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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之拾漆 転校前は

 自己紹介を終えたところで、雪子学校長が「さて、君の席なんだが……」といいつつ私に視線を向けた。

 花子さんが持ってきてくれた私用の机と椅子は、既に私の横に置かれている。

 これまでは教壇から教室を見て、右から東雲先輩、那美さん、志緒さん、舞花さん、結花さんと学年順に一列の席配置だった。

 教室の間取り的には、私の分が増えて6つ一列になっても問題は無いけど、監督者の目線で言うと、3つ二列の方が効率が良い。

 私はそう考えて、提案という形で、手を上げて雪子学校長に訴えてみた。

「えっと、皆と早く仲良くなりたいので、今の形で端に足すのでは無く、三席二列にしてはいけませんか?」

 もっともらしい感じに提案出来たなと私が思っていると、舞花さんや結花さんがソワソワし出す。

「別に皆が良いなら、私は構わないぞ」

 雪子学校長はそう言って、教室に視線を向ければ、皆諸々の形で頷いてくれた。

 その反応を見て、皆同意したと判断した雪子学校長は、ニヤリと挑戦的な笑みを浮かべて、私に問い掛けてくる。

「では三席二列にするとして……席の配置はどうする?」

 私は雪子学校長の完璧な振りに対して、伝統の席替え手法で答えた。

「もちろん、席替えと言えば、くじ引きだと思います!」


 黒板に簡単な教室の配置図を書き上げた私は、ランドセルから取り出したノートのページを一枚破って、六等分になるように折れ目を付けた。

 さらに筆入れの中から取りだした定規を添えて、ノートを折り目に合わせて裁断していく。

「花子さん、ここに数字を1から6まで一つずつ書いて四つ折りにしてください!」

 流石に、学校長に雑務を頼むわけにも行かず、更に公平性を担保するために、花子さんにお願いすると、すぐに「わかりました」という返事が返ってきた。

 私はペンとノートの切れ端を花子さんに預け、体操着袋を取り出す。

 中から体操着を取りだして、体操着袋自体をくじを入れる入れ物代わりにすると伝え、それも花子さんに預けた。

 一連の作業が終わったところで、舞花さんが「リンちゃん、スゴイね、手際が良い!」と褒めてくれる。

「学級委員として何回もやってきましたからね!」

 思わずそう答えてしまったが、実際京一として経験してきたことなので、ウソでは無かった。

 むしろ、男女で齟齬が出ること以外は、京一の体験を凛花の経験として話すと、雪子学校長や花子さんと決めている。

 咄嗟に脳裏に浮かべる事柄は、やはり経験に基づくことが多いため、変に凛花像を造るよりは、京一の経験をそのままスライドさせた方が問題が起こらないと判断したからだ。

 すると、私の言葉に興味を示したのか、志緒さんが話しかけてくる。

「リンちゃんは学級委員だったんだ」

「う、うん」

 事実とは言え、昨日今日の話では無く10年近く前の話なので、少し頷くのがぎこちなくなってしまった。

 そんな私に、舞花さんが「じゃあ、いっぱい人がいたんだね」と声を掛けてくる。

 すぐに言葉の意味が理解出来ず、小さく首を傾げると、すぐに結花さんが答えをくれた。

「ウチは今まで五人しかいなかったでしょ? だから委員会とかないの」

「あぁ」

 そこで私は舞花さんと結花さんが四年生だったことに思い至る。

 委員会活動は四年生からがほとんどなので、今年度から四年生になった二人は経験していないのだ。

 生徒が五人ということで、自然と高学年である東雲先輩や那美さ……志緒さんがその役割を担っていて、結果的に学級委員を決める必要も無かったのだと思う。

「じゃあ、私たちで委員を決めてみますか?」

 私の提案に、結花さん、舞花さんだけで無く、那美さんや志緒さん、東雲先輩も興味深そうな表情を見せた。

「学級委員だけじゃ無くて、図書を管理するお手伝いをする図書委員、お掃除を指導する美化委員、体育の授業の準備する体育委員、怪我したり具合の悪い子を助ける保健委員、校内放送をする放送委員、人数が少なくっても、お仕事は一杯ありますから、出来るんじゃ無いかな?」

「すごい! 委員会って一杯あるね!」

「リンちゃんの前の学校は大きかったんだ!」

 舞花さんと結花さんの言葉に頷き、京一の過去に則って「私の学校は学校全体で600人くらいいたから」と返す。

「すごい、ここの120倍ですね!」

 志緒さんが目を丸くして驚くが、那美さんが「違うわよ、しーちゃん」とその肩を叩いた。

「え?」

 何が違うのかわからないという表情を見せた志緒さんに、那美さんは笑みを深めて「100倍でしょ?」と告げる。

 志緒さんはその言葉に「あっ」と声を漏らしてから私に向き直った。

「ごめんね、リンちゃん。五人に慣れてたから……」

 申し訳なさそうな志緒さんに「大丈夫だよ。慣れてることって、なかなか頭を切り替えられないからね。気にしないで」と伝えると、直後に抱き付かれる。

「し、志緒さん!?」

「リンちゃん優しい!」

「あ、う、うん」

 志緒さんに抱き付かれたまま、引き剥がすのも違うなと思った私は、満足して離れるのを待っていると、事態は良くない方に転がり出した。

「志緒ちゃんズルイ、舞花も抱き付きたい!」

「舞花……こういうときはお姉ちゃん優先でしょ」

「あら、私だって参加したいわ」

「え、あの……」

 何故か、舞花さん、結花さん、那美さんと抱き付きを希望されてしまった上に、志緒さんがなかなか満足してくれない。

 そんな状況から脱する為に、助けを求めて、私は東雲先輩に視線を向けた。

「……流石に抱きつかない……」

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