拾漆之参拾参 パワーアップ
「護りたいって思うのが大事なんだよね?」
私の問い掛けに、リンリン様は『うむ。その思いが一番力を与えてくれたの』と答えた。
頭の中で流れと理屈は理解出来たけど、問題は実践出来るかどうかである。
正直、いつの間にか私自身もあんな光……志緒ちゃんの言うところのオーラが出ているとは思ってなかった。
ただ、祈るだけで、同じ事が出来るのか、少し……いや、かなり自信が無い。
むしろ、出来ないような気がしてきた。
私が考えを巡らせた末、そう思ったところで、リンリン様に『主様、主様が無理だと思うては、祈りは力を与えてはくれぬのじゃ』と言われてしまう。
どうやら実験前に、私が疑念を抱いてしまったことで、能力を発揮出来ないという事態になってしまったようだ。
無意識で効果を発揮していたなら、聞かない方が良かったのかも知れない。
私がそう思ったタイミングで、リンリン様が『自身の能力を把握しておる方が、いざという時に間違えずに済むものじゃ。使い方のわからない道具より、使い方がわかった上で、不足しているものもわかっている方が、いざという時に力の入れる場所を間違えないで済むというものじゃ』とズバリと否定してきた。
正直、リンリン様とは思考が近いのか、確かにそうだと頷けてしまう。
仕組みがわからなければ、足掻き自体が無駄になるかもしれないけど、仕組みがわかっていれば、有効な足掻き方が出来るのだ。
問題は、いざという時に、自分を信じられるかだけど、ここで頭の上のリンリン様に『主様はもう少し自分を苦呈した方が良いと思うの』と頭を前足で叩かれてしまう。
それは、自分でも思わなくはないことなので、何も言い返すことはできなかった。
とりあえず、出来る事をと考えた結果、私は自分の祈りの力を確実にする方法は諦めた。
気持ちの影響を受けるなら、多分……おいや、間違いなく練習では入り込めずに発動出来ない自信がある。
出来ない事に自信があるのもどうかと思うけど、今は無駄をしている時間は無いと割り切った。
そんなわけで、私はシャー君、ステラ、そしてきらりとぴかりにも『魔除けの鈴』を組み込むことにしたのである。
私の祈りでリンリン様の『魔除けの鈴』を強化出来ることはわかったものの、その祈りを自分のタイミングで発動出来そうにないので、そうであるならば、発動出来る存在を増やすのが効率的だと考えた。
多少、カードの在庫が気になってきているものの、皆に『魔除けの鈴』を付与すると共に、リンリン様には求婚やエネルギーの見える目を付与することに成功する。
こうして、下地を整えたところで、実験が再開されることになった。
『それじゃあ、シャー君、お願いニャ!』
猫の要素の強い神格姿となった志緒ちゃんはテンションが大爆発していた。
状況もあって、間違いなく自分もパワーアップを試したいという気持ちを抑えていた反動が溢れ出している。
結果、お預け状態が続くことになってしまった舞花ちゃんと結花ちゃんは不満に思っているのではないかと思って心配していたのだけど、そんなことは無かった。
自分の相棒であるヴァイアに『魔除けの鈴』が追加された上に、本番、那美ちゃん救出作戦の時は、二人が門を開くことになっているので、その時には自分たちもパワーアップ出来る未来が約束されているのが大きいんだと思う。
そんなことを思ってみていると、目が合った舞花ちゃんに「大丈夫だよ、リンちゃん! リンちゃんは私たちが護るからね!」と微笑まれてしまった。
続いて、結花ちゃんが私の肩を叩いて「姫は姫らしく守られていればいいのよ」と言う。
舞花ちゃんがその発言に食いついてしまって「そうだ、リンちゃんは姫だった!」と怪異出してしまった。
ここで、動揺せずにすかさず「ドレス姿の舞花ちゃんと結花ちゃんの方が、パワーアップしたら、もっとお姫様みたいになるんじゃないかな?」と切り返してみる。
「えっ! そ、そうかな」
私の言葉に、舞花ちゃんは頬に手を当てて、瞬きを繰り返しながら私を見てきた。
心の中で自分の切り返しが上手く決まったことにガッツポーズを決めながら「もちろん! 間違いないと思うよ!」と強めに肯定する。
「え、えへへ。そっかー」
自分のパワーアップした姿を想像しているのであろう舞花ちゃんは、とても楽しそうだ。
その姿を見ているだけで、とても微笑ましい。
思わず笑みを浮かべてしまった私の肩を結花ちゃんが叩いた。
「結花ちゃん?」
何だろうと思って名前を口にすると、結花ちゃんはぷいっと視線を逸らして「リンちゃんだって、その……ドレスじゃないけど、着物の……日本のお姫様みたいになると思う……わよ」と辿々しく言う。
気を遣ってくれているのだと察した私は「ありがとう、結花ちゃん」と返した。
ここで舞花ちゃんが「三人でお姫様だね!」とにこやかに言う。
結花ちゃんもまんざらでもない態度で「そうね」と頷いた。
そして、期待に満ちた二人の目が私に向く。
「楽しみですね!」
私の返せる言葉はそれしかなかった。




