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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾伍章 受容真意
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拾伍之肆拾参 保護者

「触れればへこみがよくわかるね」

 私が()()()()壁を撫でながら、月子先生はそう漏らした。

 壊すつもりは全くなかったとはいえ、明らかに私が壁に着地したせいなのでもの凄く居心地が悪い。

 気まずく思いながら動向を見守っていると、縁に月子先生がこちらを振り返った。

「そう言えば、体重は尻尾のあるキツネ娘の状態でも、人間の少女の状態でも変わらないんだったね?」

 月子先生の問いに、少しもたついたものの「あ、はい」とどうにか返事をする。

「ふむ」

 顎に手を当ててそう呟いた月子先生は、少し考えてから「質量が変わらないということは、やはり相当な速度が出ていたということだが……足の関節に違和感はないかい?」と首を傾げつつ、月子先生は問うてきた。

「え、えっと」

 私は質問されたことに戸惑ってしまったが、まずは正確に答えるためにも、足の動きを確認する。

 屈伸をしたり、片足立ちになって、膝の曲げ伸ばしをしたり、サッカーのシュートの要領で、足を振り抜いてみたりとしたが、痛みはもちろん、動きに違和感は無かった。

「特に大丈夫そうです」

 月子先生は私の返事に「違和感がないなら、問題は無いだろう」と頷く。

 その後で私の足へ視線を向けた月子先生は「筋力測定はしておいた方が良いかもしれないね」と真剣な顔で言った。


「結局、振り切れませんでしたか……」

 さっきの一連の動きを追っていた動画を見せて貰った私は、思わず溜め息を吐き出していた。

 正直、振り切ってやろうとは思っていたけど、自分がこれ程がっかりするとは思っていなかったので、かなり前乗りだったのかもしれないと、今更ながらに気付く。

 そんな私の肩を叩きながら、月子先生は「まあ、単純な直線移動だったからね……それに割とギリギリだったよ」と言って笑った。

 状況が変わったわけではないけど、月子先生が笑ってくれたことで、一気に気持ちが軽くなったような気がする。

 すると、気持ちが前向きに転がり始めたからか、頭の中に新たな方法が思い浮かび始めた。

「全力で試さないと、意味が無いですよね……」

 独り言と変わらない小さな呟きに、月子先生は少し黙ってから「……ほどほどにしたまえよ」と釘を刺してくる。

「あ、あたりまえじゃないですか!」

 即座に切り返したのが悪かったのか、言葉につっかえてしまった。

 そのせいか、月子先生にはジト目を向けられてしまう。

 その目線だけで怯んでしまった私に、月子先生は唐突に「そう言えば、君、給料って単語を知っているかい?」と質問をしてきた。

「きゅ、きゅうりょう?」

 しどろもどろになりながら、危険を感じた言葉を繰り返す私に、M月子先生は満面の笑顔を浮かべて「更に、天引きって言葉を知っているかな?」と言い放つ。

 今、この状況で、その二つの単語を並べられれば、浮かび上がる結論は一つしか無かった。

「あ、あの……つ、月子先生?」

「なにかな、卯木凛花さん」

 笑顔なのに、背中がゾッとするような不気味さを感じる。

 とはいえ、確認しないわけにはいかないので「えーと、ですね」と反応を探ってみた。

「君は小学生なわけだから、施設が壊れてしまっても、君自身には、請求はいかないよ。安心したまえ」

「そ、そうなんですか?」

 言われたままを真に受けてはいけないという私の中のなけなしの警戒心が、もの凄いアラートを鳴らしている。

「そうだとも! 小学生に賠償する経済力は無いからね。当然……」

 嫌なところで言葉を切った月子先生に、仕方が無いと自分に言い聞かせて「と、当然?」と先の言葉を求めた。

 月子先生は笑みを崩さずに「請求は保護者にいくわけだね」と言い切る。

「ほ、保護者……ですか……え、えーと、私の場合……は?」

 正直、答えはなんとなく予測が付いていたけど、聞かないわけにはいかないので、複雑な心境で踏み込んだ。

 対して月子先生は「君は誰だと思う?」と笑みを深くする。

「え、えーと……」

 私が言い淀んでいると、月子先生は「ヒントは最近赴任した……あ、私の前にね。そしてこの学校に赴任している教師陣では唯一の男性教諭だよ」と言い放った。

「ああ、安心してくれて良いよ。校内では入院中ということになっているがね。書類の上では、毎日勤務しているという処理になっているからね。彼宛に給料は発生しているとも」

 ニコニコしながら言い加える月子先生に、私は大人しく白旗を揚げる。

「えっと、私の保護者は、林田京一……ですね」

 私がそう口にすると、月子先生は「凛花さん」と口にしつつグッと笑顔尾を私の顔に近づけてきた。

 逆に私は体を後ろにそらしながら「な、なんでしょう?」と尋ねる。

「林田京一先生だよ、ちゃんと、先生を付けなくてはいけないよ」

 ほんのちょっと、林田京一(わたし)じゃ無いかもと言う期待は、その言葉で完全に打ち消されてしまった。

 要は校内の施設を実験で破壊したら、修復費用を請求するからと宣言されたに等しい。

 ちゃんとセーブをしなければと心に誓った一方で、体の強化を実験の再ション日回したのは正解だったなと、ちょっとホッとする私もそこには存在していた。

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