退したなら私がやろうかと思ったんだけど、チラリと目が合った花ちゃんに、目と左右に首を振ることでダメ出しされてしまう。
そうしている間に、志緒ちゃんが「じゃ、じゃあ、もう一度私にやらせて貰えるかな?」と申し出た。
「今度はちゃんと、説明するし、暴走しないように気をつける!」
そこで一端発言を切ってから「うんうん」と口にして、大きく首を左右に振る。
「私が暴走しないっていう証拠を見せるから、皆に見て欲しい!」
志緒ちゃんの言葉にすぐに反応をしましたのは花ちゃんだった。
「汚名返上というわけですね」
花ちゃんの言葉に、志緒ちゃんは強い表情で「はい」と頷く。
私が前に出るのを止めたのは、志緒ちゃんにこの機会を与えるためなのかと、私よりよっぽど教育者に向いている花ちゃんに、私は心の中で脱帽した。
というか、ここで教員免許を得てから、まだ、教壇に立った回数が動画を入れても片手で足りる自分が、思い上がった考え方で自然と花ちゃんを見下していたことに気付いてしまう。
自己嫌悪で消えてしまいたい思いでいっぱいになる私を含めた皆を見渡しながら、志緒ちゃんは「許して貰えるかな?」と尋ねた。
「うん。頑張ってしーちゃん!」
「任せたわ、しーちゃん」
舞花ちゃん、結花ちゃんは笑みと共にそう言って頷く。
短く東雲先輩は「頼んだ。志緒」と告げ、花ちゃんも「信じていますよ」と微笑んで頷いた。
最後に、自己嫌悪のせいで反応に遅れた私に、志緒ちゃんの窺うような眼差しが向けられる。
自分の気持ちはしまい込んで、志緒ちゃんが実験に集中出来るように、私は表情を引き締めて大きく頷いた。
その上で「あの黒猫のスーツなら、数値も正確に測れますし、理想通りに動く事も出来る……志緒ちゃんが適任だと思います」と素直な気持ちを伝えると、志緒ちゃんは驚いた表情を浮かべる。
志緒ちゃんの想定外の反応に、つい驚いてしまった私は、やらかしてしまったんだろうかという不安におされて「あ、あれ?」と声を漏らしてしまった。
私の動揺に、志緒ちゃんも慌てだしたけど、それでもこちらよりもあっさりと立て直してしまう。
「いや……その、パワーアップはしない方がいいかなって思ってたのに、リンちゃんが使う前提でいうから驚いちゃって……」
志緒ちゃんの言葉でそういう事かと思った私は頭をフル回転させて「同じ条件じゃ無いと意味ないよね?」と、どうにか切り貸した。




