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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾陸章 急転直下
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拾陸之玖 食堂へ

「それで、私たちも上がってもいい……の、かな?」

 明らかに部屋の奥が見えないように、私の前を塞いでいる志緒ちゃん、舞花ちゃん、結花ちゃんの三人に尋ねてみた。

「あー、そうね……未だ飾り付け終わってないから、花ちゃん手伝ってきて!!」

 なんだか怪しい態度の志緒ちゃんが目を泳がせながら言う。

 未だ隠し種があるんだろうなと思うと、敢えて指摘するのも無粋だなと思って、私は「わかった」と頷いた。

 山奥の少人数の寮生活、入寮というか入室がこうしてパーティー扱いになるくらいに娯楽は少ないんだと思う。

 そう考えると、わざわざ頑張っている皆の想定を壊すような動きをするのは大人げないし、全くもって意味が無い事だなと思った。

 私の新しい部屋の入口のポーチで踵を返したところで、和タシッを見る東雲先輩と視線が交わる。

 もしかして、東雲先輩もなにか担当があるのかもと思った私は「東雲先輩はどうしますか?」と尋ねてみた。

 東雲先輩は「志緒、パーティーはここでやるんだよな?」と、部屋の中にいる志緒ちゃんに問い掛ける。

「その予定だよ」

 すぐに帰ってきた返事に軽く頷いた東雲先輩は私に視線を向けるとジッと私を見た。

 タイミング抑止線が交わってしまったせいか、ビックリしてしまったらしい私の心臓が大きく跳ねる。

 動揺が顔に出ないように、頭の中で『落ち着け、私』を繰り返している間に、東雲先輩は「じゃあ、食道から食べ物とかを運ぶことになるから、俺も凛花と一緒に花子さんの方を手伝うよ」と頬笑んだ。

 ますます早くなる心臓を抑えながら「わ、わかりました」と自分でもわかるくらいぎこちなく頷いた私は、状況を好転させるため、東雲先輩辛塩ちゃんに視線を向ける。

「じゃあ、志緒ちゃん、結花ちゃん、舞花ちゃん、那美ちゃん、東雲先輩と花古参の方手伝ってくるね」

 ポーチに集合している三人と、部屋の中から手を振っている那美ちゃんにそう伝えた私は、左に立っている東雲先輩の顔が入らないように時計回りに体を回転させながら「それじゃあ、行きましょう、東雲先輩」と口早に告げてから足を踏み出した。

「わかった」

 短く同意してくれた東雲先輩は「じゃあ、また後でな」と部屋に残る皆に告げてから、私を追い掛けてくる。

 身長差もあって、僅か数歩で追いついてきた東雲先輩は、私の横に並ぶと、無言で歩幅を合わせて歩く速度を遅くした。

 黙ってやるスタイルに、スマートさを感じると共に、過去の自分の出来無さ加減が情けなくなる。

 人のことを考えられる余裕が、東雲先輩が大人に見える要素なんだろうなと思いながら、今更どうしようもない過去の自分の駄目さ加減に、溜め息が毀れそうになった。


「花ちゃん、手伝いに来ました!」

 食堂の入口でそう声を掛けると、奥から花ちゃんの「助かります! お料理手伝って貰っても大丈夫ですか?」という問いが飛んできた。

「あ、はい、大丈夫だと思います」

 冷凍やレトルトやコンビニ弁当が多かったとは言え、全く自炊をしていなかったわけではないので、少しは出来ると思って掛けだそうとしたのだけど、東雲先輩に「凛花」と名前を呼ばれながら手首を掴まれる。

 それほど強く握られていないと思うのだけど、振りほどくつもりもなかったので軽く後ろの引っ張られてしまった。

 思ったよりも力強いんだなと思うと、何故か頬が熱くなる。

 それを誤魔化すために東雲先輩を見ないように「どうかしましたか?」と声が上擦ったり震えないように気をつけながら問い掛けた。

「あ、ああ」

 東雲先輩は何故か動揺した様子を見せながら、慌てて私の手を離す。

 手首を掴んだ手を離されたことよりも、慌ててしたことの方が、どうにも引っかかったけど、私は黙って東雲先輩の次の行動を待った。

 私の視線をどう解釈したのか、東雲先輩は「急に掴んでしまって、済まない」と謝罪してくる。

 多少驚きはしたけど、痛くもなかったので、私は「大丈夫です……けど」と軽く首を振った。

 東雲先輩は渋い顔をしながら、スッと食堂と調理場の入口付近の棚を指さす。

 私がそちらに目を向けると、すぐに東雲先輩は「調理場に入る時はあそこにあるエプロンと三角巾を付けるんだ。ちゃんと説明していなかったと思って……な」と説明をしてくれた。

 ようやく真っ直ぐ調理場に向かおうとしていたのを見て、慌てて教えようとしてくれたのかと理解した私は「そうだったんですね」と返す。

 東雲先輩は先に歩き出しながら「サイズは一緒だが、いろいろ模様やら色が違っている」と教えてくれた。

 そのまま、棚に置かれた何組かのエプロンと三恪勤のセットを並べて見せてくれる。

 並べられたエプロンたちを見ながら妙案を思い付いた私は、気付けば「あ、そうだ」と口にしていた。

「どうした?」

 私の急な発言に首を傾げた東雲先輩に、私は笑みを見せながら「早速、東雲先輩のセンスを見せてください」とお願いしてみる。

 東雲先輩は一瞬たじろいだように見えたが、すぐに立て直して「俺が選べって事か」と苦笑いを浮かべた。

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