拾陸之参拾参 触発
花ちゃんの言う『リンちゃんだけじゃない』という言葉の意味がわからず、私は「え?」と疑問の声を上げていた。
すると、花ちゃんはクスクスと笑ってから、部屋の中を振り返る。
そこから現れたのは、舞花ちゃん、結花ちゃん、志緒ちゃん、そして東雲先輩だった。
「み、みんな」
精神的に打ちのめされていたのもあってか、皆の顔を見ただけで泣き出しそうになってしまったが、流石に無様な姿を見せられないという気持ちで、私はどうにか踏み止まることに成功する。
油断したら泣き出してしまいそうな不安定な精神状態で「どうしてここに?」と、可能な限り普段通りを意識して、私は皆に問い掛けた。
「もちろん、作戦を立てるためだよ!」
即答で返ってきた舞花さんの言葉に、私は思わず「え?」と声を漏らす。
「作戦……ですか?」
何か新しいことを始めるつもりなんだろうかと思いながら聞くと、結花ちゃんが「なっちゃん救出作戦よ」と言い切った。
「なっちゃん……て、お、覚えてるんですか!?」
思わず驚いた私に、東雲先輩は「いや、忘れていたぞ」と真顔で返してくる。
「それじゃ、え? どういう?」
混乱する私を前に、東雲先輩の脇腹をつきながら志緒ちゃんが「ちょっと、まーちゃん、説明が足りなすぎだから」と指摘した。
「す、すまん、凛花」
志緒ちゃんに指摘されてすぐに謝罪してくれたのは嬉しいんだけど、私の頭の理解が追いついて無くて「え、あ、はい」と辿々しい返しになってしまう。
上手く反応出来なかったことで、そのまま落ち込みそうになる私の肩を急にバンと強烈な衝撃が襲った。
「わぁ!」
思わず声を上げてしまった私は、肩に衝撃をもたらした手の主である志緒ちゃんを見る。
「簡単に言うと、私たちの体は忘れてたんだけど、神格姿……球魂は覚えてたんだ、なっちゃん……三峯那美ちゃんのこと」
軽く笑みを浮かべて言う志緒ちゃんの言葉で、球魂になったことで私にも蘇る記憶があったことを思いだした。
「脳に刻まれた記憶は上書き出来ても、魂に刻まれた絆は上書き出来ないってワケね」
もの凄く生き生きと志緒ちゃんは胸を張って言う。
その横で、花ちゃんが「私は……」と手を挙げた。
花ちゃんを見ながら思い出したのは、雪子学校長も月子先生も記憶を消されていたこと、そして、記憶を取り戻すために体の時間を戻すという荒技をしたという事実である。
そして、球魂を出現させられるのは、大人になっていない子供限定である以上、大人である花ちゃんは記憶を思い出す手が無いということだ。
てっきりその事を言うのかと思ったのだけど「このディスク達で思い出してますよ!」と日付の刻まれた複数枚の光ディスクを手に笑みを深める。
花ちゃんの可愛らしい丸文字で『みんなのきろく』と書かれているけど、微妙に邪な気配を感じた私は「なるほど」と頷くに止めて、それ以上踏み込まないことにした。
「それじゃあ、作戦会議だね!」
改めてそう舞花ちゃんが宣言したのだけど、私は水を差すのは悪いと思いながらも、状況は私たちが手を出せない状態になっていることを伝えた。
「つまり、雪ちゃん先生達が既に向かってて、リンちゃん……というか、私たち皆は身を守れないから迎えないってことね?」
私の説明を受けて、結花ちゃんが確認してくる。
全てはその通りなので、私は「はい」と頷いた。
すると、舞花ちゃんが「じゃあ、どうやったら追い掛けられるか考えよう!」と言い出す。
「ちょっと待って、危険だから、私……私たちは月子先生に……」
そこまで言った私の肩をポンと叩いて、舞花ちゃんは「だから、危なくない方法を考えれば良いんだよ! ね、花ちゃん?」と花ちゃんに笑いかけた。
花ちゃんも苦笑しながらも「まあ、危険が無いなら止める理由はないですね」と頷く。
そのタイミングで志緒ちゃんが「あれ、リンちゃん。一つ駄目だからって諦めちゃってるの?」と挑発するような口ぶりで尋ねてきた。
志緒ちゃんのその言葉を聞いた瞬間、私の頬は諦めていた自分への怒りと恥ずかしさで燃えるように熱くなる。
同時に、視界がじわりと溢れた涙でにじみ出した。
でも、心の中は燃え上がっている。
目に浮かんだ涙を拭い去って「そうだね! もう時間が無いわけじゃ無いのに、諦めるのは早いよね!」と口にした私を待っていたのは、皆の笑顔と頷きだった。
心強いと思うと共に、皆となら、なんとか出来る気がしてくる。
「なっちゃんを助けたいのは皆一緒だし、皆で考えれば、一人じゃ思い付かない方法を思い付くかもしれないわ」
結花ちゃんの言葉に、私は大きく頷いた。
「能力で言えば、凛花が一番汎用性が高いが、オレ達だって能力を持っている。連携させればこれまでなかった方法を生み出せるかもしれない」
東雲先輩に「確かにその通りだと思います」と同意する。
「じゃあ、早く考えよう!」
改めてそう声を掛けてくれた舞花ちゃんに頷きつつ、言わなければいけないことを私は口にした。
「先に言っておかないといけないことだけど……実は私の能力……」




