拾漆之弐拾壱 四季の箸
「し、四季と色の組み合わせはわかりましたけど、全部に黄色のお箸が混ざっているのはどういうことでしょう?」
このままだと持ち上げられた照れで暴走してしまいそうだったので、私は少し強引に会話の流れを切り替えた。
この問い掛けに、既に予測を立てていたのであろう東雲先輩が「土用じゃないかと思う」と言う。
「どよう? 土曜日?」
首を傾げる舞花ちゃんに、志緒ちゃんは「多分その土曜じゃないんじゃないかな」と言ってから「多分、アレだよね、ウナギ食べる日」と東雲先輩に話を振った。
「ああ、そうだ」
東雲先輩が頷くと、結花ちゃんが「土用の丑の日ってヤツでしょ。聞いたことはあるけど、意味はわからないわ」と言い切る。
対して、今度は花ちゃんが「土用の丑の日っていうのは、夏の暑さに負けないように、栄養が豊富なウナギを食べて夏バテ防止に供えるって風習のことですよ」と説明した。
それを補足したのは志緒ちゃんで「確か江戸時代まではうなぎじゃなくて『う』がつく食べ物で良くてうどんとか、瓜とかを食べてたんだけど、平賀源内が『土用にウナギを食べる』っていう日本最初のキャッチコピーを作ったのよね」と続ける。
舞花ちゃんや結花ちゃんが素直に「「へぇ」」と感心したところで、志緒ちゃんは「まあ、諸説有りなので、正しいかどうかは断言出来ないけどね」と言い加えて、今度は「「えーー」」と言われていた。
「でも、そのウナギを食べる日が、どう関係してるの?」
舞花ちゃんは首を傾げながら『土用』ではと言い出した東雲先輩に話を振った。
自然と皆の目が集まったところで、東雲先輩は「土用は季節の変わり目に存在する季節と季節を繋ぐ期間なんだ。土用の丑の日があるせいで、夏の土用ばかりが知られているが、実は春にも秋にも冬にも土用はあるんだ」と言う。
「他の季節と繋ぐ……間を埋めるのが土用ってことね……確かに、土行の性質にも近いわね」
東雲先輩の話と少し前の五行の話を的確に組み合わせて、結花ちゃんは納得の深い頷きをして見せた。
結花ちゃんの発言に頷いてから東雲先輩は「四季を巡らせるって考え方をすると、それぞれ春、夏、秋、冬の順番で空間に打ち込めばいいんじゃないか通れは考えている」と使い方の予測を立てる。
その後で、東雲先輩がこちらを見たのは、具現化した私の意見を聞きたいと言うことだと思った。
「一応、具現化する時に参考したのは花ちゃんが楔を刺す姿だったので、使い方はそれであっているんじゃないかなって思います」
私的には少し自信は無かったんだけど、東雲先輩には次のステップに進むには十分だったらしく、花ちゃんに「俺が向こうで使ってみようと思うので、俺が球魂から神格姿に変わったら受け渡して貰って良いですか?」と問い掛ける。
「雅人君がやるってことですね?」
即座にそう返した花ちゃんに、東雲先輩は「そのつもりです」と答えてから私に視線を向けてきた。
目が合っただけなのに、心臓が少し騒がしくなってしまう。
しかも、東雲先輩はもの凄く真剣な顔で私を見ているので、ここで逃げ出すどころか、目を逸らすことも出来そうになかった。
とはいえ、何かアクションを起こさないと状況が変わらないので、声が上擦らないように気をつけながら「なんですか?」と尋ねてみる。
「凛花、俺に任せてくれないか?」
「は……い。任せます」
頷いてから、自分が無意識に承諾していたことに、自分の発言で気が付くことになった。
新しい道具で危険なので、自分が使おうとか考えていたはずなのに、すっかり忘れきってしまっている自分に驚きしかない。
けど、私自身は答えてしまっているので、状況は動き出してしまっていた。
「良いですよね、花子さん」
自分にそう尋ねてきた東雲先輩に、花ちゃんは苦笑を浮かべると「気をつけてくださいね」と答える。
「ハシ渡しは、私が任されました」
そう付け加えた花ちゃんは手にした四季の刻まれた四膳の箸を手に、胸を叩いて見せた。
別に大したことじゃないのに、胸を強調しているようで、少し引っかかるモノがある。
無意識に自分の胸元に視線を向けてしまった私は、引っかかりが消えるどころか何故か少しモヤモヤが大きくなった気がした。
「じゃあ、行きます」
東雲先輩はそう宣言すると、私と花ちゃんが四膳の箸を生み出している間に用意していたブルーシートの上に完全に横たわった。
肉眼では見えないと思っていたのだけど、林田先生が分離して、皆と同じように球魂が身体から分離するようになったからか、東雲先輩の胸から浮かび上がる球魂の姿が私にも見えるようになっている。
東雲先輩の球魂は迷いなく白い鳥居に向けて飛んで行った。
そこで、一つ閃いた私はリンリン様に向けてお願いをする。
「リンリン様! 東雲先輩がアチラから通り道を作った時、もしその先に『穢』がいたら、魔除けのすずを使ってくれる?」
私のお願いに対して『任せておくのじゃ。主様!』と返すなり、リンリン様は駆け出すと、白い鳥居の中へと飛び込んで行った。




