拾漆之弐拾弐 実験開始
白い鳥居をくぐり抜け『神格姿』となった東雲先輩は、五振りの刀を操る手とは思えない程しなやかで細い指で、白い鳥居越しに花ちゃんが届けてくれた四膳の箸を受け取った。
東雲先輩は『早速試してみる』と口にすると、くるりと踵を返す。
白い鳥居と繋がれた桃源郷はこちらとは異なる世界であっるため、直接声が届くことはなく、東雲先輩の発言はアチラにいるシャー君が中継してくれることで、タブレットから出来るようになっていた。
逆に私たちからの発言は、こちらに残ってくれているステラからシャー君経由でアチラに伝わるようになっている。
そんなわけで、少しタイムラグはあるけど、東雲先輩達とも意思疎通が出来る環境は整っていた。
東雲先輩は『まずは春』と口にして、ドローンに桜の彫刻がされた黄色と青の箸を振って見せた。
そのまま数秒振った後で、東雲先輩は『白い鳥居の横2メートルで差し込んでみる。測定を頼む』と近くを浮遊していたシャー君に依頼する。
対してシャー君は『もう少し右ですシャー、少し後ろですシャー』と細かく誘導をして、白い鳥居の真横、恐らく2メートルなのであろう地点に誘導した。
『全員がくぐれる高さだと、180センチ以上がいいか』と呟いた東雲先輩は『その位置も示してくれるか?』とシャー君に声を掛ける。
シャー君は『ここですシャー』と東雲先輩の目の前で、およその位置を示すように水平に左右を行き来して180センチのラインを示した。
『わかった。箸を使ってみるので、少し離れて欲しい』
東雲先輩の言葉に『了解ですシャー』と返したシャー君は、そのまま浮遊していく。
ドローン視点はかなり遠景で状況を捉えているので、浮き上がったシャー君が東雲先輩の後ろにふわふわと降りてくるところが映し出されてた。
東雲先輩は背後の気配も読めるのか、振り返ることなく、シャー君が動きを止めた直後のタイミングで動き出す。
東雲先輩の右手がゆっくりと上へ上げられたかと思った直後、勢いよく前方に向けて繰り出された。
恐らく空間に箸が刺さるのだろうと想像していたのに、なんと、東雲先輩は、前に突き出した勢いそのままに、右手を後ろに弾き飛ばされたようになってその場でふらつく。
「し、東雲先輩!?」
思わず名前を呼んでしまった私に、少し間を置いてから『大丈夫だ。弾かれただけだ』という東雲先輩からの声が返ってきた。
大丈夫と聞いて、安堵感で息を吐き出した私は「はじき返されたってことですか?」と聞き返す。
すると、東雲先輩はドローンを軽く探してから右手にしていた箸を見せた。
花ちゃんの持っていた『楔』は空間に突き刺した時に、弾かれるということは無かったので、何科が違っているのは間違いない。
私が具現化に失敗したんだろうかと、不安に思いながら花ちゃんを見た。
花ちゃんは「不良品かどうかは未だわからない……というよりは、不良品ではないから弾かれたんだと思いますよ」と私の懸念をズバリ見抜いたような言葉を返してくれる。
花ちゃんのお陰で令せ言い慣れたことで、確かに考えてみれば何かしらの機能が働いているから跳ね返されたという方が自然だと思えた。
こうなると、花ちゃんの持つ『楔』も実験したくなってくるけど、一組しかない以上、使用するなら、もう少し私の具現化させた箸の検証を進めた後だろう。
そう心に決めると、それも察してくれた花ちゃんが「大丈夫ですよ。、雅人君なら上手くやり抜けてくれます」と声を掛けてくれた。
優しい言葉なのに、気持ちに余裕がないせいか、名前で呼ぶ花ちゃんがちょっと引っかかる。
が、今、その東雲先輩は私の具現化した箸の検証に挑んでくれているので、余計なことを考えるべきじゃないと判断して、そこの考察はヤメにした。
『とりあえず、順番に、試していく』
東雲先輩はドローンのカメラに向かってそう宣言すると、カメラに向けて、波の彫刻が施された赤と黄色の夏の箸を振って見せた。
しばらく振った後で先ほどの手の高さまで振り上げた右手を突き刺す。
が、春の箸と同様にその手は大きく弾かれた。
二度目な上に、予測していたのか、勢いよく右手を弾かれたものの、東雲先輩は今度は身じろぎ一つせずに反動を受けきってしまう。
東雲先輩は何事もなかったかのように着物の袖から新たに箸を取り出すとドローンのカメラの前に晒した。
『それじゃあ、次は秋の箸を試してみる』
紅葉の刻まれた白と黄色の箸を振ってから東雲先輩は、同じ手順で箸を空間に突き立てる。
が、秋の箸も同様に弾かれてしまった。
この反動も平然と受け流した東雲先輩は、黒と黄色に雪が掘られた冬の箸を取り出しカメラに向ける。
『これが刺さらなければ、アプローチを変えてみよう』
そう口にした東雲先輩は冬の箸をこれまでと全く同じ動作で空間に突き立てた。
これまでと同じ結果になるのではと思っていたのだけど、突き刺された東雲先輩の右手は空中、先ほどシャー君が示した180センチのライン上で止まっている。
東雲先輩はゆっくりと箸を握っていた右手を開きながら後ろに下がると、先ほどカメラに映された時に比べて半分程度の長さに減ってしまった冬の刻まれた箸が空中に留まっているのが映し出された。




