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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之拾伍 指切り

 那美さんはニッと笑って、私の小指に自分の小指を絡めると「じゃあ、あだ名で呼んでくれる予約と言うことで」と一方的に指切りを決めた。

 そんな素早い動きに驚いていると、舞花さんが「なっちゃんズルイ! リンちゃん、私も私もあだ名で呼んで!」と訴えてくる。

 舞花さんの圧に押されて私はしどろもどろになりながら、どうにか「わ、わかりました、慣れたら、で、お願いします」と返した。

 私の辿々しい返答に、舞花さんは「約束だよ-」と嬉しそうに口にして、那美さんと同じく指切りをして自分の席へと戻っていく。

 そんな後ろ姿を見送っていた私に「リン」という声が掛かった。

 振り返れば、結花さんが私に向かって小指を差し出す姿が待ち構えている。

 私はちょっと自意識過剰かも知れないなと思いながらも、結花さんも求めてくれているのだろうと受け取った。

「結花さんも慣れたら、あだ名で呼びますね」

「ん」

 小指を絡めて約束をした後で結花さんは自分の席に戻っていったけど、その頬が少し赤く見えたのが、照れくさくも嬉しい。

 そんなことを私が感じていると、その一連を見ていた那美さんが「思わず顔がニコニコしちゃいますね」と口にした。

 那美さんの言葉が照れくさくて頬が熱くなるのを感じている間に、彼女もまた自分の席に向かって歩き出す。

 だが、ここで雪子学校長の「三峯くん」という呼びかけがその動きを止めさせた。

「なに、雪ちゃん?」

 呼び止められた理由がわかりませんといった様子で、那美さんは大きく首を傾げる。

 対して、不自然な笑みを顔に貼り付けた雪子学校長は「学年が下の子が三人も名前を漢字で書いてるんだから、ちゃんと漢字で書きなさい」と黒板を指さした。

 あからさまにメンドクサイとわかる表情を浮かべて「え~~」と不服を口にする那美さんを動じること無く、笑みを貼り付けたままで、雪子学校長はじっと見詰める。

 そんな変則にらめっこを要してきた二人の間に入ったのは、志緒さんだった。

「あ、あの、なっちゃんの漢字はこう書くんだよ」

 志緒さんはそう話した時点で、自分の名前『葛原志緒』も、那美さんの名前『三峯那美』も黒板に書き終えている。

 同時に黒板に視線を向けた雪子学校長は「それじゃ、三峯くんの()()()ならないぞ」とぼやき、那美さんは嬉しそうに志緒さんに抱き付いた。

「さすが、しーちゃん、ありがとうね」

 そんな那美さんに対して、志緒さんは困った顔で「私も早く自己紹介したいだけだから」と、本音だとしても毒を感じる一言を放つ。

 私はそんな毒を含んでいるように聞こえる発言に驚いている間に、那美さんの腕でからするりと抜け出した志緒さんは、黒板の前に立って名前を指さした。

「あの、卯木さん」

「は、はい」

 志緒さんに名前を呼ばれた私は、ちゃんと聞いていると伝わるように、彼女に体の正面を向けて返事をする。

「こっちが、なっちゃ……三峯那美さんの名前の漢字で、こっちが私の名前……葛原志緒です」

 自分で書いた二人分の名前を順番に指さしながら、志緒さんは少し緊張気味に説明してくれた。

 最初から砕けた感じで接してくれた舞花さんとは逆で、志緒さんは慣れるまでは、緊張したり、遠目に距離を取るのかも知れないと私は考える。

 そこで、京一の時に聞いた『葛原』という名字に対して、志緒さんがコンプレックスを感じていたのを思い出したので、私は思いきって一つ提案をしてみた。

「あ、あの……葛原さんさえ良ければ……ですけど、し、志緒さんって呼んでも良いですか?」

 志緒さんの表情がどう変わるかが不安で、何度も視線を上下させてチラチラと様子を覗う。

 けど、何度確認しても、志緒さんの表情は少し驚いた表情のまま固まってしまっていて、変化がないように見えた。

 その変化の無さに、馴れ馴れしいと警戒させてしまったかも知れないと考えた私の中に、何か言わなければという焦りが湧いてくる。

 ぐるぐると回る嫌な予測に邪魔をされて上手く回らない頭で、どうにか導き出した言葉を私は口にした。

「あ、あの、い、一応、その、同じ学年ですし、えっと、それから……結花さん、舞花さん、那美さんと名前で呼ばせて貰っているので……」

 不思議と、結花さん達の名前を口に出すだけで、気持ちが上向きはしたけれど、相変わらず無反応な志緒さんの姿で、徐々に下へと方向転換してしまう。

 段々と声が小さくなっているのを自覚し、次の言葉を見つけなければと焦った私の手が、ギュッと包み込むように握られた。

「ふぇ!?」

 驚きで変な声が飛び出た瞬間、いつの間にか私の目前まで来ていた志緒さんが、私の手を握りながら「私もリンちゃんって呼んで良いですか?」と上目遣いで尋ねてくる。

 最初はパニックでよく言っている意味が飲み込めなかったけど、じっと私を見てくれている志緒さんの目を見詰めているうちに、嬉しいという感情と共に頷くことが出来た。

 すると、志緒さんは握っていた手を離して、私の右手の小指に、自分の右手の小指を絡めると「私もあだ名予約したいです」と興奮気味に言ってくれる。

 私はそんな志緒さんに余計なことは何一つ考えず、ただ「うん」とだけ答えた。

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