拾伍之拾捌 合流
「と、ともかくだ。雪姉の件は、後で本人に確認してみることにする」
月子先生は何故か私から視線を逸らしつつ、そう宣言した。
思惑はわからないけども、なにかしらの照れ隠しをしているのが行動の根幹にあると直感した私は、敢えて触れずに「それじゃあ、雪子学校長への確認の件はお任せします」と話を切り上げる。
代わりに「それよりもこれから先はどう動くんですか?」と話題をこの先に移してみた。
流石にあからさまな振りだったからか、一瞬ジト目を向けた後で、月子先生は盛大に溜め息を吐き出す。
その後で、月子先生は「今は緊急処置としてそのブレスレッドを作って貰ったわけだが、より精度の高い道具を生み出したいと考えている」と私の腕のブレスレッドを指さした。
「これでは、ダメってことですか?」
指さされたブレスレットに視線を向けつつ尋ねる。
月子先生は「正直、君に不自由な思いをさせたくないと考えている……封印が必要な能力だけを封じておくことが出来れば、それが一番だとね」と返してきた。
対して、私は少し意地悪な言い回しで切り返す。
「月子先生が、私の能力も使いたいってだけじゃないんですか?」
私の言葉に対して、月子先生はあっさり「否定はしない……いや、むしろ、君の能力が封印されきってしまうと、研究がはかどらなくなってしまうので、探究心を第一にするなら、そのブレスレット自体ハズしてしまいたいところだね……ああ、反対の手の火行の数珠もね」と言い放った。
流石にそこまで言われるとは思っていなかったので、私は呆然としてしまう。
それを見た月子先生は大笑いをし始めた。
「な、なんですかっ!」
明らかに馬鹿にされていると感じた私は、思わず荒っぽい抗議の声を上げる。
対して、月子先生は澄まし顔になって「多少はやり返せたかなと思ってね」と、顔に向けて手をヒラヒラと動かして、風を送るような素振りを見せた。
皆と合流したのはお昼の食堂だった。
食堂に、私、月子先生の順で足を踏み入れると、すぐに舞花ちゃんが「リンちゃん、大丈夫?」と駆け寄ってきてくれる。
「心配掛けてごめんね! でも、一応、解決策は手に入れたから!」
私は可能な限り明るい声で応えながら、新たに私の手首に装備されたブレスレットを皆に見せた。
当然、私の手首のブレスレットは皆の注目を引く。
「リンちゃん、それ、何かの道具って事だよね?」
対策として疲労したことから詳細を推測したのであろう花ちゃんが、ちらりと月子先生の様子を確認しつつ、そう尋ねてきた。
「そうです。これは私の能力を封印する道具です」
私が問いにそう答えると、今度は花ちゃんだけでなく、その場の全員が月子先生に視線を向ける。
思わず、私の説明では納得出来ないのだろうかと、少しモヤッとしたが、不満は心の中に押し込めて、私も月子先生の反応を確認するために視線を向けた。
皆からの視線を受けた月子先生は「皆も心配に思っているだろうから、簡潔に説明する。しっかりと効いて欲しい」と皆を見渡しながら言う。
首の振り方は人それぞれだったが、雪子学校長や花ちゃんを含めたその場のそれぞれ頷く中で、唯一、那美ちゃんだけが頷いた頷いていないか判断が付かないような、曖昧な動きを見せていた。
ずっと見ていたわけではないので、頷くタイミングを見逃しただけかもしれないと考えた私は、その事は流すことにして、月子先生の説明に意識を集中する。
そして、月子先生の口から『神様』や『穢れ』、『死滅事件』などといったワードを外した説明がなされた。
「えーーーと、つまり、リンちゃんは『アイガル』とかヴァイアとか、私たちの欲しいものを具現化しているうちに、私たちのイメージ通りに意識毎変わり始めていたってこと?」
「そういうことだね」
志緒ちゃんのまとめに対して、月子先生が大きく頷いた。
「そ、それって、どうなるの?」
少し顔を青くして、舞花ちゃんは私の腕に縋り付きながら尋ねる。
月子先生は少し困った顔をして「どうなるかはわからない……だが、可能性としてだが、凛花さんは凛花さんではないロボットのようなものになってしまう可能性がある」と答えた。
舞花ちゃんは更に顔を青くして私を見ながら「ロボット?」と漏らす。
「あ、機械の体になるわけじゃないよ……多分」
青ざめた舞花ちゃんの気持ちをほぐしてあげたいと思ってそう言ったのだが「それくらい、舞花にもわかるよ!」と怒らせてしまった。
しまったと思い、舞花ちゃんに謝ろうと口を開き掛けた私より先に、東雲先輩が「それは、凛花が自分の意識……考えを持たなくなるという意味ですよね?」と月子先生に尋ねる。
舞花ちゃんの目も月子先生に向いてしまったせいで、謝罪のタイミングを失ってしまい仕方なく私も視線を向けた。
「少し違うな……意識はあるし、普通の状態と変わらないように見える……が、その考えていること、行動、話す言葉、それら全てが、話しかけた側の想像する凛花さんそのものになってしまう……」
月子先生の言葉に、皆はそれぞれ顔を見合わせる。
正直、難しい話なので、理解するのはかなり困難な内容なので、皆曇った表情を浮かべていた。




