拾伍之弐拾漆 別案
私は月子先生の提案にすぐに飛びつくつもりで頷こうとした。
ところが、そんな私のリアクションよりも先に月子先生は「ただ」と口にする。
動きを止めた私に、月子先生は真剣な表情で「精神状態や思考を維持するという不自然な機能の道具を具現化した場合、君にどんな悪影響が出るか、全くわからない」と声のトーンを落とした。
「悪影響……」
口にはしてみたが、具体的なイメージが湧いてこない私に、月子先生は「自分で振っておいてなんだがね」と切り出す。
「例えば、何が起こっても気持ちが揺るがないように、動じないようにという仕組みにするとする」
何故だか圧を感じて、頷きづらくて「は……い」という間の空いた返事になってしまった。
月子先生は、一瞬何か言いたそうな表情を見せたが、それを飲み込んだらしく、一拍置いてから、私の反応に対しては触れずに、話を再開する。
「常に冷静で入れるかもしれないが、それは何か状況に変化が起きても、特に何も感じなくなるんじゃないかと思えてね……それって、感情がないのと同じだろう?」
私は「なんとなく、わかるような……気がします」と曖昧に頷いた。
「一見、君自身には何の変化もないのに、まるで感情をなくしてしまったら、なかなかのホラーだと思わないかい?」
更なる月子先生の言葉に、私は「ホラーというか、奇妙な話を集めたドラマでそういうの見たことあります」と頷く。
よく知った人だと思ってたら、その中身が違うというのはなかなかに怖いと思った。
自分では想像しにくいけど、例えば、花ちゃんが急に感情を失ったら、心配になるし、怖いと思う気がする。
それに、月子先生は踏み込まなかったけど、誰かが『神世界』で傷ついてしまった時、感情が動かないというのも、受け入れられそうにないなと思った。
戦いとか生存とかに焦点を当てたら、心が動かない方が良いのかもしれないけど、私たちは軍隊じゃない。
誰かが傷ついて感情が動かないなんて、私自身が嫌だし、そんな姿を皆にも見せたくないと思った。
だからこそ、私は「そうなると、月子先生のプランは使えないですね」と結論を出す。
対して、私を一瞬ジト目で見た月子先生は、そこから急に口元だけ笑みを結んで「では、大安をどうぞ、卯木凛花さん」と笑ってない目で言った。
否定するからには対案をというのは、月子先生の基本姿勢だ。
月子先生案を否定した以上、別のアイデアを出さなければいけない。
だが、この話の冒頭から頼る気満々だった私に、代案なんてあるわけが無かった。
とはいえ、月子先生の気持ちや感情に変化を起こさないって言う案は、単純に知らない間に気持ちが変えられているという点に対しては効果的と言うか、効率が良い考えだなとは思う。
では、問題点は無いかと言えば、私の感情が動かないことで、創作物に出てくるロボットのようになる可能性があるという点だ。
もちろん、推測というか、可能性の話なので、上手く機能するかもしれないけど、感情や精神に関わることを、おそらくで決断実行できない。
正直、そんな選択、怖くて出来ないし、したくなかった。
ならば、月子先生の言うとおり、別の案をということになるのだけど、これがかなり難しい。
根元を断つ形の月子先生の方法は効率がとてもいいし、効果的だ。
少なくとも心情の変化の抑制という点に関して言えば最適解だと思う。
そこまで再確認した私は、違うアプローチしかないなと、考えを改めることにした。
問題点は、自分が認識していないところで、他者の願いや思いを受容して実行してしまうことにある。
思考が書き換わるのは、願いを受け取った瞬間だが、ここを認識出来ないのが問題なのだ。
なぜなら、願いを受け止めて考えが書き換わると、考えていることが当然のことになってしまうカラに他ならない。
前後で比較をすれば、思考が変わっているのに、自分では自覚が出来ず、他者は内面の問題なので変化に気付かないわけだ。
「それこど、那美ちゃんの能力でもなければ、嗜好の変化なんて気付かないですよね……」
そう呟いた私は、いっそ那美ちゃんに監視し続けて貰う方法も考えたが、それでは負担を押し付けるだけでしかない。
他の手を考えようと思っていた私は「……あ」と、縫い式に声を上げていた。
すると、月子先生が「何か思い付いたようだね」と軽く首を傾げて笑みを向けてくる。
私は軽く頷いてから「あの、球魂の状態の相手の気持ちが知りたくて、コンタクトレンズに、思考を読み取る機能を追加したんですけど……」と口にした。
月子先生は柔らかい声で「それで?」と、反応を気にしていた私に話の先を促す。
同意を示すために首肯してから、私は「ヴァイアの目にそのコンタクトレンズを付けたら、前後の心情の変化を記録出来るんじゃないでしょうか?」と自分の考えを言葉に変えた。
対して、月子先生は何回か頷いてから「なるほど、君の思考の変化を監視するわけだね」と言う。
私は月子先生に「はい」と力強く頷いた。




