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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾伍章 受容真意
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拾伍之肆拾肆 思考加速

「足の力を上げて、振り切るのは無理そうだし、施設破壊になったら、お財布が大変なことになるので、方向性を変えようと思います」

 私がそう宣言すると、月子先生は「凛花さんからは請求しないよ?」と、シレッと言い放った。

「私の保護者は、蓄えがないですから……無理は出来ません」

 第三者のように言っているが、その蓄えがないのは林田京一(私自身)なので、本当に気が滅入る。

 けど、精神的なブレーキが掛かるのは、私の能力の暴走を抑えるのには向いてるかもしれないなと思った。

 ここで、さっきの実験で起きた出来事を、未だ月子先生に報告しきっていないことを思い出す。

「あ、月子先生」

 私が急に話し方を変えたからか、月子先生は少し驚いたそうぶりを見せてから「なにかな?」と表情を引き締めて尋ねてきた。

「実は、さっきの実験中なのですが……」


 私の話を聞き終えた月子先生は「なるほど、意識の加速状態か……」と、ため息を吐き出しながら呟いた。

 その後で私を見ながら「しかし、好奇心に任せて、思考を重ねる実験をしなかったのは、素晴らしい判断だ」と、笑顔を向けられる。

 不意打ちだったのもあって、思いの外嬉しくなって締まった私は、視線を逸らしながら「い、一応、好奇心のまま進む危険は意識してるので」と返した。

「ははっ。意識していても、だ。咄嗟の時には、誓いなんてものはどこかに飛んで言ってしまうものだよ。度しがたい学舎の性とも言えるが……ゆえに、私は他の人より君の頑張りを理解出来るわけだ」

 明るく笑いながら言う月子先生は、そこで間を置いてから「頑張ったね、凛花さん」と言い加える。

 柔らかな口調だったのもあって、思いの外、その言葉の衝撃が大きかった。

 返す言葉も思い浮かばず、固まっている間に頬に熱が籠もる。

 そんな私の頭の上に、衝撃の後、重みがのしかかってきた。

『主様、なにを固まっているのじゃ?』

 リンリン様の遠慮の無い質問に、普段は困ることが多いけど、今回は正直助かると思いつつ、私は「つ、次の実験について考えていただけですよ」と、ウソではないが、正確ではない答えをする。

 対して、リンリン様は『ほう。それはどんな内容なのじゃ?』と話を進めてくれた。

 よく考えると、リンリン様はオリジンとリンクしているので、私の思考を読んで、助け船を出してくれたんじゃないかと気付く。

 途端に嬉しくなった私は、頭の中で『ありがとう、リンリン様』と強く念じたら、前足で無言のまま頭をテシテシ叩かれた。

 どうやら、予測は間違いじゃないようだと思った私は、完全な味方を得たことで、気持ちを落ち着けることに成功する。

 結果、思考が巡るようになり、月子先生に問い掛けられる余裕も出来た。


「他の能力求めしたいんですけど、先に加速した思考をどの程度読み取れるかを試した方が良いですよね?」

 私の問い掛けに、月子先生は「そうだね」と頷いた。

 そこから間を置かずに「ところで、その思考の加速状態は、どういうメカニズムで到達出来るかは認識出来ているのかい?」と問うてくる。

「あ……」

 指摘されてようやく気が付いたが、全身にエネルギーを循環させて、意識を集中させていたら、気付くとそういう状態になっていたので、同じようにすれば出来ると思い込んでいた。

 だから、月子先生の言うメカニズムについての考察は全くしていない。

「えーとですね……もう一度体にエネルギーを循環させれば、思考加速出来ると思っていたのですが……」

 私の回答に、月子先生は「先にその検証だね」とバッサリ切り捨ててきた。

 まさしくその通りなので、私は自分の考えのタリな差に情けないものを感じつつ「そうですね」と同意する。

 そんな私を見て、溜め息を吐き出した月子先生は、苦笑を浮かべて「自在に思考加速の状態になれれば、多くの状況に対応出来るようになる。メカニズムの解析は、行く行くは皆のためになる」と言ってくれた。

 月子先生のフォローに、気持ちが明るくなったのを感じる。

「そうですね!」

 思ったよりも明るい声になってしまったが、月子先生の言葉に感じた嬉しさを考えると、違和感はなかった。

 ただ、それは私自身の話で、月子先生の顔には困惑が浮かんでしまっている。

 心の中で『あれ?』と思っていると、頭上からテシテシとリンリン様からの合図が飛んできた。

「な、なんですか、リンリン様?」

 声に動揺が乗ってしまっている。

 リンリン様はおそらくだけど、そんなおかしな反応した私を意図的にスルーして『主様、思考加速は、わらわがここにおっても出来るのかの?』と質問を投げ掛けてきた。

「リンリン様が頭に乗っていても、動かなければ、安全じゃないですか?」

 思ったままを返したのだけど、普段はすぐに帰ってくるリンリン様からの言葉がなかなか出てこない。

 再び『あれ?』と思っていると、ようやくリンリン様の言葉が放たれた。

『わらわが接触しているということは、封印のブレスレットがそばにあるわけじゃが、思考加速は出来そうかの?』

 リンリン様がそう言い直してくれたお陰で、なにを聞かれていて、自分が間違った返しをしていた事に気付く。

 珍しく反応が遅かったのが、私のせいだと理解して、恥ずかしくなったが、折角気を遣ってくれているのに動揺を見せるわけにはいかないと、気持ちを整えてから「そこからテストで良いですよね?」と月子先生に話を振ってみた。

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