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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾陸章 急転直下
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拾陸之弐拾伍 巻戻し

「それじゃあ、何かあれば花子に連絡を頼む」

 真剣な表情で雪子学校長に言われた私は無言で頷いた。

 任せて貰った役目は決して小さいモノではないと認識している。

 というのも現状、記憶を操作された可能性に気付いているのは現状、私、雪子学校長、月子先生の三人しか確認していないからだ。

 記憶を再取得するために体の状態、脳の蓄積も含めて巻き戻すこと自体は、件の『那美ちゃん』で雪子学校長は成功させている。

 けど、雪子学校長は今『那美ちゃん』に関わる記憶を消されている、あるいは上書きされている状態なのだ。

 つまり、今の雪子学校長としては、体だけでなく、脳の状態を含めて巻き戻す感覚は残っていないらしい。

 そんな状態での能力の行使はかなり危険性が高いし、一応紙媒体の資料もあるので、私は一度考えを改めないかと提案してみた。

 けど、月子先生は紙資料の存在を那美ちゃんが知らない前提で話を進めていたけど、知った上で改竄(かいざん)されている可能性がゼロではないことを挙げたのである。

 何よりも信用出来るのは、操作される前の過去の自分の記憶だと断言されてしまった。

 加えて、月子先生は緊急性が高いとも考えている。

 オリジンを通して記録されている情報から、私の入浴開始時刻から今こうしている間におよそ二時間が経過していた。

 デジタル情報も改善出来ているので、そもそも入浴時間自体が改竄されている可能性もあるものの、月子先生達が意識を失っていた私を発見してからこれまでの時間が同程度なので、ズレは無いだろうとした上で、那美ちゃんが強硬手段に踏み込んだことで、かなり精神的に追い詰められていて、そこから考えると二時間はかなり危険だということらしい。

 生徒である那美ちゃんが危険を冒している以上、大人であり教師で在る自分が危険を冒さないわけにはいかないと言われ、押し切られてしまった。

 説得が難しいなら、私のやるべき事はちゃんと見届けて、何かあった時に自分の役割を全うするしかない。

 その覚悟で二人を見守ると誓った。


「凛花さん」

 急に名前を呼ばれて驚いたけど、私はどうにか「なんですか、月子先生?」と返すことが出来た。

 少し間を開けてから、月子先生は「いろいろ押し付けてしまって悪いね」と続ける。

「なんでこのタイミングで言うんですか?」

 思わず返した自分の声は大分不機嫌だった。

 月子先生は「一応、謝罪しておいた方が良いかなと思ってね……仕方が無いとはいえ、ね」と言う。

 その言葉の裏に何かあった時に後悔しないようにという意味合いも含んでいるのが感じられて、追求出来なかった。

 私の口は気付くと「ズルイです」と呟く。

 対して月子先生は「大人なモノでね」と軽口で切り返してきた。

 その返しに思わずムキになって、私は「私も大人なんですけど!」と口走ってしまう。

 月子先生はそのタイミングで私に振り返ると「もちろん知っているさ。だから、私に何かあったら雪子姉さんと花子を支えてやってくれ」と真っ直ぐな目で言った。


 真剣な目の月子先生の言葉に上手く返せずに黙っていると「二人の邪魔するのは、忍びないんだが、施術には言って良いだろうか?」と雪子学校長が声を掛けてきた。

 心臓が爆発しそうな程跳ねて動揺してしまった私と違って、月子先生は何事もなかったかのように「もちろんだ、雪姉。早速お願いするよ」と口にして、応接セットのソファの前に立つ。

 直後、月子先生の姿が子供の姿に変わった。

 月子先生は自分の体の感覚を確かめた後で、ソファに片手をついて軽く飛び込むようにして素早く寝転ぶ。

 そのまま大人用のソファの肘掛けに頭を乗せようとした月子先生だったものの、今の姿では少し高かったようで、むくりと起き上がると、学校長室に備え付けられているキャビネットの一つからずるずるとブランケットを取り出して丸めると、それを枕代わりにして寝転び直した。

 淀みない動きだった事に驚くと共に、月子先生らしいと思った私は苦笑しつつ、学校長室の入口付近まで下がる。

 月子先生も雪子学校長も無いとは言っていたモノの、巻戻しの能力に何らかの罠を仕掛けられた可能性も考えられるので、距離を取ることを厳命されたのだ。

 私も万が一を考える二人の考えに、同意していたので、いつでも室外へと退避出来る準備をして、雪子学校長に準備完了の合図として頷いてみせる。

 私に頷きで応えた雪子学校長は「まずは情報を得て、迷っている生徒を救えるよう、全力を尽くそう」と口にした。

「もちろんだよ。雪子姉さん。全力を尽くす」

 月子先生の言葉は、体が子供の姿になったせいか普段よりも高く幼く聞こえる。

 そんなことを思ったせいか、私は無意識に笑っていたらしく、月子先生に「何かおかしな事でも暖かい?」と笑っていたことを指摘されてしまった。

 一瞬、どう返そうかと考えたモノの、飾る必要も無いなと思い「いや、皆大人の筈なのに、容姿が大人な人がいないなと思って」と告げる。

 すると、月子先生は「この緊迫した状況でそんなことを考えるゆとりのある君がいると、とても頼もしく感じるね」と褒め言葉K皮肉かわからない言葉を返されてしまった。

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