拾伍之弐拾玖 具現化
「アナログな方法だが、見ないというのが一番有効というのも、なんとも腑に落ちないな」
私の考えが筒抜けnあせいで、ついツッコんだり叱ったりすることになっていた月子先生は、回避策として採用した『見ない』という方法に納得がいってないようだ。
とはいえ、効果的なことに変わりは無く、別案を考えるよりは受け入れてしまう方が効率的と判断したらしい。
ただ納得の上ではないので、月子先生にしては珍しくブチブチと愚痴をこぼしていた。
とりあえず、普段とは違う月子先生を観察しているのも面白いと言えば、面白いのだけど、ここは自分のするべき事をしようと思う。
なんだか、普段より余計なことを考えているのは、月子先生が目を閉じているからで、考えが読まれていない現状を楽しんでいるんじゃないかと思うと、大分思考が幼稚になっているんじゃないかと不安になってきた。
そんな余計な思案中に、目を閉じたままの月子先生も痺れが切れてきたらしく「そろそろいいかね?」と私の準備具合を尋ねてくる。
私は「とりあえず、大丈夫だと思います」と口にしながら少し慌てて、椅子に腰を掛けて机の上に手を乗せた。
現状の道具の食い合わせで造り上げた私の監視システムは、まず私の思考を月子先生がコンタクトレンズを付けた状態で見ることで、思考をトレースするのが第一段階だ。
第二段階は月子先生の見た視界そのものを『異世界netTV』経由で、映像記録としてこの学校のサーバーに記録する。
第三段階として、オリジンをメインとしたヴァイア組の連携で、その動画を精査して、私の思考に急激な変調が起こった場合、すぐにアラートを雪子学校長、月子先生、花ちゃんに送るという仕組みだ。
そして、今からやるのは第一段階を代替する監視用のカメラを作成する。
一応人間である月子先生が二十四時間態勢で、私に張り付くのは無理なので、代わりに私について回れる機会を生み出すのがこれからの作業だ。
準備完了を伝えたタイミングで目を開いた月子先生は、なるべくこちらを見ないようにして、椅子を一脚だけ引き出して、私の目の前に陣取った。
ゆっくりと私の方を見た月子先生は「それじゃあ、手早く済ませよう」と口にして、私をしっかりと見る。
私は頷きつつ、手首に嵌まっている封印のブレスレットに手を掛けた。
「それじゃあ、外しますね」
「わかった。頼む」
月子先生からの返事を待って、私は一気に手を引き抜く。
嵌める時は何も感じなかったのに、外した瞬間はまるで違っていた。
ギュウギュウと締め付けられるような状態から、その拘束が一切無くなるような解放感、あるいは爽快感のようなモノがある。
その驚きを明確に読み取った月子先生が「そんなに違うのかね?」と尋ねてきた。
私は大きく頷きながら、もの凄く開放感があることを伝えようとしたのだけど、月子先生からは「大丈夫だ、十分伝わっている」と止められてしまう。
ちょっと語りたい気分だったので、出鼻をくじかれてしまったことに、少し不満を覚えた。
対して私の心理を文字道理読み取っている月子先生は、すぐに「まずは具現化を終えてからにしよう。君の話は聞きたいが、今はリスク対策を優先したい」と、とても納得出来る理由を口にする。
そう言われてしまうと納得するしかないので、後回し案を受け入れ、承諾しようとしたのだけど、それを伝えるより先に月子先生が「理解してくれて助かる」と言ってきた。
あからさまな先回りの繰り返しに、もの凄い違和感を覚えたところで、月子先生は軽く笑いながら「便利だろう?」と言われてしまった。
ある種の仕返しなんだなと理解はしたモノの、ここで文句を言ってもやり込められるのは目に見えているので「そうですね」と笑顔で返す。
ニコニコとこちらを見て黙ったままの月子先生に、面白くないと頭の中で思いながら「具現化をしてしまいます」と告げ、私はさっさと月子先生の監視の必要ない……具体的にはコンタクトレンズをハズさせる方向で状況を変えることにした。
そんな私に対して、月子先生は大袈裟に「それは助かる。もちろん大賛成だよ!」と朗らかに言い放つ。
若干……いや、それなりのウンザリ感を覚えつつ、私は目を閉じて意識を集中させた。
これから具現化するのは、自動追捕するドローンカメラだ。
何かの番組で見たことのあるプロペラが四つ付いた形のドローンのカメラに、人の思考をテキスト化して映し出せるレンズを仕込む。
ここまでは既に月子先生と意見を交わしてイメージもしっかりしているからか、具現化に必要なエネルギーはスムーズに両手足の甲の上に出現した。
だが、ここでこれまでになかった感覚に私は驚く。
エネルギーが出現する過程で、手足の甲に穴のようなモノが現れた感覚があった。
慌てて、脳内のイメージ映像を動かして、手足の状況を確認したが、そこに穴は全くない。
それでも何か確認出来ないだろうかと、右手の甲を拡大した。
結果的に穴のようなモノは見当たらないが、それでも、エネルギーが放出されている地点と私の手の甲の間には微妙な隙間があり、私の体から直接捻出されていないことに気が付く。
「月子先生」
思わず名前を呼んだ私だったが、月子先生は「このコンタクトレンズはエネルギーそのものを見れるというのを失念していた。今私も直接確認している」と既に行動に移っていた。




