拾陸之参 じゃれ合い
「す、好きってことは……」
反射でそう答えていた私は、その途中でそもそも服に対して好き嫌いをあまり考えたことがなかったことに気が付いた。
話を途中で止めた私に、花ちゃんは少し心配そうに「どうかしましたか?」と声を掛けてくる。
よく揶揄ってくる花ちゃんだけど、私の変化にはもの凄く敏感だ。
下手すると、私自信が気付いていない変化にも気付いてくれる。
雪子学校長や月子先生もそうだけど、緋馬織の三姉妹は皆優しいのだと改めて感じさせてくれる反応だった。
そんなことを考えていたせいで、反応が遅れてしまった私に、より心配そうに花ちゃんは「凛花ちゃん?」と声を掛けてくれる。
「あ、えっと、花ちゃんも、雪子学校長も、月子先生も、皆優しいなって思ってました」
「へっ!?」
意外にも私の答えに関して、花ちゃんは目を点にして驚いた。
その後でみるみる顔に赤みが差していった。
『ちょっと、待ってください。不意打ちはダメですよ。しかもそんな、本心ですと言わんばかりの、ピュアな瞳で見て! なんですか、私を籠絡するつもりですか!?」
想定外の反応に驚いて固まってしまったものの、口走ったセリフが花ちゃんらしくて、思わず弛緩すると共に笑い出してしまう。
「どうして笑うんですか、というか、笑う要素ありました!? はっ!? ひょっとして私を弄んで楽しんでます!? まあ、それも別に私としてはありよりのありですけど……」
表情を困惑、喜び、恐れ……と、めまぐるしく変えながら、騒々しく謎の発言を繰り返す花ちゃんは、とても面白い。
笑いすぎてお腹が痛くなってきても、私は笑いを止める事が出来なかった。
花ちゃんは暴走、私は爆笑と、振り返ってもカオスしかなかった状況に、私たちは振り返らないという同意で、無かったことにすることに決めた。
が、そこまではスムーズに話が進んだのだけど、その結果、お互いに口にする言葉が見つからなくなって、沈黙が続いてしまっている。
さすがに沈黙が続いたままなのは気まずいし、時間も過ぎて行ってしまうだけなので、私は意を決して行動を起こすことにした。
まずは拡げたままの工作物を片付ける。
そう決めて、拡げたままだった本を閉じて、隅に片付け始めると、それに反応して花ちゃんも動き出した。
「お手伝いしますね」
「あ、ありがとうございます」
変なぎこちなさに、顔を見合わせた私たちはどちらからとも無く噴き出す。
軽く笑い合ったことで、少しペースを取り戻したのか、花ちゃんが「ちゃんと予習して偉いですね。凛花ちゃん」と私の頭をなで始めた。
不快感はないので、されるがままになりながら、型紙と新聞紙製のスカートを一カ所にまとめて、切り離したくずの部分を丸めていく。
そうして片付けを進めていると、花ちゃんが「最近、動じなくなってきてませんか?」と、何故か不満げに聞いてきた。
私は苦笑気味に「慣れですかね」と返す。
「可愛くないです~~あ、でも可愛い」
瞬時に矛盾する言葉を並べながら、私を撫でる手に力がこもった。
グワングワンと頭を揺らされた私は「頭を揺らさないでください!」と、流石に抗議する。
「ごめんなさい、つい、リンちゃんが可愛くないのが可愛くて~」
相変わらず瞬間矛盾の言葉を放ちながら、花ちゃんが私の頭から手を離した。
ジト目で見ていると、花ちゃんはわかりやすく目を逸らすと、どこから取り出したのか、透明で大きめなビニール袋を取り出す。
それを私の方に口を開けて差し出しながら、花ちゃんは「はい、燃えるゴミはこちらへどうぞ」と微笑んだ。
私は素直に「ありがとうございます」と口にしてから、丸めた新聞紙のくずを入れさせて貰う。
ただ、ここで私は忘れずに「でも、それで誤魔化されませんよ」と忘れず釘を刺した。
「本当に行かないんですかぁ~」
不満そうに言う花ちゃんに、私は改めてきっぱりと「いきません」と断言した。
「でも、ほら、工作してましたし!」
食い下がる花ちゃんに「今日はいつ鋳物訓練と違って、汗を掻いてないですし、もうお風呂に入っているので、今日は入りません」と、私はきっちり言い切る。
「いつも仲良く入っているじゃないですかぁ」
どうしても一緒にお風呂に行きたいらしい花ちゃんに、私は切り札を切ることにした。
「ゴメンなさい、花ちゃん。眠いので……」
一応、眠さをアピールするい為に右手で軽く目を擦ってみせる。
その直後、体が宙を舞った。
「へっ!?」
思わず声が出てしまったのも無理は無いと思う。
立って話していたはずなのに、急に体の体勢が変わってしまったのだ。
しかも、両足が地面から離れ、宙に浮いている状態で、何かが触れる感触があるのは、肩から首の下に掛けてと、膝の裏……そこで自分が横抱き……いわゆるお姫様抱っこされてることに気付く。
「ちょっ花ちゃん!?」
自分の状況に混乱義臣に声を上げた私に、花ちゃんは「眠いならすぐ寝ましょう。無理は禁物です。全く眠いならもっと早く言ってください」と真剣な顔で言い放った。
「は、はい」
勢いに押されて、抱きかかえられたまま、私は布団まで運ばれる。
私を布団に降ろすと花ちゃんは「じゃあ、私はお風呂行ってきますけど、先に寝ててくださいね」と言い残して部屋を出て行ってしまった。
あっという間に人気が無くなった部屋に取り残されてしまった私は思わず首を傾げる。
それと共に、口から勝手に「あれ?」という声が漏れ落ちた。




