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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾陸章 急転直下
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拾陸之弐拾 想定外

 精神操作を受け付けなくなる道具を生み出すのは、正直簡単ではなかった。

 やりたいことは明確なのに、内容が概念的というか、こうすれば良いというものが無くて、上手く形にならない。

 行き詰まってしまって、唸っていると、月子先生に休憩を促された。


「苦戦をしている君を見るのも、なんだか珍しい気がするね」

 コップに注いだお茶をこちらに差し出しながら、苦笑気味に言う月子先生に、私は上手くいかないモヤモヤを込めて、八つ当たり気味に「面白がらないでくださいよ」と返してしまった。

 月子先生は気にした様子も見せずに「今までの君が順調すぎたんだと考えを改めるべきだね」と言う。

「そもそも、新しい技術の開発が、君のやってきたようにポンポンと成立されては溜まったモノじゃないんだよ」

 人差し指で私のおでこを突きながら言う月子先生の口ぶりは、多少冗談が交じっているとはいえ、大分本気のようだ。

 ここで、客観的にこれまでを振り返れば、確かに月子先生の言うこともわからなくはない。

 私がそう考えたことを予測したのであろう月子先生が「思い当たることばかりだろう?」と言ってきた。

 思わず言葉に詰まったものの、ウソをつくのは違うと思って素直に頷く。

「……あります」

 月子先生は私の頭に手を乗せてガシガシと撫でながら「わかればいい。これまでが異常なんだから、一歩一歩条件を絞っていけば良い。本来君はそういう積み重ねていく方が得意だろ?」と、手の荒さとは反対の柔らかい声で尋ねてきた。

 完全に月子先生のペースなのは、仕方が無いことなんだろうけど、少し面白くない。

 なので、返答を控えていたのだけど、月子先生に「返す言葉に困ってだんまりとは、君もなかなかに可愛いじゃないか」と言われてしまって、頬から彼我でそうな程恥ずかしさで体が熱くなってしまった。


 結局、何度か試作をしてみようとは思ったものの、具体的な方法を思い付けず、月子先生のストップで今日の特訓というか能力開発は終わることになった。

 封印のブレスレットをほぼ常に付けているのもあって、アイデアが浮かんだ段階で、可能かどうかを肌感覚で感じることが出来ない。

 これも、進まない原因だろうとは思うけど、今はブレスレットを無闇に外すことの方が怖かった。

 月子先生も私のやり方で良いと言ってくれたし、不安を感じたままだと、それがイメージに悪影響を与えることになるとも思うので、精神的な影響を遮断出来るようになるまでは今のペースを保つことになると思う。

 そんなことを思いながら、いつも通り花ちゃんの部屋に向かい掛けて途中で引っ越したことを思いだした私は、慌てて新居へと行き先を改めた。


「あ、あれ」

 思わず声を出してしまったのは、私の部屋の前に那美ちゃんが立っていたからだ。

「那美ちゃん? どうして?」

 足早に駆け寄りながら、那美ちゃんにそう問い掛けると「そろそろ特訓が終わるかなと思って」と笑む。

「待っててくれたってことですか?」

 特訓の時間はざっくりと決まっているとはいえ、帰ってくる時間はマチマチなので驚きが強かった。

「そうだけど、先にお風呂に行きましょう? リンちゃん入るよね?」

 自分を抱きしめるように肩に手を回した那美ちゃんはかなり寒そうに見える。

 もうすぐ夏とは言え、山の上の学校の夜は想像以上に寒く、もしも私の帰りを待ってくれていたなら、相当に冷えていてもおかしくなかった。

「そ、そうだね。着替え取ってくるから少し待ってて」

 私はそう伝えて、部屋の中へと駆け込む。

 那美ちゃんが何故待っていたのかとか、どこか普段と様子が違うように見えることとか、聞きたいことはそれなりになったけど、まずは体を温めてあげなければと言う思いで私の頭の中はいっぱいだった。


 体を洗って湯船に身を浸した瞬間、じわりと体に入り込んでくる熱の温かさに、私は「ふぅ~」と長く息を吐き出した。

 先にお湯に浸かって貰った那美ちゃんも、頬にほんのりと赤みが差して、心地よさそうに見える。

 廊下では唇の色が良くなかったので、それだけでも安心出来た。

 お互いお湯の熱で体が緩んだのを確認した所で、私は意を決して話を切り出す。

「あの、那美ちゃん?」

 お湯を掬い上げて、自分の腕を伝うように零しながら、チャポチャポと水音を立てる那美ちゃんは「なぁに?」と返してきた。

 いつもよりも大人っぽく感じる仕草と表情に、言葉に詰まってしまったモノの、頭を軽く左右に振って、気持ちを立て直す。

「その、なんで、私を待っていたん……ですか?」

 私の問いに那美ちゃんはお湯をもて麻生分手を止めて、グッとこちらに顔を寄せてきた。

「なんでだと思う?」

 目の前で首を傾げる那美ちゃんに思わず見蕩れてしまったせいで、私はなにも言えなくなってしまう。

 こちらの考えていることは筒抜けなので、固まった理由も伝わってしまった。

 それを証明するように那美ちゃんは、クスクスと笑いながら「見蕩れたなんて、照れるわ」と笑む。

 普段よりも更に色っぽく見える那美ちゃんに翻弄されながら体が火照るのを感じて、私はなにも言えなくなってしまった。

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