拾漆之参拾壱 検討
「あんまり、凛花を揶揄うと、本番で使い物になら無くなってしまうかもしれないだろう」
東雲先輩はそう言って視線を志緒ちゃんに戻した。
言いたいことはわかるし、間違っていないとは思うけど、その発言にはもの凄くモヤモヤする。
別にそうしようと思ったわけじゃなく、勝手に私の目が細まり、頬が膨らんだ。
「雅人くぅ~ん。言葉は選びましょうねぇ~」
急に割り込んできた花ちゃんの言葉で、東雲先輩はハッとした表情を見せる。
そのままこちらに視線を向けた東雲先輩は「俺も動揺していたんだ。凛花をもの扱いしたわけじゃなくて、いっぱいいっぱいでちゃんと言葉を選べなかったんだ」と真剣な目で言ってから大きく頭を下げた。
いっぱいいっぱいだったと告白してくれた東雲先輩の言葉に、よく考えれば、しっかりしているとは言っても未だ中学生なんだと思えば、仕方が無い。
東雲先輩にも子供な部分があったのかと思うと、なんだかモヤモヤしていた胸がホワッと温かい気持ちに変わり、私は知らず知らず「仕方ないですねぇ」と口にしていた。
ここで、あっさりと乗ってこられたら、気持ちに変化があったかもしれないけど、そこは神使の素養抜群の東雲先輩だけに「以後、気をつける」と改めて頭を下げてくれる。
「はい、じゃあ、凛花ちゃんも、雅人君も……」
そこでパンと軽く手を叩いて視線を集めた花ちゃんが声のトーンを落として「救出作戦に集中しましょう」と口にした。
私と東雲先輩はほぼ同じタイミングで、花ちゃんの言葉に頷く。
いよいよ、本番だという思いが、私に強く拳を握らせた。
「まーちゃんの実験のお陰で結構なことがわかったわ!」
志緒ちゃんの言葉に皆が静香に頷いた。
「ただ、なっちゃんを助けに乗り込むには、少し情報が足りないの」
舞花ちゃんがその発言にすぐに反応して「何が足りないの?」と尋ねる。
良い質問だと言わんばかりに表情を輝かせた志緒ちゃんは、一度咳払いしてから「皆、手近のタブレットを見ていてね」と告げた。
言葉通りに私たちがタブレットに目を向けたタイミングで、志緒ちゃんは「まず、検証しなければいけないのは、四季の箸がもう一度使えるかどうかね」と言う。
「ぴかりちゃんとオリジンの連携で、まーちゃんが使う前と秘めているエネルギーに違いが無いのは確認出来ているけど、欠けが増えているのも確認されたわ」
志緒ちゃんの発言に対してユイ岡ちゃんが「つまり、短くなってるってことね?」と尋ねる。
「使用する度に短くなる可能性が高いとオリジンは推測してるし、私もそう思う」
ここで東雲先輩が「短くなるのは、一定なのか、それとも時間によって削れるのか……そもそも、短くなった橋が再度使えるのか、気になるところは多いな」と自問自答するかのように小さな声で呟いた。
志緒ちゃんはその発言も拾った上で「空間に尽きた立てられている時間で削れる時間が決まるとオリジンは予測しているわ。根拠は、冬、秋、夏、春の順番で、削れる長さが短くなっていることね」と言う。
私は何気なく疑問に感じた点を尋ねた。
「減ってる長さが違うんですか?」
「目ではわかりにくいミリ以下の単位だけど、ぴかりちゃんの観察能力はとても高いから判明したのよ」
「なるほどね!」
自分が生み出したとは思えない優秀さに感心しかなかったけど、持ち主であり、相棒でもある結花ちゃんが誇らしげなのが微笑ましい。
そんなほっこりした気持ちに浸っていると、志緒ちゃんが「というわけで、もう一度使えるかどうかの確認が一つ。もう一つは、計算通りに凛花ちゃんゲートを開けるかどうかね」と言い出した。
「ちょ……」
却下したはずの名称を使われたことに驚く私をスルーして、志緒ちゃんは「今わかっているのは、白い鳥居を起点にして、冬の箸を刺した方向にゲートが開く……その際に冬の箸と白い鳥居の距離が1メートルの場合、こちらの世界では792メートルになっている……今回はそこを踏まえて、工程のほぼ真ん中にゲートを開けるかを試そうと思うの」とタブレットを操作しながら言う。
志緒ちゃんの言葉が長かったこともあって、完全に話の流れは次の実験に移ってしまった。
「確かに次のゲートがある程度意図したとおりに開ければ、空間を越えるトンネルとして使えるな」
東雲先輩の言葉を受けて、花ちゃんが「それで、次は誰が……」と口にすると、ウズウズした様子を舞花ちゃんと結花ちゃんが見せ始める。
そんな中で、志緒ちゃんが「既に場所は計算で出しているから、私とシャー君で試します」と言い切った。
あからさまに肩を落とす双子に向けて、志緒ちゃんは「ごめんね、二人とも……でも、本番はマイちゃんとユイちゃんに任せるから、ここは私に任せて欲しい」と告げる。
その言葉に、舞花ちゃんと結花ちゃんはやる気に満ちた目をして無言で頷き合った。
いつの間にか、この後の動きまで決まってしまっていたことに、私は呆然と瞬きを繰り返すことしかできない。、
そんな私を、志緒ちゃんは真剣な表情で見て「もし、箸が使えなければ、もう一度作ってもラルから、その時はお願いね」と頭を下げた。




