拾陸之参拾 結論
「おおよそ、那美ちゃんの行動の予測も立てられそうですね」
私の言葉に、月子先生は頷きつつ「まず間違いなく『黒境消失事件』で神世界に取り残されてしまったかつての教え子達の球魂を取り戻すことだと思う」とはっきりと明言した。
それに意を唱えるモノはいない。
むしろ、私たちの誰もがそれしか無いと思っていた。
そんな中で雪子学校長が月子先生に「それで、球魂が戻らなかった子達は今どこに?」と問い掛ける。
月子先生は躊躇うように少しの時間を挟んだ後で、重い口調で「外局の地下病院施設です」と答えた。
口にした月子先生も、その場所の名前を聞いた雪子学校長も表情がかなり険しい。
それだけで、まともな施設もしくは状況じゃないだろう予測がついてしまった。
きっと那美ちゃんもその事を知っているんじゃないかと思う。
自分だったら、良くない状況に教え子がいれば、間違いなくどうにかしたいと思うだろうし、那美ちゃんはその思いが強くなりすぎて行動に踏み切ってしまったんだと思うと、私の中からは否定的な気持ちはなくなってしまった。
今、いろいろと考えることはあると思うけど、私はその中で一番大事なのは那美ちゃんの所在だと思った。
だからこそ、二人の意見を聞くために「あ、あの、それじゃあ、那美ちゃんはその施設に?」と話を振ってみる。
これに対して、月子先生は「いや」と軽く首を振って否定した。
「理由は人数だ……『黒境』関連の学校の構成メンバーは基本的に4人を最小編成にしている」
月子先生の補足に、雪子学校長は「該当の施設の球魂の喪失者は?」と尋ねる。
「5人……記録上は」
敢えて強調していったのは、月子先生が自らの目で確認したことではなく、資料で知る範囲の話ということなのだと、私は理解した。
那美ちゃんのような当事者だけが知る情報や、意図的に隠蔽されている情報があってもおかしくないと、現時点では私にもわかる。
「施設がないとすると、やはり元の所在地か……」
今のやりとりだけで雪子学校長は納得してしまったらしく話を進めようとするが、ここで流してしまうとわからないまま、結局足を引っ張りかねないので、話の腰を折ってしまうことを自覚しながらも質問を挟んだ。
「あ、あの、その……なんで、施設がないって結論に?」
私の問いに、月子先生は視線を雪子学校長に視線を向ける。
雪子学校長は苦笑して「少し急いてしまったようだ」と言った後で、私に真っ直ぐ視線を向けた。
「五人の人間を助け……連れ出したとして、命を繋ぎながら……生かしながら艶福するのはかなり難易度が高いだろう?」
「……はい」
言われてみれば確かにその通りで、連れ出すリスクの高さはかなり大きい。
同時に、那美ちゃんはそれなりに冷静だと二人が考えているのがわかった気がした。
「それに、だね……そもそも神格姿……球魂を回収しなければ、子供達は目覚めることはない……そうなると彼女の優先は、球魂の救出ということになると私は考えているわけだ」
「なるほど」
「ただ……強硬手段をとっている以上、相当焦れているだろうがね」
そこまで口にした雪子学校長は、苦虫をかみつぶしたような顔で溜め息を吐き出す。
那美ちゃんがそこまで自分を追い詰めていたことを察知出来ていなかったことを悔いているんだろうというのが、その苦い顔からなんとなく伝わってきた。
自分の質問がそんな後悔でいっぱいの雪子学校長の気持ちをより抉ってしまうのじゃないかと思ったものの、聞かないわけにはいかないという思いで、私は問い掛ける。
「何故、いまなんでしょうか……?」
正直、私の中ではまるで推測が立っていなかった。
だからこそ、二人がどう考えているのかが知りたい。
「彼女が全ての能力を開示しているかはわからないから、まるで見当違いな考えをしている可能性はあるが……凛花さんの進化のスピードが、想定よりも遙かに早いと感じたのかもしれない」
「私の?」
聞き返した私に頷いた月子先生は「君は彼女が行動を起こした時には、既に自身がかつて神様を生み出しかけた経緯を辿っていることを知っていた……その上で、神の力が暴走しないように……より正確に結えば、想像の力を制御下に置けるように自分の能力を調整しだしていた……ゆえに、制御する能力を凛花さんが獲得する前に想像の力を手にしようとしたんじゃないかと、私は考えている」と自分の考えを示してくれた。
月子先生の考えは、十分に納得出来るモノだったようで、雪子学校長は「確かに『創造』の力に枷がついてしまえば、望む形に力を使うのは難しくなる……彼女としても掛けだが、制御された後の段階よりも現段階の方が目が良いと判断した可能性は大いにあり得るな」と深く頷く。
全員が頷いたところで会話は止まり、一瞬の沈黙が訪れた。
それを雪子学校長が破る。
「いずれにせよ、彼女の目的地は、ここで決まりだな」
地図上の人口ダム湖を指さしながらいう雪子学校長に、私たちはほぼ同時に頷いた。




