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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾漆章 作戦準備
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拾漆之拾肆 突入

「じゃあ、まずはこの指し棒を使います」

 まるで手品師か何かのように、取り出した指し棒を最大に伸ばすと、花ちゃんは「えい!」「と言いながら白い鳥居の柱と柱の間に突き入れた。

 まるで水の中に突き入れたかのように、柱と柱の間の空間には、指し棒を中心とした波紋が生じる。

 指し棒の指された中心部から遠ざかるに連れて波が小さくなるように広がる波紋は、柱や横木、地面に辿り着く前に消えていた。

 波自体は垂直方向か水平方向と違いはあるものの、水面に何か物を入れた時と変わらないので、あくまで、水中と空中を分ける水面のような境界という意味合いしかないのかもしれない。

 一応近づくのは危険かもしれないということで、ここでもドローンのカメラが役立った。

 ドローンカメラは、花ちゃんの背後から、白い鳥居から焦点をずらさずに、弧を描くように曲線上を動き反対側、そして更に回り込んでスタート地点へと戻る。

 タブレットでドローンが捉えた映像を確認すると、指し棒は鳥居の柱と横木、地面で形作られる平面を越える前に消失していた。

 反対側に回り込んだドローンが捉えた先の消えた指し棒は、断面が見えるわけでなく、白一色に塗りつぶされている。

 東雲先輩が横で見せたドローンの映像を確認した所で、花ちゃんは「それじゃあ引き戻しますね」と宣言したかと思った直後、一息で指し棒を引き抜いた。


「損傷は特になさそうですね」

 グッと引き戻した指し棒を力を込めてしならせた花ちゃんは、手を離して元に戻る様を確認しながらそう感想を漏らした。

 劣化とか無いというパールなのはわかるけど、そもそもの金属の棒を曲げられる花ちゃんがヤバすぎて思考が回らない。

 そんな私の目の前でシャコシャコと音を立てて、指し棒を縮めた花ちゃんは「伸縮機能にも問題は無いですね」と縮めた状態でクルクルと指を器用に操ってての上で回転させた。

 花ちゃんは突然ピタリと指し棒の回転を止めると「それじゃあ、本番行きましょう」とにこやかに言って、テーブルに置かれていたビデオカメラと指し棒を入れ替えて、ウキウキとした足取りで戻ってくる。

 そのまま手を突っ込みそうな勢いの花ちゃんに、志緒ちゃんが待ったを掛けた。

「あ、花ちゃん、忘れ物!」

 振り返った花ちゃんは、志緒ちゃんが駆け寄りながら渡してきた少し長めのコードを受け取りつつ「あ、そうですね、これ通信機能無いヤツでしたね」と、チロリと舌を出しながら受け取る。

 花ちゃんは、そのまま流れるような所作でカメラの蓋をスライドさせると、そこに出現したプラグに一瞬の迷いも無くコードを差し込んでいった。

 コードを接続した花ちゃんは、そのままビデオの電源を入れると志緒ちゃんに向けて「映像映ってる?」と言いながら何故かカメラのレンズを私に向けてくる。

 すると、志緒ちゃんから「リンちゃん、映像でも美少女だねー」という声が飛んできた。

 一気に全身が熱くなった私が「ちょ、ちょっとぉ!」と抗議の声を上げるも、そこから先に進展する前に東雲先輩の冷静な「花さん、これも使ってください」という声に阻まれてしまう。

 反射で立ち上がったまま、抗議することも出来なくなってしまった私の前で、東雲先輩は気にする様子もなく淡々と指し棒のように伸縮するカメラ用の自撮り棒を花ちゃんに手渡していた。

 今更どうしようもなく、大人しく椅子に座り直した私の前で「ありがと、まーちゃん」と口にしながら受け取った自撮り棒もこれまた慣れた手つきで、花ちゃんは取り付けてしまう。

 完全に存在をスルーされてしまった事実に小さなショックを受けていると、頭の上に居座るリンリン様の右前足がポンポンと頭に振り下ろされた。


「じゃあ、行きますね」

 花ちゃんは改めてそう宣言すると「了解です」と返した志緒ちゃんを始めとした皆が手近のタブレットに視線を向けた。

 そこに映し出されたカメラ映像は、花ちゃんの握る自撮り棒の先に取り付けられたカメラのモノである。

 ゆっくりとした動きで、白い鳥居の柱と柱の間に近づいていくカメラ映像に集中して間もなく、まるで水面に顔を付けた時のように、カメラに写る映像に乱れが生じた。

 だが、その乱れも一瞬で、タブレットには桃の花が咲き誇る美しい草原の姿が映し出される。

 舞花ちゃんと結花ちゃんから思わず「わぁ」という感嘆の声が上がった。

 それほど美しい光景だけど、私には見覚えがある。

 私が具現化した白い鳥居の繋がる神世界だからなのか、それは最初に神世界に足を踏み入れた時の『桃源郷』の姿だった。

 その事を皆に伝えた方が良いだろうかと考えている間に、東雲先輩が「花子さん、多少左右に動かして周囲を見渡すことは出来ますか?」と尋ねる。

「試してみますね」

 そう答えた花ちゃんはゆっくりとした動きで自撮り棒を動かした。

 伴って、タブレットの映像もリンクした動きで、桃源郷の光景を映し出す。

 ふと気になって視線を花ちゃんの操る自撮り棒の先へ向ける。

 白い鳥居の柱をくぐった先だけが消失していて、動きに合わせて消失していた部位が出現し反対は消えてという変化を繰り返していた。

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