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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之拾捌 切っ掛け

 助けを求めた東雲先輩の思いがけない返しに、思考停止した私は、その後しばらく抱きぐるみ状態で、皆にハグされることになった。

 前日までの花子さんがスキンシップ多めだったお陰で、動揺したりはしなかったが、自分からは辞めるようにとは言いにくい。

 とりあえず、皆が飽きるまでと思っていたが、何故か花子さんがハグに参加したことで、雪子学校長の雷が落ちた。

 なし崩し的に、ハグ大会は終わりを迎えたので、花子さんはこれを見越して動いてくれたんだろうと、()()()()()()()する。

 その上で、私は花子さんに仕上げて貰ったくじを手に、席替えを改めて仕切り直した。

「それじゃあ、席替えを始めます!」

 宣言をしたところで、私が仕切っても良い物かと思ったけど、雪子学校長も花子さんも何も言わなかったし、クラスの皆もワクワクした表情を見せてくれたので、このまま奨めることにする。

「今回は初めての席替えなので、ジャンケンで勝った人からにしましょう!」

 順番を決めるのにはいろいろあるとは思うけど、私はわかりやすくジャンケンで決めることにした。

 これに対して、皆は右の拳を突き出して、すぐに臨戦態勢を取る。

「じゃあ、行きますよ?」

 皆が頷いたのを確認してから、私は早速「ジャーンケーーン」と音頭を取った。


 ジャンケンは壮絶なアイコの応酬となった結花さんと舞花さんの二位決定戦が一番盛り上がった。

 するっと一人勝ちした那美さんが一番、次に決戦を制した舞花さん、結花さん、東雲先輩、私、最後に志緒さんという順番になる。

 一応、仕切っていたし、見た目はともかく中身は大人なので、私は順番を譲ると志緒さんに申し出たのだが「そういうのはしちゃ駄目だよ!」と叱られてしまった。

 志緒さんの方がどう考えても正論なので、私は素直に目を見て謝ってから「ちゃんと正論が言える志緒さんは、正義感が強くて、かっこいいと思う」と素直な気持ちを伝えておく。

 嘘偽りの無い、本心の言葉だったので、志緒さんにはちゃんと私の尊敬の念が伝わったはずだ。

 そんな一幕を挟んで、いよいよ席決めとなる。

 くじ作りは花子さんに手伝って貰ったので、雪子学校長に頼んで、先ほど書いた黒板の座駅表に1~6までの数字を適当に書き込んで貰った。

 これとこの後引くくじの番号を組み合わせて席が決まる方式である。

 ちなみに、雪子学校長は左上から右へ、続いて二段目も左から右へ数字を並べていくだろうと思ったら、教壇の前を1、教壇に向けて二列目左を2という具合にランダムに配置していった。

 未だ、誰がどの席番号を引くかわからないのもあって、ランダムに数字が書かれただけで、ワクワクが増してくる。

 今まで何度も席替えをしてきた志緒さんですらそうなのだから、初めての舞花さんや結花さんは目をキラキラと輝かせていた。

 些細なイベントとはいえ、皆が心を躍らせる姿から、楽しんでくれているのだと実感出来て、提案して良かったと心から思える。

 そんな事を考えていると、スッと右手を真っ直ぐ天井に向けて伸ばした那美さんが目を閉じた。

 何をするんだろうと思っていると、那美さんの体から半透明の那美さんが出て来る。

 それが何か、私が理解するよりも早く、舞花さんが「あ、『神格姿』!」と指さし、結花さんが「ズルする気だ!」と指摘した。

 二人の指摘で、そういえば、子供は大人と違って、体から『神格姿』が分離するのだったと思い出す。

 肉体そのものが『神格姿』な私は、子供達と同じような肉体の分離は出来無いため、皆と神世界に挑む前には、何らかの手段を確立しなければならないと、改めて認識した。

 一方、舞花さんと結花さんは文句を口にしながら、那美さんを揺すり、志緒さんも輪に加わって注意をしている。

 本当に正義感が強いのだなと微笑ましく見ていると、東雲先輩が私の横に来て「見えているのか?」と尋ねてきた。

 その問いに「那美さんの『神格姿』ですか?」と返すと、東雲先輩は目を丸くした。

「凛花も……あっちのことを知っているのか?」

 東雲先輩にそう尋ねられて、私は心臓が大きく跳ねるのを感じる。

 それも、私が『神格姿』や『神世界』のことを知ってると伝わってしまったのは失敗だったかもしれないという自分の失言の可能性よりも、名前を呼び捨てにされたことの方がウェイトが大きかった。

「な、なまえ……」

 動揺の余り、私は何も考えずに、そう口にしまう。

 対して、目の前の東雲先輩がわかりやすく動揺した。

「う、卯木の方が良かったか? 皆名前で呼んで欲しいと言ってるから、その……つい……」

 バツが悪そうに、志緒の目先輩は表情を渋くしたで、私は慌てて左右に首を振る。

「び、吃驚しただけで……嫌じゃ無いよ?」

「……なら……凛花でいいか?」

「う、うん」

 東雲先輩がなんだか照れて見えるので、私もとても恥ずかしくなってしまった。

 そして、俯いてしまった私の鷹に東雲先輩の手が置かれて、思わずピクリと肩だが震える。

 顔を上げると、真剣な眼差しの東雲先輩がいた。

「凛花も、皆も、オレが命懸けで護る。だから安心して……いい」

 とても力強い言葉からは、東雲先輩の本気度が強く伝わってくる。

 そんな東雲先輩の決意と覚悟が、私に想起させたのは、初めて黒境の間で見た腕を失ってしまった姿だった。

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