拾伍之壱 神様
「君自身、既に自分の特別さの自覚はあるだろう?」
頭を上げた月子先生は、変わらず真面目な表情を浮かべたままだった。
どうやら、途中中断したが、二人だけの、ここだけの話を再開するように思える。
それがこれまでの経験に基づくものか私の能力の発動なのかは今回もわからなかったけど、そこはもう踏み込んで考えないことにした。
「特別……というと、認めるのに抵抗はありますけど……」
そこで間を開けて月子先生の反応を確認したけど、特に動きは見えない。
月子先生にとっても、前提に過ぎないのだろうと感じながら、私は話を続けることにした。
「皆には出来ない事が出来るという実感はありますが……一方で、能力の方向性が違うだけとも……」
付け足した言葉は、受け入れたくないと思う私の抵抗に過ぎない。
だからこそ、自然と声が小さくなってしまっていた。
そんな私の言葉に対して、月子先生は何も言わない。
ただ、ジッとこちらを見詰める眼差しが『わかっているだろう?』と問い詰めているように見えて、私は自分なりの根拠を口に出した。
「例えば、那美ちゃんの能力は現実でも使えますし……そうだ、雪子学校長! 雪子学校長の能力も、月子先生の能力も、使えますよね! 私だけが特別ってことは……」
言葉を重ねる程に、私の理論は空回りをしているんじゃ無いかという思いが強くなる。
「凛花さん」
既に自信が僅かしか残っていなかったこともあって、名前を呼ばれただけで、私の体は大きく震えた。
そのまま言葉を続けることが出来なくなってしまった私に、月子先生は「君の特別は、受動的という点だよ」と言う。
その発言で、月子先生の言う『特別』とは、他者からの影響で、私の能力が発現している点だと理解した。
途端に、私の中でそれならば受け入れられるという思いが生まれる。
お陰で一気に気持ちが軽くなった私は「変身が志緒ちゃんのイメージで発現したからですよね?」と尋ねてみた。
対して、月子先生は「それは決定打ではあるが、これまでに読み取った他者のイメージを具現化に反映している点も『特別』に含むと思っている」と言う。
どうも月子先生の言い回しからして、その言葉に秘められた意味は、他の人の能力の使用と違うという事だけではないようだ。
そう考えた私は、ここで一気に踏み込むことに決める。
「つまり、その『特別』な点が、月子先生の話したいことなんですね?」
私の言葉にしばらく反応を返さず、じっとこちらを見るだけだった月子先生は大きく息を吐き出すと、こちらに背を向けるようにしてベッドに腰を下ろした。
「君は神様というものについて、どんなイメージを持っている?」
唐突な質問に、私は「え?」と聞き返すことしか出来なかった。
月子先生はこちらに背を向けているので、どういう表情を浮かべているかはわからないが、ピンと張り詰めた空気からして、かなり真剣な質問なのだと思う。
私もその真剣さに応えなければと思い、月子先生の発言を頭の中で繰り返してから、しっかりとした答えを返すためにも「神様のイメージですか?」と尋ねた。
「君の思想では無く、一般的なイメージで良い」
そう返された私は「一般的に……」と反復しながら、考えを巡らせる。
民俗学的、宗教学的、歴史的、いろんな視点がある中で、あえて『一般的に』と月子先生は言っているのは間違いなかった。
ならば、単純な答えをホッしているんだろうと考え、少し馬鹿な答えかもしれないなと思いながら「端的に言うと、願いを聞き届けてくれる……でしょうか?」と言ってみる。
恋愛成就であれば恋が叶うように、良縁に恵まれるように……厄除けであれば、災難から救って欲しい、不幸を払って欲しい……と、祈願の内容もご利益も様々だが、極論で言ってしまえば、人間の抱く願望を伝えるのが祈願で、神様はそれを成就してくれる存在というのが一般的な考えの筈だ。
もちろん人によって考え方受け止め方は違うと思うけど、大きくは外れていないと考えつつ、月子先生の反応を待つ。
「ならば……」
月子先生はそこまで口にしたところで、言葉を止めてしまった。
言葉を止めてしまったことに疑問を感じながら、私は「月子先生?」と声を掛ける。
すると、月子先生は改めて「ならば」と口にしてこちらを振り返った。
「自分が望んだものを出現させることができる存在を『神』と呼ぶことに違和感はあるかい?」
月子先生の問い掛けに、私は強烈な衝撃で反応を示すことが出来ない。
目の前で月子先生から投げ掛けられた問い掛けが、何のことを元にしているのか、はっきりとわかっているのに、頭が受け入れを拒んで、私はフリーズ状態になってしまっていた。
神様の定義が『願い事を叶える存在』とするならば、これが欲しいという思いを叶える存在は『神様』と呼べるかもしれない……つまり、私は……。
月子先生が明確にそう言ったわけではないけど、言いたいことはそういう事の筈だ。
全身が震えるのを感じながら「月子先生は……私が……」と口に出して問い掛ける。
そんな問いに対して、月子先生は「いや、君が神様だとかは全くいうつもりは無いよ」と秒で呈してきて、私は「は?」と間抜けな声を上げるハメになった。




