拾伍之肆拾玖 入れ替わり
抗議する私に対して、月子先生は手を離してから「いや、正直安堵してね……その、君の肩に手を置いていたのも忘れて、変に力を入れてしまった。驚かせて済まなかったね」と苦笑しながら頬を掻いた。
一応、切っ掛けは封印のブレスレットの効果で、エネルギーが霧散したことなので、素直に謝られてしまうと、強くは出られない。
「仕方ないですね」
私がそう言うと、改めて息を吐き出した月子先生は「本当に違和感はないんだね?」と今度は肩ではなく腕や腰と至る所に触れながら尋ねてきた。
「触れられたところも変な感じはしないですね」
私がそう返すと、月子先生はペタペタと触れていた手を離して「あー、無遠慮に済まない」と謝罪されてしまう。
伝わってくる心配されているという事実がくすぐったくて、軽く噴き出してしまった。
「んーー、リンリン様が触れた直後のタイミングで消えてますね」
動画に収められたエネルギー消失の瞬間を、何度もコマ送りで前後して確認した私は、そう結論づけた。
「直接触れなくても、封印のブレスレットを付けたヴァイアが君に触れれば効果は発動するということか……」
月子先生はそう口にしてから腕組みをしてうなり出す。
「どうしました?」
私がそう尋ねると、月子先生はリンリン様に「講堂付近に子供達はいないか、それから、球魂を放っている可能性のある子はいないか確認して欲しい」と注文を出した。
何でそんなことを聞くんだろうと思っているうちに、リンリン様から『大丈夫じゃ。それぞれカード量産や自主訓練に励んでおるようじゃ』という報告がされる。
「わかった。ありがとう」
短く言うと月子先生は、リンリン様の尻尾の付け根に収まっていた封印のブレスレットを掴んだ。
直後、月子先生の容姿が大人から子供へと転じる。
その変化を見て、そう言えば、月子先生の本来の姿は、子供の姿で、皆には伏せていたことを思い出した。
リンリン様に確認した理由を理解したところで、子供の姿になった月子先生が、自分の腕に付けた封印のブレスレットに触れながら「これの効果は君以外にも影響するのは確認出来たね」と言う。
「そ、そうですね」
なにを言えば良いのかという気持ちで頷くが、月子先生はこちらの反応には大して興味が無かったようで、既に次に思考を巡らせていたらしかった。
それを示すように、月子先生は顎に手を当てて「封印のブレスレットを付けたヴァイアと君の間に私が挟まった場合、君に封印の効果が出るのかも調べたいところだね」とこちら西井線を向ける。
「そ、そうですね」
戸惑いながら頷くと、月子先生は「まあ、それは次のステップとして、先に私が触れた状態で能力を発揮出来るか試してみよう」と言いながら私の横に回って、肩に手を乗せた。
「えっと、この状態で能力を使ってみろってことですよね?」
肩に置かれた月子先生の手を確認しつつ、尋ねる。
「よろしく頼む」
月子先生が笑みを浮かべて頷いたのを確認してから、私は目を閉じて「行きます」と宣言した。
まずは肩に置かれた状態で、先ほどと同じようにスマホを出現させるべく、意識を集中させた。
すると、脳裏に私の姿が浮かび上がり、両手足の甲の上にエネルギーが出現するのが見える。
「あ、あれ……具現化出来そうですよ!?」
驚きの声を上げた私に対して、月子先生は冷静に「なるほど。別の人間が付けている封印のブレスレットの影響は受けないのか」と口にした。
月子先生は少し考えてから「そのまま掌の間にエネルギーを移動させてみて欲しい」と新たな要望を伝えてくる。
「了解です」
そう答えてエネルギーの移動を開始した。
スムーズにエネルギの移動はスムーズに進み、ほんの数秒で掌の間で一つの球体に集まる。
「出来ました」
私の報告の後、何かが触れる感覚があって、リンリン様が触れた時と同じように、一瞬で視界が黒一緒に染まった。
「えっ!?」
思わず驚きで、声が飛び出る。
先ほど肩に手を置かれた時とは違う、何かが触れた感触があっただけなのに、そう思って目を開いた私の視界に入ったのは、私の腕に触れる月子先生の腕に嵌められた封印のブレスレットだった。
「……月子先生」
「なにかな?」
「先ほどリンリン様に触れられた時のように、集めたエネルギーが散ったようです……もちろん、頭に浮かんでいた映像も一瞬で消えました」
私の言葉に月子先生は頷きながら「つまり、この封印のブレスレットには人数制限はなく、直接接触させれば二人分の能力を封じ込めるというわけだね」と笑む。
その後で、月子先生はスルリと封印のブレスレットを外し机に置くと、その直後、一瞬で元の大人の姿を取り戻した。
「では、次の実験に移ろうか?」
大人に戻った月子先生が浮かべる笑みは、妖艶さが上乗せされている。
笑みに目を奪われそうになるのを回避するため頭を軽く振ってから私は「次の実験ですか?」と聞き返した。
笑みを浮かべたままで、月子先生は「丁度良いモノがあってね」というと、講堂の隅を指さす。
「なんですか?」
視線を向ける私に、月子先生は「アレなら丁度良いサイズだと思う」と言いながら指さした方へと歩み出した。




