拾陸之肆拾 追加
「違っていたら……それは、言って貰った方が良いな」
緊張しながら待っていた東雲先輩の返事は拍子抜けする程普通だった。
けど、その後、東雲先輩が「いや待てよ」と口にする。
その瞬間、何か空気と言うか、流れが変わったのを感じて、何かが起こりそうな不穏な空気を感じて、体が硬直し始めた。
「凛花」
「は、はい!?」
体が硬直し始めたタイミングで声を掛けられたのもあって、意図せず声が裏返ってしまう。
そんな私を見て、東雲先輩は少し考える素振りを見せた。
どうしたんだろうと思いながら見ていると「ちゃんと説明した方が良いか」と東雲先輩は呟く。
こちらへと視線を向けた東雲先輩は「凛華、今からエネルギーを送るが、まずは自らやってみたいと思う」と言い出した。
「水って、舞花が送ったエネルギーだよね!?」
私が東雲先輩に返すよりも早く、舞花ちゃんが話に割って入ってくる。
自分のエネルギーの係わる事だったので、黙ってみていられなかったようだ。
そんな前のめりに割って入ってきた舞花ちゃんに対して、東雲先輩は「試したいことがあるんだ」と言う。
自分の言葉で、舞花ちゃんが聞く姿勢になったのを確認してから、東雲先輩は続きを口にした。
「まず、凛花の感覚では、水行のエネルギーは十分だと認識している。そこで、更なるエネルギーを送ったらどうなるか、舞花ではなく、別の人間、つまり俺が送った場合も蓄積されるのか、それとも弾かれるのか、それを確かめてみたい」
東雲先輩の話に頷いていた志緒ちゃんは「……つまり、上限に達していてもエネルギーを足せるのかってことと、最初の人とは別お人が同じ属性のエネルギーを送り込んだ場合どうなるかを知りたいってことね?」と首を傾げながら尋ねる。
それに対して、小さく頷いた東雲先輩は「そういうことだ」と同意した。
「ただ、前半部分については、志緒が手間取ってくれたおかげで、ちゃんと蓄積されるのは確認できているがな」
東雲先輩はそう言って私に視線を向ける。
視線を向けられて、一瞬固まってしまったものの、どうにか「確かに、青緑のグラフだけチョコッと背が高いです」と返すことに成功した。
東雲先輩は、私の言葉を聞いた後pで志緒ちゃんに視線を戻し「な?」と言い放つ。
無ぅと言いながら膨れる志緒ちゃんに、私には後頭部しか見えていない東雲先輩がどんな表情を見せているかが気になって、少しもやっとした気持ちになった。
「それじゃあ、行くぞ、凛花」
「は、はい」
私がそう答えた直後、あの冷水に水を浸したような感触が右手に走った。
「た、体感では、舞花ちゃんの時と同じように水のエネルギーを送られてる感覚があります」
東雲先輩は私の報告を聞いた上で「グラフへの影響はどうだ?」と聞いてくる。
「ちょっと待ってください」
そう伝えてから、頭の中のグラフに意識を向けると、そこに変化が起きていないことがわかった。
「どうやらグラフは変化が無いみたいです。新しいグラフが出たりもしていません」
私の報告に対して、東雲先輩は「フム」と呟き、直後、右手に感じていた冷水のような感覚が消える。
「既に舞花が送った水行のエネルギーに、俺の送った水行のエネルギーを継ぎ足すことは出来ないみたいだな」
「そうですね! 私もそう思います」
東雲先輩に私が同意したところで、舞花ちゃんが「舞花の時と同じような感覚だったなら、まーちゃんが送ったエネルギーってどうなっちゃったんだろうね?」と疑問を口にした。
「確かに、気になりますね」
思わず同意してしまったのは、東雲先輩の送ってくれたエネルギーが入り込んできた感覚はあるのに、グラフには反映されなかった上に、右手だとか左手だとか、ここにあるぞっていう感覚が無いカラに他ならない。
つまり、東雲先輩のエネルギーは私の中で行方不明になっているのだ。
「あれじゃないの? 食べ物と一緒で消化吸収したみたいな」
結花ちゃんの考えに、私は「なるほど」と頷く。
正直、これだと言えるものが無いので、そういう考え方もあるかという程度の認識だったが、花ちゃんからするとその程度で済ませていい話ではなかった。
「リンちゃんはわかってなさそうですけど、人から貰ったエネルギーを自分のものに出来なんてとんでもないことなんですからね!?」
あまりの剣幕に、気圧されながら「そ、そうなんですか!?」と返す。
しきりに瞬きを繰り返す私をジッと見てから、花ちゃんは「そうでした、相手はリンちゃんでした」と大きな溜め息を吐き出した。
なんだかものスゴく引っかかる反応だったけど、花ちゃんの「いいですか? これまでエネルギーを他者から受け取れる人は何人かいましたし、そういう能力を持っている人もいました。但し、それはあくまでストックなんです。場所を貸してるだけで、他のものに加工出来ないんです。でも、もし、結花ちゃんの吸収したという仮説が正しかったとしたら、リンちゃんは誰かのエネルギーを自分のエネルギーとして取り入れられる……つまりストックではなくて、材料の入荷に近いって事なんですよ」という話を聞くとそれも仕方ないかと思ってしまう。
私は困惑しながらも「でも、未だ吸収したと決まったわけじゃないので……」と言うのが精一杯だった。




