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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾陸章 急転直下
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拾陸之弐拾弐 隠蔽

 薄らと目を開くと、視線の先にはどこかの天井が見えた。

 ぼんやりした思考のままで、その天井がどこのモノだったか考え始める。

 そのタイミングで「凛花さん」と声を掛けられた。

 掛けられた声が月子先生のモノだと気付くと共に、ぼんやりしていた頭が急速に回転を始める。

 周りの様子から自分が寝かされているのは保健室だと認識した上で更に周りを見渡せば、月子先生だけでなく、雪子学校長の姿もあった。

 学校の重要人物である二人が揃っている時点で、かなり深刻な状況なのではないかと思う。

「月子先生、雪子学校長」

 私が二人の名前を呼ぶと、雪子学校長は真剣な表情を浮かべたままで「体調におかしなところはないかね?」と問うてきた。

 軽く体の各所を動かしてから「多分大丈夫だと思います」と返す。

 それを聞いてようやく安心したのか、雪子学校長は大きな溜め息を吐き出すと共に表情を和らげた。

 私の無事に安堵してくれた様子の雪子学校長に変わって、月子先生が「ところで、君は自分の状況を把握出来ているか?」と問うてくる。

 その質問に記憶を辿りながら「確か……お風呂で……湯船の中で意識を無くして……」と自分の身に起きた事を声に出した。

 対して月子先生は、真剣な表情で「いや、君は脱衣場の床の上で倒れていた……少なくとも湯船の中じゃない」と言う。

 記憶との食い違いに、私は「そんなはずは……」と口にしたところで、頭に閃くモノがあった。

「もしかして、湯船から移動させて貰った……ん、ですか?」

 私自身、意識を失った記憶は鮮明なので、無意識にお風呂を出て脱衣場に移動するというのは出来そうにない。

 そう考えると、誰かが私を運んでくれたと考えるのが自然だと思った。

 けど、私の意見に対して雪子学校長と顔を見合わせた月子先生は、改めてこちらに視線を向けると「誰かというのは、誰だい?」と尋ねてくる。

 私は即座に応えようとしたのに「それは、彼女……いえ、あれ?」と話の途中で、浮かべていたはずの誰かのことがかき消えてしまって、名指しすることが出来なくなってしまった。

 よく知っているはず……よく知っていたはずなのに、その名前も容姿も思い出せない。

 なんとも形容しがたい不気味さに、気付けば私は体を震わせてしまっていた。


「現状わかっているのは君が脱衣場で倒れていて、それを我々はオリジンからの報告で知って駆けつけた」

 改めて状況確認をする月子先生の言葉に、理解した旨を伝えるために深く頷いた。

「だが、卯木さんは浴槽の中で意識を失った記憶があり、状況的に自分でだ\津以上まで移動していないと考えているわけだね?」

 続く、雪子学校長の言葉に私は頷きで応える。

「そして、問題は君を脱衣所に運んだ第三者がいる。君もそれは確信しているが、我々の誰一人としてその人物に予測が立てられない」

 そこが一番気持ちの悪いところだった。

 確かに知っているはずなのに、ペンキか何かで塗りつぶされてしまったかのように、その人物の情報が思い出せない。

 その事で、私の中で不安がドンドン増していき、気付けば肩を出して震えていた。

 月子先生はそんな私の肩に手を置くと「現状考えられる可能性は、そもそもそんな人物はいない。もしくは『種』の様な超常の存在である……そして、精神操作系の能力で我々の記憶が弄られている可能性だ」と断言する。

 その話し方と表情から、月子先生が三番目の可能性を最有力視していることが伝わってきた。

 私の肌感覚でも、間違いないと思う。

「……でも、そんなことあり得るんですか?」

 可能性は高いと思いながらも、荒唐無稽な内容に私は思わずそう尋ねていた。

 対して月子先生は「あり得る……問題はそれがどの程度のモノかということと、その目的だ」と表情を強張らせる。

 少なくともこの場の三人は記憶を塗りつぶされている以上、精神操作系に強い月子先生を上回る能力を持っているのは確定していた。

 そんなに強い能力を持つ人間が、何故記憶を塗りつぶしていったのか、まるで見当がつかない。

 そもそも、何故湯船で私を気絶させた上で、わざわざ脱衣所に移動させたのかも理解出来なかった。


「卯木くん……改めて聞くが、身体に異常は無いかね?」

 考えが先に進まず、全員で沈黙することになってしばらく、雪子学校長が不意にそう尋ねてきた。

「異常……ですか?」

 そう答えながら私は無意識に手首に触れる。

 途端に強い違和感が私の中で膨れ上がった。

 身に付けていた何かがなくなっている。

 そこに思い至った時、私は無意識に「ふういん」と口にしていた。

 たった一言だけど、それを切っ掛けに、私の頭の中で映像が蘇る。

 ずっと手首に巻いていたブレスレットが失われていること、そしてそれを自分が『封印のブレスレット』と呼んでいたこと、更には抜き取られて湯船の中に放り投げられた光景までもが頭の中で再生された。

「そうだ!」

 思わずそう口走った私に月子先生と雪子学校長の視線が向く。

「『封印のブレスレット』をしていたんです。それで、私はそれを外されて……それで……」

 蘇った過去の映像に背中を押されて、私は気付けばそうまくし立てていた。

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