拾漆之漆 制作開始
「ホント、信じてますからね」
しつこいと思われるのを承知で、東雲先輩から新たに受け取ったカードをリンリン様に向けた。
『わらわは主様を泣かせたりせぬわ』
そう切り返してきたリンリン様に、私は思わず「泣きませんよっ!」と声を荒げてしまう。
私の反応を見てクツクツと笑ったリンリン様は『それはそうよ。わらわは成功を収めるからの!』と事もなげに言い切って見せた。
『こういう未知に挑む場合はの、主様! 強気が勝利の鍵になると相場が決まっておるのじゃ! 今後のためにきっちり頭に叩き込んでおくとよいぞ!』
リンリン様の強気な言葉に偉そうにと思う。
それなのに、私は気付けば思ったのとは違う言葉を口にしていた。
「うん。心得る」
私の言葉にリンリン様はフッと笑う。
強気で獰猛な笑みなのに、僅かに漂う寂しさの様なものを感じて、リンリン様の言葉には辞世の様な、私に遺す意味もあるのだとわかってしまった。
そんなリンリン様の覚悟と生き様に、私はどう答えたらいいんだろうと必死に考える。
そして、私の能力が何に根ざしているかについて、今更ながら気付いた。
私の能力の根幹は『イメージ』である。
それは能力の方向性を決めるだけでなく、過程に条件変更を加えることで成功率を高める……つまり、成功率ですらコントロール出来たのだ。
ならば、成功率など関係なく、私が出来ると思えば、失敗なんてしない。
リンリン様は自分が機械だから絶対とは言えないと言っていたけど、私の能力ならば、そうではないと気付いた。
私が100%失敗しないと、絶対に成功するのだと確信して能力を用いれば、成功以外の結果はない。
まさに、リンリン様が言っていたとおり、私はただ気弱にならず、出来るのだと信じ込んで強気に行けばいいのだ。
自分に言い聞かせるように、思い込めるように、何度も頭の中で繰り返してから、リンリン様に「準備は良いですか?」と声を掛ける。
『主様が良いのであれば、わらわはいつでも大丈夫じゃ』
リンリン様と頷き合った私は目を閉じて手にしたカードに改めて意識を集中挿せた。
目標とするのは『穢』を寄せ付けない道具だ。
神世界をトンネルとして、那美ちゃんに追いつけたとして、そこで『穢』に襲われてしまっては意味が無い。
だからこその身を守るための道具だけど、これまで試作された道具では成功とは言えないようだ。
成功例が無いことの方かにも、重大な問題点がある。
私が具現化の能力で生み出す道具は、エネルギーを変換したモノではあるものの、物質化しているのだ。
つまり、球魂は携帯出来ない……のではと、思う。
神世界では新たな道具を普通に携帯出来ていたとして、トンネルを抜けた先で、こちらの世界に戻ってきた瞬間に球魂化して、持てなくなったら無防備な球魂の姿を晒すことになるのだ。
でも、リンリン様達がその身に結界用の道具を宿してくれるなら話が違ってくる。
自らの意思で動けるリンリン様達なら、球魂の姿を見れるレンズも付与してしまえば、完全に動きを合わせられる筈だ。
そう考えて、必要な魔除けの道具……と考えた時、頭に『鈴』が浮かぶ。
神道や仏教などで、魔除けや厄払いなどで使われる道具で、その高い清らかな音が場を清め、荒ぶるモノを鎮めると聞いたことがあったのだ。
この魔除けの鈴ならばいけると思うことが出来た私は、早速、カードに変化を命じる。
だが、直前の感覚に反して、エネルギー球へと変化をしたカードは、その先、鈴への変化をする手前でピタリと変化を止めてしまった。
「し、東雲先輩」
想定外の状況の変化に、私は思わず知恵を借りたくて、東雲先輩を呼んでしまう。
だが、急な呼びかけだったのにも拘わらず、東雲先輩は落ち着いた口ぶりで「どうした?」と問うてきた。
私のどうようっぷりがバレてしまうのは少し情けなかったが、変化が止まってしまったという現状を伝えて、素直に解決する方法はないだろうかと相談してみる。
「単純に、エネルギー不足かもしれないな」
私の相談にそう結論づけた東雲先輩は「とりあえず、追加してみよう」と言って私の手に薄い上条の物……恐らく新たなカードを手渡してきた。
一枚でダメなら、二枚、三枚と枚数を増やすという追加の説明に「なるほど」と返しつつ、頭の中の私の姿と新たに現れた東雲先輩の姿を参考にしつつ、向かい合う両掌を向かい合わせた体勢のまま、右手の親指と人差し指の間にカードを入れて貰って受け取ることにする。
「いいぞ」
東雲先輩の言葉を切っ掛けに、私が親指を動かしてカードを掴んだ直後、カードはその実態を失った。
瞬時にエネルギーと化したカードはそのまま、両掌の間のエネルギー球に吸い込まれて融合してしまう。
一瞬の出来事ではあったものの、カードの消失を目撃した東雲先輩は「どうだ、凛花。足りそうか?」と新たなカードを取り出しながら尋ねていた。
「ちょっと待ってください」
そう返すとエネルギーに魔除けの鈴への変化が起こるかを確かめてみたのだけど、変わらず変化が起きる気配がしない。
「まだ、変化は起きませんね」
私がそう報告をあげると、東雲先輩は「それじゃあ、もう一枚だな」と口にしつつ、新たな一枚を私の右手の親指と人差し指の間に滑り込ませてきた。




