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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾伍章 受容真意
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拾伍之弐拾 方針

「ちょ、ちょっと待って! 私だけ安全な場所でなんて嫌ですよ!」

 頷く皆に慌てて私は抗議した。

 そもそも『神格姿』を手に入れた切っ掛けは、皆を護りたいという思いなのに、私がこちらの世界に備えていて危険に挑まないなんて、受け入れられるわけがない。

 私のそんな思いに対して、志緒ちゃんは冷静に「でも、能力を封じられているなら球魂も出せないんじゃない?」と首を傾げた。

 正直、私自身は『神世界』に挑む時、肉体そのものが『神格姿』なので、球魂を出現させる必要は無い……というかそもそも出現させられないのだけど、それはともかく、能力が使えないのにあちらに行けば足手まといになるのは間違いない。

 気持ちだけでは押し切れないという事実に、私はつい縋るように「つ、月子先生ぇ」と名前を呼んで縋ってしまった。

 月子先生は苦笑意図困惑が混じったような表情を見せてから、表情を引き締める。

「確かに皆が言うように、こちら側に残って能力を使って貰うのが、現状ではベストだね」

「えっ!? 月子先生?」

 あっさりと私を切り捨てるようなセリフに、私は思わず声を張り上げていた。

 月子先生は「そもそも、だ。他の皆と違って、君はその場の状況や雰囲気に飲まれて暴走気味になる。更に、他の皆と比べて実戦経験も少ない。むしろ、あちらに行かせる方がリスクだと思うのは当然だ」と追い打ちまでしてくる。

 しかも、否定の言葉が出てこない程の正論に、私は溜まらず助けを求めて周囲を見渡した。

 だが、皆月子先生の意見に同意してしまっているらしく、皆苦笑いか困り顔を浮かべている。

 確かに、私だって正しいと思う以上、月子先生の意見に反論があるはずもないので、当然と言えば、当然なのかも知れなかった。

 だが、それでも、私は少しでも危険な場に行きたいし、そこで皆を護るために動きたいという思いがある。

 一方で冷静な私は、その思いや行動が、今や足枷になりつつあると訴えてきていた。

 いろいろ考えた上で、今は受け入れるしかないかと思ったところで、那美ちゃんが声を上げてくれる。

「確かにぃ、リンちゃんの安全を考えたらぁ、こちらに残って貰うのが一番だとぉ、私も思いますけどぉ、でもぉ、それはぁリンちゃんの気持ちを無視してることになりませんかぁ?」

 思わず駆け寄って抱き付きたいという衝動が沸き起こるぐらい那美ちゃんの言葉は、輝く後押しに聞こえて、気付けば、私は「那美ちゃん!」と力強く名前を呼んでいた。

 そんな私の呼びかけに反応を見せず那美ちゃんは、月子先生の出方を窺うようにジッと見詰めている。

 私もどう反応するのだろうと、小さな期待を抱きながら那美ちゃんの視線を辿って、月子先生を見た。


 那美ちゃんの言葉にしばらくの間、困り顔で頭を掻いていたが、その手を止めると「確かに、那美さんの言うとおりだね」と頷いた。

 那美ちゃんから私へと視線を向けた月子先生は「君には能力を封じて貰っている……もちろん、君の安全を考えてのことではあるが、君に無理を強いているのには変わりない。その上で、君の皆と共にありたい、脅威に挑みたいという気持ちを無視するわけにもいかないね」と、穏やかで優しい声音で言う。

 私はなんと答えるべきか、上手くまとめる前に、ほぼ無意識で「はい」と頷いてしまっていた。

 その後で、完全に状況に呑まれてると気付いた私は、慌てて手首の封印のブレスレットを確認する。

 そこに間を置かず、那美ちゃんから「大丈夫よぉ、意識の書き換えは起こってないわぁ」という声が齎された。

「そ、そう?」

「単に、空気に呑まれただけでぇ……月ちゃん先生はぁ、リンちゃんの同意を必要としていなかったわぁ」

 サラリとした那美ちゃんの言葉に、私はホッと胸を撫で下ろす。

 やはり、自分の自覚がないうちに自分の思考が変わっているというのは、もの凄く怖いことだ。

 気付いていなかったなら、また違ったかもしれないけど、話を聞いてしまった以上、やはり自分の考えなのか、影響を受けたのかがもの凄く気になる。

「リンちゃんがぁ、考えずに頷いちゃっただけよぉ」

「……えっ」

 那美ちゃんの付け足しに、カッと顔が熱くなった。

 何も考えずに頷いていた自覚はあるけど、言葉にされるともの凄く恥ずかしい。

 皆に見られているのも、その恥ずかしさを増長させた。

「うぅ……か、考えて、離すことにします……」

 両手で顔を覆ってそう呟くと、優しさからか、憐れみからか、那美ちゃんを含め、私をそれ以上弄る人は現れず、代わりに月子先生が話を戻す。

「……凛花さんの希望は叶えたいと考えている……だが、すぐに封印を解くわけにはいかない……段階的に実験を重ねて、凛花さん自身が能力をコントロール出来るようになるか、あるいはコントロールできる道具を生み出すことが目標だ。これがクリア出来れば、後は凛花さんの意思に委ねる……で、どうだろうか?」

 月子先生の提案に異を唱える人はいなかった。

 元々、月子先生と二人で話した時に、この方針は決まっていたけど、こうして皆の前で話したことで、共有の認識になる。

 皆の理解と納得を得られた今、あとは、私が上手く使いこなせるようになるだけだった。

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