拾伍之弐拾参 繰り返し
「全く、リンちゃんは考えすぎだと思う」
大人顔負けの呆れた態度に、ついつい恥ずかしくなってしまった私は、身を縮こませることになった。
そんな私をチラリと確認した舞花ちゃんは、更に「嫌だなって思われたら辞めればいいんだし、それでも許してくれなかったら、またその時考えれば良いんだよ。だって、そもそも嫌がらせするつもりはないんだから、嫌がられるなんて思って抱き付いたりしないでしょ?」と言う。
「それは……そうかも……」
問い掛けに対して、そう返した私に、舞花ちゃんはニッと笑ってから、グイッと顔を寄せてきた。
私は思わず体を少し仰け反らせてしまう。
無意識の行動とは言え、拒否するような反応に、舞花ちゃんからジト目を向けられてしまい、かなりバツが悪くなった。
申し訳なさと気まずさが混じった感情が表情に出ていたのか、私を見ていた舞花ちゃんは改めて大きな溜め息を吐き出す。
それから改めて「リンちゃん」と私の名前を呼んだ。
「は、はい!」
返事をした私に、舞花ちゃんは「リンちゃん、反対の立場で考えてみて欲しいんだけど、抱き付いても良いよって言ってるのに、遠慮されたり、溜められ割れたりすると、スゴくショックだと思わない?」と言われてしまう。
私はさっき口にしたばかりなのに「それは、そうかも」と同じ言葉を繰り返していた。
「じゃあ、確認!」
強めの口調で言う舞花ちゃんに、私は「は、はい」と返事をする。
「リンちゃんは舞花に抱き付かれるのは嫌ですか?」
「い、嫌じゃないです」
「舞花はリンちゃんに抱きつかれるのは嬉しいし、リンちゃんにも抱き付きたいと思っています」
「う……うん」
「じゃあ、リンちゃんが舞花に抱き付くのは駄目なことですか?」
「ダメじゃないとは思うけど……」
「じゃあ、はい」
舞花ちゃんはそう言うと両手を拡げてハグを誘ってきた。
ここで拒絶するのは確かに失礼だし、私がこんな風に両手を拡げて向かい入れる姿勢をとるのは相当に勇気が要る。
舞花ちゃんと私は年齢や立場考え方が違うと思い込んでいたけど、こちらに向けて拡げられた手の小さな震えに、こうして向かい入れる姿勢をとるのに、同じように勇気が必要なんじゃないかと気付いた。
「舞花ちゃん、嫌だったらちゃんと教えてね」
そう前置きをしてからではないと踏み込めない自分が少し情けない。
ただ、それでも舞花ちゃんが言葉を重ねてくれたお陰で、私は歩み寄ってその小さな体を抱きしめることが出来た。
抱き付いた私にの背中に舞花ちゃんの腕が回り、改めて抱き合った。
そのまましばらく時間が経ったところで、かなり恥ずかしさが増してきた私」、つい「なんで、何も言わないんですか?」と聞いてしまう。
対して舞花ちゃんは「嫌じゃないから~」ともの凄く楽しそうな声で返してきた。
表情が見えていたら悪戯っぽい笑みを浮かべていそうだなと思う。
それから、これまでの舞花ちゃんのリードっぷりに、自分が情けなくなってきた。
「なんだか、舞花ちゃんが、すっごいお姉さんのように思えてきました」
そう呟くと、舞花ちゃんは「あら、元の大きさに戻っても、舞花お姉ちゃんって呼んでもいいんだよ、リンちゃん」と小さく笑いながら言う。
舞花ちゃんのその反応が私の羞恥心を刺激して、頬が火照ってきた。
そんな私に舞花ちゃんは、とても小さな声で「リンちゃんは、舞花よりも人付き合いになれていないんだね。そこは舞花の方がお姉ちゃんみたいだから、教えてあげるね」と言ってくれる。
私が返事をしようと、言葉を選んでる間に、舞花ちゃんは話を始めた。
「花ちゃんや雪ちゃん先生から、舞花も教えて貰ったんだ」
「舞花ちゃんも?」
反射的に聞き返してしまった私の腕に回された舞花ちゃんの腕に少し力が籠もる。
何かあるんだなと思い、舞花ちゃんの次の行動をも待っていると、すぐに話が再開された。
「お姉ちゃんと舞花は、ここに来る前から球魂を出すことが出来てね……だから寝てる間のこととか、舞花やお姉ちゃんがいない場所のことも、知ることが出来たんだ」
明るさが消えてしまった語りに、舞花ちゃんが言い難いことを告白をしようとしているのがわかる。
止める事も考えたけど、告白する勇気を考えると、それも違う気がして、ただ聞くことしか出来なかった。
「……それって、風通じゃないんだよ……ね」
力なく放たれた舞花ちゃんの言葉に、胸が締め付けられ私は、衝動のままに抱きしめていた腕に力を込める。
苦しくならないように気をつけながら、それでも私がそばにいることが、存在が伝わるように力を込めた。
普通じゃない。
それは他の人、多くの人と違うということだ。
そして、違うということは奇異に映り、拒絶の対象となってしまう。
少しぼかした言い回しなのは、舞花ちゃんがそれを実感した時に、心に深い傷を負ってしまった現れなんだと思った。
と、同時に、舞花ちゃんがこれまで私に掛けてくれた言葉の源泉がソコなんだと気付く。
自分がして貰ったこと、掛けて貰った言葉を私に掛けてくれていたんだ。
きっと、心の傷に触れただろう。
それなのに舞花ちゃんは私を心配して、勇気をふるってくれたんだと思うと、目頭が熱くなるのを止められなかった。




