表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾伍章 受容真意
557/814

拾伍之肆 懸念

「君の表情と感情のズレが見られるワケだが……これはそう簡単に解決しないかもしれないな」

 私の感じていたこと、思っていたことを聞いた上で、月子先生はそう言って頭を掻いた。

 その仕草は、難題や困難に直面した時に、月子先生が何度か見せていたクセのようなものなのだけど、この態度をとる時は決まって口元に笑みを浮かべる。

 今回も月子先生の口元には笑みが浮かんでいて、面倒くさいとか困難だと思っている反面、楽しんでもいるのだ。

 困難一辺倒だったら、申し訳ない気持ちで一杯だったろうけど、好奇心を抱いてくれているのなら、その罪悪感はかなり薄れる。

「まあ、君と研究するのも、割と気に入っているからね。それも良いだろう」

 良い笑顔で突然そんなことを言う月子先生のせいで、胸が大きな鼓動を刻んだ。

 私はその体の反応を誤魔化して蓋をするために、無理矢理質問を組み立てる。

「あ、あの……な、なんで、その、私の気持ちと表情にズレがあると思いますか?」

 流れとしてはそれほど不自然で無かったからか、月子先生は「ふむ」と一言口にしてから、それほど間を置かずに考えを語ってくれた。

「私が有するのは、精神に関与する能力だというのは、既に説明したと思うのだが、その観点で考えるとだね。君自身の表情は、着物着青を見ている相手に依存するんじゃ無いかと、私は考えている」

 月子先生の言葉が上手く理解出来ずに、私は視線を彷徨わせる。

 そんな私の反応を見つつ、月子先生は「今、君がどういう心境なのかはわからないが、説明をしたいと思っている私には、君が好奇心のみ落ちた目で私を見ているように見えている」と口にした。

「えっ!?」

 視線を彷徨わせていた私は、少なくとも月子先生を直視してはいない。

 それが驚きとして声から出たわけだが、月子先生は「今、君の声は驚いたように聞こえたが、表情事態に変化は無い……だが、途中で君は表情豊かだと考えたところで、今君の表情は驚いたような顔に変わった」と自分の観ている私の姿を淡々と説明した。

 だけど、その事実が私の中で層を結ばない。

 私の中は『どういうこと?』という思いで満たされていて、冷静に思考を深めることが出来なかった。

 月子先生は、そんな私の状況を理解した上でか、あるいは話の流れデカはわからないが、一つの結論を口にする。

「私の考えだが、君は自分の意識や考えに関係なく、相手に『()()()()()()』を見せる状態になっているのでは無いかと思う」

「……相手が思う……」

 私の呟きに対して「相手が望むと言い換えても良いかもしれない」と月子先生は言い切った。

「今、現時点では、君の反応……影響が出ているのは表情……もしかしたら、仕草も含めてだが、見てわかる範囲に留まっていると思われる」

 月子先生の指摘が正しいのか間違っているのか、判断するための確固たるものが、今の私の中には無い。

 でも、少なくとも月子先生には、そう見えているし、そう映っているのだというのは頷けるので、私は戸惑いを感じながらも「……はい」と頷いた。

「ここからは推測で、そうなるとは断言出来ないが……私は今後、君の発する言葉にも影響を及ぼすことになるかもしれないと考えている」

 月子先生が何を言いたいかピンとこないのだが、私の中の何かがこの先を聞き逃してはいけないと訴えている。

 そこで、私の表情や態度が月子先生には誤認されているかもしれないことを思いだし、考えていることを慌てて言葉にすることにした。

「あの、それって、どうなるってことですか……その、イメージが浮かばなくて……」

 月子先生に頼り切っていることを少し苦く感じながらも、誤解をしない方が良いという私の中の声に従って、その答えを待つ。

 その思いが伝わったのかどうかはわからないけど、月子先生は「要は、君自身が君に対する願い事を体現する存在になりかねないということだ」と答えてくれた。

 だが、私自身はそれだけでは意味を理解しきれない。

 月子先生は少し時間を掛けて私を観た後で、ゆっくりとした口調で言葉を付け足してくれた。

「君が何を考えているかに関係なく、君を相手にした人が、君に笑って欲しいと思っていれば、君は笑い、泣いて欲しいと思えば泣き、怒って欲しいならば怒る……そういう存在になってしまうかも知れないと私は危惧している」

 ゾクリと背中が冷える言葉に、私は反応することができない。

 それが月子先生にどう映っているかはわからない……もしかしたら、続きを望むように目を輝かせているかもしれないし、ショックを受けて震えているかもしれない……そう考えると、とても恐ろしいことだと思った。

 本来の思考も考えも行動も相手に感じ取って貰えなくなり、相手の思う私だけが存在していることになる。

「……月子先生」

 思わず震える声で縋るようにその名前を呼んだ。

 いつの間にか目を閉じていた月子先生は深く頷いて「今は見た目だけ、いずれ、声も……だが、本当に恐ろしいのは、君自身の思考自体が上書きされてしまう可能性だ」と言う。

「そ、それって……」

 私の聞き返しに、月子先生は「推測ではないが、求められることに応じる事が常態化すれば、君自身の意思が君自身の能力によって、相手が望むように書き換えられてしまうのじゃないかと考えている」と言い切った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ