拾漆之弐拾肆 最後の一膳
東雲先輩の予測が的中し、冬の箸の直下地面ギリギリの場所に、二本目の箸が突き刺さった。
差し込まれたのは『秋』の箸で、こちらに到達した先端部を『きらり』とステラが既に発見している。
『冬、秋と反時計回りに差し込むことで、ステップを進められた……この流れなら、夏、春と差せば、扉が開く筈だ』
タブレットから聞こえてくる東雲先輩の考えに「私もそれでいけると思います!」と同意した。
少し間を開けてから、東雲先輩が『作り出した凛花に太鼓判を圧して貰うと、やれるという気持ちが強くなるな』と口にして笑む。
その後、間を置くことなく東雲先輩は、夏の箸を手に取った。
『それじゃあ、実験を続ける……それほど位置は離れないと思うが、舞い込まれないように、少し距離を取ってくれ』
東雲先輩の言葉を受けて、こちらの箸周りに待機していたステラときらりが少し距離を取る。
桃源郷でもカメラを担当しているドローンとシャー君も同じく距離を取った。
唯一、リンリン様だけが、東雲先輩の横尼留まり、グッと警戒の色を強める。
その様子を確認した東雲先輩は『一気に、夏と春の箸を刺して、状況を進ませる』と宣言してから、夏の箸を地面すれすれ、冬の箸から一メートル程離した場所に突き刺した。
夏の箸は問題なく突き刺さり、ステラときらりのコンビも、こちらに出現した箸の先端部分の撮影に成功していた。
秋と夏の箸の距離は、桃源郷と変わらず、1メートルしか離れていない。
最初の冬の箸が鳥居に対する出現位置の方向こそ同じだったものの、729メートルも離れていたので、そこまでではなくても少し外れると思っていたのだけど、夏の箸も、秋の箸も、冬の箸からの距離は変わらなかった。
これは『開門の楔』にも共通する特徴だったので、無意識に私がその性質を取り込んでいたかもしれない。
いずれにせよ、現時点では未だ三点しか決まっていないものの、アチラとこちらの通り道だが、サイズは同一になりそうだ。
最後の一膳である春の箸を手にした東雲先輩が『それじゃあ、最後の春を試す』と宣言した。
先ほど同様にヴァイア達は距離を取り、リンリン様だけが臨戦態勢で警戒の色を強める。
そんな周囲の状態を確認した東雲先輩は、冬の箸の水平方向に伸ばしたラインと、夏の箸から垂直方向に伸ばした交点に春の箸を突き立てた。
直後、冬の足から黒い光が放たれ、それがセントなって真横に伸びる。
黒い線が春の橋まで延びて重なった瞬間、春の箸が黄色の光を放った。
ややあって、今度は春の箸から下向きに青い直線が伸び始める。
夏の箸まで延びて重なると、夏の箸は黄色の光を放ち、続いて、赤い直線が秋の橋まで延び始めた。
更に、秋の箸が黄色い光を放ち、冬の箸に向けて白い光の直線が伸び、冬の箸に至ったところで、冬の箸も黄色の光を放ち始める。
こうして黄色に光る四つの頂点をそれぞれ四つの光る直線が結ぶ長方形ができあがると、桃源郷もこちらも、ほぼ同時に長方形の内側が黒一色に塗りつぶされた。
「成功……した?」
私が思わず漏らした疑問の声に、タブレットの向こう側の東雲先輩が『試してみよう』と口にして、いつの間にか持ち込んでいたのであろう指し棒を先ほどの箸と同じ要領で袖の中から取り出した。
流れる動きで刺し王を伸ばした東雲先輩は『五秒後にこの指し棒を、今出現した黒い四角の真ん中に差し込む』と宣言する。
それを聞いたヴァイア達は自らの目で状況の変化を捉えるために、箸によって生み出された栗長方形を挟み込むように陣取った。
桃源郷ではシャー君が東雲先輩側、反対にドローンカメラが、こちらでは、白い鳥居の位置から判断して、東雲先輩側に当たる方にきらりが、反対にステラが待機する。
四方向からヴァイアの目が監視する中、東雲先輩は約束の五秒後、ゆっくりと指し棒を突き刺し始めた。
黒い長方形に先端が接触するも、特に変化は起きない。
何の抵抗もなかったのか、指し棒を前進させる東雲先輩の動きにも変化はなく、直後には、こちらで長方形を挟んで東雲先輩の反対側で待機していたステラの目が、こちらへと空間を肥えてきた指し棒の先端を捉えた。
およそ半分まで指し棒を突き刺したところで、東雲先輩は指し棒を上下左右に動かし始める。
特に抵抗はないらしく、指し棒は東雲先輩の意志に従って、幅も速さも自在に変えながら、円を描いたり上下左右、斜めと動かされた。
いくつかの動きを確かめたところで、東雲先輩が『これから、この指し棒を境界部分に当ててみる』と言う。
『危険を伴うかもしれない……記録してくれてる皆は少し距離を取ってくれ』
続けて東雲先輩から出た指示に従って、ステラ、きらり、ドローン、シャー君が距離を取った。
それを確認した東雲先輩が、ゆっくりとした動きで指し棒を横に動かし始める。
東雲先輩は右側に動かしているので、長方形の外枠を構成している一本である青く光る直線が徐々に近づいていた。
ややあって、指し棒が直線に接触した瞬間、カッと何か物同士がぶつかったような音がする。
『どうやら、この光っている枠線は物質化しているみたいだ』
そう呟いた東雲先輩の動揺を伝えるように、ステラに捉えられた指し棒の先端は僅かに震えていた。




