拾漆之弐拾漆 帰還
きらりの目線映像に、ゲートからゆっくりと出てくる白い指が映し出された。
思わず「ゆ、指が出てます!」とつっかえながらも声を上げる。
私に続いて、花ちゃんが「こちらの世界に戻ってきているのに、球魂に戻っていないですね……」と驚いた様子で呟いた。
直後、何かを閃いた様子で、志緒ちゃんが「パワーアップ! パワーアップの効果なんじゃないかなっ!?」と言う。
志緒ちゃんが口にしたパワーアップすれば、神格姿のままでこちらに出てこられるという可能性は、一端は収まったパワーアップしたい願望を刺激してしまった。
「そ、それじゃあ、トンネルを抜けて、那美ちゃんを助けるためには、パワーアップしないとだよね!」
舞花ちゃんが興奮気味に言ったのに続いて、結花ちゃんが「ユイ、考えたんだけど、魔除けの鈴をユイたちのヴァイアにも浸けて貰ったら、皆パワーアップ出来るんじゃないかしら?」と言い出す。
「お姉ちゃん、それだっ!!」
テンションが一気に跳ね上がった舞花ちゃんが期待の籠もった目を私に向けてきた。
すぐにでも対応してあげたいところだけど、私はここで敢えて水を差す。
「待って、今は未だ指が見えただけだから、東雲先輩の実験の結果を確認しないと!」
私の言葉に、一瞬固まった後で、結花ちゃんは「確かにそうだわ」と頷いてくれた。
舞花ちゃんも「そ、そうだった! 今はまーちゃんのこと見なきゃだった!」とタブレットに飛びつく。
二人の興味が東雲先輩に戻ったのに安堵して、残る二人の様子を見てみた。
どうやら志緒ちゃんも花ちゃんも、私たちのやりとりの間も東雲先輩から目を離してはいなかったらしい。
他の皆に遅れて、私もタブレットに改めて視線を戻した。
私が目を離している間に、東雲先輩の腕は肘までがゲートを抜けていた。
その状態で指し棒の時のように、前後、上下左右と、肘から先を様々に動かして、東雲先輩は動きを確かめている。
ややあって、腕だけでの検証を終えたのか、東雲先輩は腕を引き戻した。
東雲先輩に感覚を聞いてみようかと思ったところで、きらりの目が黒い長方形からゆるりと、黒漆の下駄を履いた足袋に包まれた足が出てくるのを捉える。
くるぶしまで覆う足袋の先は、東雲先輩の艶やかな生足が白い長方形まで続いていた。
足袋と変わらない程白い東雲先輩の足が、腕と同じように前後にあるいは上下に、左右にと動かされる。
身体の持ち主は東雲先輩だけど、神格姿は女性の姿形をしているので、かなり艶を感じる動きだったものの、この場にいるのは志緒ちゃんに、舞花ちゃん、結花ちゃん、そして花ちゃんと女性だけなので、特に動揺する人はいなさそうだ。
腕に続いて、足の動きを確かめ終えた東雲先輩は、一端身体を全部桃源郷へと戻した。
『こらから通り抜けてみる』
東雲先輩の宣言に、リンリン様が身に纏うオーラを強める。
腕や足だけを出していた時は散らした直後ということもあって集まってこなかった『穢』が、全身が出てくることで集まってくる可能性が高いと読んだようだ。
感知能力の高いきらりが黒い長方形の監視と共に、周囲の警戒をしてくれているので、急襲は起こらなそうだけど、それでもリンリン様は警戒を強めている。
不測の事態に対して、不必要かもしれないけどそれでも備えてくれるリンリン様の慎重な判断はとても好感が持てた。
私の中でリンリン様の株が上がる名が、東雲先輩がついにゲートをくぐる。
いつでも抜刀出来るよう柄を握った状態で、軽く前傾姿勢をとった東雲先輩の顔と右肩、そして右足がズイッと黒い長方形から姿を見せた。
「スゴイ、神格姿のままだ!」
未だ上半身が出切っていないものの、未だ球魂へと姿を消えない東雲先輩の姿に、舞花ちゃんが興奮を抑えきれず歓喜の声を上げる。
「マイ。今はちゃんと観察しなきゃ」
結花ちゃんが素早く宥めるように声を掛けて、舞花ちゃんは即座に冷静さを取り戻して「う、うん。ゴメンお姉ちゃん」と謝罪した。
対して結花ちゃんは「今は集中、反省は後で」と短く応え、舞花ちゃんは今度はそれに頷くだけで口を閉ざす。
一方、東雲先輩の方は徐々に身体をせり出して、身体のほとんどがこちらの世界に移動し終えていた。
身体が掛けたり、あるいは透けたりといったことは無く、衣装にしても身体にしても実体と変わらないように見える。
何事もなさそうだと安心していると、いよいよ東雲先輩の身体が完全にこちらの世界に出現し終えた。
こちらの世界に完全に出現し終えた東雲先輩はゆっくりと抜刀術の姿勢を解く。
『『穢』の気配はあるかな?』
東雲先輩の問い掛けに、首を左右に振って答えたのであろうきらりの視点映像が左右に動いた。
『そうか、反応があったら教えて欲しい』
今度はきらりの視点が上下に動く。
一方、東雲先輩は自分の体の動きを確かめるためか、両手の指を動かし、握り開くを繰り返した後で、その場で跳躍をし始めた。
大まかに身体を動かした東雲先輩は、最後に腰に下げた刀の一振りの柄を握る。
直後、東雲先輩は既に抜刀した姿勢だった。




