拾伍之伍拾参 次の案
私は少し考えてから、悩むのを辞めることにした。
というのも、試してみれば良いという結論に達したからである。
体を包むエネルギーを解放する様に念ずると、視界を白く濁らせていたモノが瞬時に取り払われた。
リンリン様がすぐに反応して『主様! エネルギーが拡散したのじゃ!』と声を上げる。
私は「うん。もう一度、最初からやり直そうと思って」と理由を伝えると、リンリン様は『了解したのじゃ』と短く答え、咄嗟に取った四つ足の姿勢から、お座りの姿勢に体の状態を改めた。
リンリン様の動きを確認した後で私は新た得てエネルギーを身に纏う。
集中しすぎないように、自然体を心掛けて上に向けた掌から全身へとエネルギーが溢れ出し広がりつつ、包み込む姿をイメージした。
回数を重なることでスムーズになるのは、エネルギーを纏う事にも適応されるようで、その動きはかなり滑らかでスムーズになっている。
腕を伝い肩にいたり、首を登って顔全体が包み込まれると、視界が色を付けた時と同じように白濁したモノに変わった。
掌から溢れ出した時は淡く白みがあるような、ないような、判断が付かない曖昧さだったが、顔を追い目の上にもエネルギーが纏うと、白く色が付いていることをはっきりと確認することが出来るようになっている。
私はまずリンリン様に「体をエネルギーが包み込んでいるのがわかりますか?」と、問い掛けてみた。
『観測出来て折るのじゃ』
即座の回答に頷いてから、今度は意識を集中させて、色を消してみる。
肌感覚では、エネルギーが体に纏わり付いたままでありながら、視界だけがクリアになった。
それは顔の周りだけでなく、手や腕足もエネルギーは見えなくなっていたが、存在を感じることは出来ている。
「リンリン様」
私が声を掛けると、既に質問の内容を予測していたようで『色が見えなくなっておるのじゃ』という答えが返ってきた。
ここまでのやりとりで、エネルギーの着色の切り替えが出来る事と色を付けた状態で消失させた後、再度エネルギーを纏うと着色された状態で体に纏わり付くことがわかる。
となると、流れ的にクリアにした状態で、再度纏ったらどうなるかで、色が付くか付かないかのスイッチがどこにあるのかが絞り込めるはずだ。
そう考えた私は、リンリン様を見る。
私の思考はモニタリングされているので、リンリン様は心得たとばかりに大きく頷いた。
結論から言うと、やはりというか、予測通りというか、エネルギーに色が付くかどうかは、纏う直前に、エネルギーを霧散させた時の状態が維持されるようだ。
月子先生が普通の人間かどうかは少し疑問の残るところだけど、一応、肉眼でも私の纏っているエネルギーの色は確認出来るらしい。
いずれ、月子先生以外の人の目にはどう映るのかを調べるとして、今は次に進むことにした。
ドローンのカメラから逃れる作戦その二は変化の応用だ。
私の考えたのは『透明』なること、全身をエネルギーで包んだのも、この布石というわけである。
何かの動画で見た最新技術に関する情報を扱っていた番組で、無数のカメラが後方の映像を捉え、前面の小型モニターに投影するという光学迷彩の技術が使えるんじゃないかと考えていた。
その為の第一歩がエネルギーへの色づけで、その次のステップが背景の映像の投影というのは少しステップを飛ばしたかなとも思わなくはないけど、正直、私の中には出来そうな実感がある。
私の中では、最早出来るかどうかは問題ではなくて、実行するのにどの程度のエネルギーを必要とするのかに、論点は移っていた。
そこで私は成功を前提にせず、徐々に背後の映像を前面に、前面の映像を背後に映すように意識して能力を行使する事に決め、意識を集中しながら描いたイメージが全身に巡るように意識する。
私の視界は白く濁ったままで変化を感じられなかったが、巡らせた視線の先、私の腕には徐々に変化が起こっていた。
前面と背後という認識をしたせいか、腕の前面やその逆の背面からみれば、腕が透けて反対側が見えているように目に映る。
けど、腕を横や上から見ると、私の腕にはなんの変化もなく、視点をずらすと透過するという珍現象が起きていた。
背後の光景を前面に、前面の光景を背後に映し出すイメージだからか、私の腕がCT画像のように断面図になっていない。
見る角度で絵が変わるシールが、今の自分の腕の見え方を確認しているうちに思い浮かんだ。
理想というか、目標は、どこから見ても腕が透けた様に、背景が見える事なので、後はどんなイメージを足せば成功出来るのかを考えなければいけない。
そう考えながら、私は月子先生に視線を向けた。
すると、月子先生は私に右手の掌を見せながら「少し待ちたまえ」と口にする。
様子からして、既に対応策を考えているようなので、私は素直に待つことにした。
一応、リンリン様の方もチラリと確認したけど、こちらをジッと見たまま身動き一つしない。
もしかしたら、オリジンと、次の一手について相談してくれているのかもしれないと思った私は、そこで、任せきりにせずに、自分も考えた方が良いのだろうかと、ふと思った。




