拾伍之弐拾陸 対策
「突然、変なこと言わないでください」
火が噴き出しそうな程、熱くなった頬を押さえながら、私は月子先生に抗議した。
だが、月子先生は「変なことではないよ。君の思考が、どの程度肉体の影響を受けるのかはかなり重要なことだからね」とサラリと言い放つ。
そんな言葉では、当然、納得なんかしていない私に、月子先生は「少なくとも以前……ここに来る前の君は、秘密主義的な傾向は見られなかった……つまり、それは君に変化が現れている証左だろう?」と確認する用意聞いてきた。
そう言われて、自分の記憶を振り返ってみる。
自分のことでもあるので、月子先生の言うとおりだなとはなら無かったが、確かに今よりは秘密主義的な部分はなかった……というよりは、周りの目をそれほど気にしていなかった。
一応、いつ教員として採用されても良いように、最低限の身だしなみは整えていたけど、他の人から見て、自分がどう見えているかという視点は弱かった気がする。
そうして過去を振り返りながら月子先生の指摘を吟味していると、指摘した本人から「自覚がないようだが、少なくとも、私からは君がオープンな人間に見えていたよ」と評価情報が追加された。
新たに齎された月子先生のセリフの裏に、考えるのを打ち切って話を進めたいという思いを感じ取った私は「そういう事にしておきます」と頷いて、話を進めて貰うことにする。
月子先生は軽く頷くなり、すぐに話をし始めた。
「本題はここからだ……君は納得し切れてはいないかもしれないが、私の視点で言わせて貰えば、考え方に変化が起きている。男性よりも女性の方が、周囲の目線に敏感になる傾向が強い点から考えれば、脳の構造が男性から女性に変わったことが原因だろうと、これまでは考えていた」
もの凄い勢いで放たれる月子先生の言葉にあっとされながらも、論点としたい部分を理解した私は「私の考え方が、誰かの望みというか、理想像の影響を受けている可能性ですね?」と尋ねる。
私の理解は的確だったようで、月子先生は「そういうことだ」と大きく頷いた。
月子先生の懸念、話題にしたい内容は理解したものの、そこから先が私には続けられなかった。
正直、何をどう検証すれば良いのかが思い付かない。
完全に任せきりという偏ることになってしまうのは心苦しかったが、思い付ける自信が全くなかったので、大人しく白旗を揚げることにした。
「それで、何をどう検証したら良いのでしょう……か?」
一応月子先生の様子を覗いながら質問してみたのだけど、少し呆れた表情を見せられた後、溜め息を吐き出されてしまう。
そこから月子先生は苦笑を浮かべると「考えるの放棄するのは褒められたことじゃないよ、卯木凛花さん」と言い放った。
言い逃れようもないので、私は大人しく「すみません」と頭を下げる。
月子先生はそれ以上追求するつもりはなかったらしく、一息ついてから「まあ、今回は状況的に緊急性も高いから、私の考えを聞いて貰うことにしよう」と言ってくれた。
正直、ホッとした私は、思わず力一杯頷く。
対して月子先生は、スッと目を細めて「君の学力、思考力の方も、君に対する理想像に引き摺られて低下している可能性もあるね」と、ゾクリと背筋が冷える一言を言い放った。
「へっ!?」
驚きのあまりかなり甲高く裏返った声が、私の口から飛び出す。
考えてもいなかったけど、確かに月子先生の話の通り、考え方が女性化しているように、知力も脳の状態に引っ張られる可能性はあるし、体の都合ではなく、私に向けられた理想の姿に引っ張られている可能性も、確かにあり得ない話ではなかった。
自分の知らないところで、認識出来ないうちに自分が変わっていく怖さに、私は震え声で「つ、月子先生」と縋る。
月子先生は「全く……そんな風に縋られてしまっては、ぞんざいには出来ないじゃないか」と溜め息交じりに言い放った。
「で、でも、月子先生」
どのように評価されようとも、今の状況では月子先生しか頼れないし、考えれば考える程不安になってくる。
私の様子に、改めて溜め息を吐き出した月子先生は「まず、君は封印のブレスレットをしている今、影響を受けることはない……まあ、体に引き摺られているのは、いかんともしがたいが……」と視線を外した。
「つ、月子先生! 上げて、落とすのは辞めてくださいっ!」
気持ちの乱高下で、今にも泣き出してしまいそうな気分になる。
その証拠に、既に視界は涙で潤みだしていた。
流石に、私の反応に月子先生も焦ったらしく「まあ、待て、要は現状を維持出来ればいいわけだ」と早口で言う。
スンッと鼻を啜ってから、私は月子先生の顔をジッと見詰めた。
珍しく、一瞬硬直した月子先生だったが、静香に目を閉じると「そういう道具を具現化して肆編めば良い」と言い放つ。
改めて目を開いた月子先生は「封印のブレスレットの目的は君の能力を封じることじゃなく、君の内面が変化しないことであるわけだからね」と言い加えた。




