拾伍之伍拾弐 着色
全身をエネルギーで包み込んだところで、月子先生とリンリン様に「私の体がエネルギーで包まれたのがわかりますか?」と聞いてみた。
感覚ではエネルギーの存在を認識出来ているけど、体が光っているわけでも、そもそも体を覆っているエネルギーの輪郭すら見えていない。
月子先生の能力やリンリン様の機械的なセンサーではどうだろうと思って聞いてみたけど、二人からの答えはなかった。
それは無視というわけではなくて、リンリン様はこちらを凝視しているし、月子先生は私とタブレットの間で忙しなく視線を動かしている。
二人がその状態に入ってから少し、最初に動きを変えたのはリンリン様だった。
『主様』
「はい」
私が返事をすると、リンリン様は間を置かず『わらわの目やドローンの目、オリジンの解析を組み合わせた結果なのじゃが、僅かに主様の姿に変化があることは観測出来たのじゃ』と言う。
「……観測できたんですか?」
『水やガラスなどを間に挟むと、レンズの効果で実像に歪みが出て見えるじゃろ? 主様が両掌からエネルギーを全身に纏わせ始めたタイミングで、手から腕、肘、肩の順で、本来の主様の輪郭から少し膨張したのが観測出来たのじゃ……それが、現時点では全身が膨張した状態で、安定しているようじゃ』
膨張という表現に引っかかりを感じたモノの、些細なことと胸の内で念じて、小さく息を吐き出して気持ちを整えた。
多少気持ちが落ち着いたところで「つまり、エネルギーを纏った状態を観測出来ているということですか?」と尋ねる。
リンリン様は私の問い掛けに、少し間を開けてから『オリジンを含めて、検証しないと断定出来ないレベルじゃが……今後、主様の輪郭に変化が出れば、エネルギーを纏ったのではないかという推測は出来るといったところじゃ』とリンリン様は答えた。
「えっと……変化を認識は出来るけど、エネルギーを纏った状態と断定は出来ない……で、あってますか?」
私の確認に、リンリン様は『残念ながら映像に乱れが発生する可能性があるからのう……現時点では可能性を認識出来ても、断定は出来ぬのじゃ』と残念そうに言う。
ここで、月子先生が「この独特な掌を上向きにするポーズをした直後に集中すれば、認識出来ないだろうか?」と発言を挟んできた。
対して、反応して視線を向けたリンリン様はそこで動きを止める。
少し時間をおいて、恐らくオリジンとのやりとりを終えたのであろうリンリン様が『断定までは行かぬが、主様の動きを起点にするなら、その直後の輪郭の変化をエネルギーで主様が包まれたと可能性が高いとすることは出来そうじゃ』と返した。
月子先生はリンリン様の話を聞いた上で、私に意見を求めるように、こちらに視線を向けてくる。
私は状況を理解していることを伝えるために大きく頷いてから「ちょっと試してみます」と宣言した。
対して、月子先生が「ん?」と口にして、首を傾げたが、私は既に次に意識が写っていたのもあって、そのまま行動を起こすことにしてしまう。
より意識が集中出来るという囁きに従って、目を閉じた私の脳裏に自分の姿が浮かび上がった。
視認出来るモノしか映っていないらしく、脳裏の中の私には纏っているはずのエネルギーは見えない。
私がこれから試すのは、そのエネルギーを視認出来るように調節出来るかということだ。
というわけで、早速エネルギーに色を付けてみることにする。
元々のエネルギー球は光の球だったこともあって、白いイメージがあるので、そのイメージをそのまま目標にした。
皆に見えるように、カメラが捉えられるようにと思いを込めて意識を集中すると、脳裏の中の私の数センチ外側に薄く白い輪郭が現れ始める。
時を同じくして、私を観測しているリンリン様が『主様、主様を包む膜状のモノが認識されはじめたのじゃ!』という報告が上がった。
次いで、月子先生から「タブレット経由でのカメラ映像もそうだが、肉眼でも君が白いゼリー状の物体に包まれているように見えるぞ!」と興奮気味に伝えてくる。
二人の言葉に、成功を確信した私はゆっくりと目を開いた。
それで集中が切れる事は無かったようで、私を包むエネルギーの幕に付いた白はイメージ通りにどの場に留まっている。
結果、私の視界は白く少し曇ってしまっているが、肉眼でも全身に纏わり付いたエネルギーを確認出来るようにはなっていた。
全身を包むエネルギーは、私から数センチ外側を均等に覆っていて、体の動きに合わせて動く。
軽く掴んで視界に入れた髪を包むエネルギーも、手や足と同様に数センチの距離を持っていた。
「これなら、エネルギーを纏っているのが、カメラでも撮影出来て、リンリン様達にも認識出来ますよね?」
そう尋ねた私に、リンリン様は『うむ』と頷く。
リンリン様の返しにやり遂げたことを実感しながらも、私の中には、色を付けるために集中が必要だったので、次に同じ事をしたら、集中が必要なのか、それとも自動で色が付くのかという疑問が、新たに浮かんでいた。




