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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾肆章 天姿無縫
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拾肆之参拾参 合同授業

 今日の授業は一時間目から、普段の教室から場所を変えて、被服室という裁縫に関しての道具が備え付けられた教室での授業となった。

 この授業では、早速『ミルキィ・ウィッチの衣装作り』が課題となり、昨日出現させたサイズの変わる制服が、最初の教材として選ばれたのである。

 どう教材とするかと言えば、縫い合わされ、服を構成している各パーツを確認するところからだ。

 このパーツの形を新聞紙に写し取って切り抜き、テープ留めで服の形を作ってみる。

 というわけで、舞花ちゃんと結花ちゃん、志緒ちゃんと私、那美ちゃんと東雲先輩のグループに分かれて、作業することになった。

 この課題の間の相棒となった志緒ちゃんは、服作りに経験があるのもあって、私に手本を見せながら、作りを確認している。

「ちゃんと、パーツに分かれているのがスゴイよね」

 志緒ちゃんは制服を表裏と幾度も繰り返しながらそう感想を漏らした。

 そんな志緒ちゃんに対して、私は思ったままを伝える。

「正直なところ、私は服の構造まで考えていなかった……というか、見た目のイメージですら朧気だったので、ちゃんと普通の……既製品の服のように作りがしっかりしてるのは、志緒ちゃんのイメージのお陰だと思うんですけど……」

 私がそう伝えると、志緒ちゃんは「うーーん」と唸りだしてしまった。

 志緒ちゃんが何故唸っているのかがわからなかったので、思い切って、ストレートに聞いてみる。

「どうしたんですか?」

 私の問い掛けに反応して、ピタリと唸るのを辞めた志緒ちゃんは「なんと言えば良いか……」と呟いてから、ノートをペラペラとめくって、白紙のページを開いた。

 何が起こるんだろうという好奇心がうずくのを感じながら、志緒ちゃんの次の行動を待つ。

 自分の筆箱から鉛筆を取り出した志緒ちゃんは、キャップを取り外して、絵を描き始めた。

 迷いの無い線で描き出されたのは、ミルキィ・ウィッチの制服で、ブレザー、ブラウス、リボン、スカートとバラバラに書かれている。

 志緒ちゃんはそこまで描いたところで手を止めると、顔を上げて私を見た。

「全部着た状態だけじゃ無くて、こうやって、ブレザーとかスカートとかに、分けて考えたりはしてるけど……流石にどういう構造かとかは考えてなかったかなぁ」

「そうなんですか? 服を作れるからてっきり……」

 私がそう口にすると、志緒ちゃんは「ここしばらくは『アイガル』の頭になってたから、未だ服作りの準備をしてなかったんだよ……だから、構造を考えたり、調べたりするのはこれからだったんだよね」と言う。

「なるほど」

 私が頷くと、志緒ちゃんは「とはいっても、制服は私たちが着ているものと同じ構造みたいだから、今着ている制服が参考になってるのかも、違うところはそんなに多くないからねー」と言いつつこちらをジッと見始めた。

 大変、かなり、もの凄く、嫌な予感がする視線に、本当は触れたくなかったのだけど、放置も出来ないので、心の中で溜め息を吐いてから「どうしました?」と視線の理由を聞いてみる。

 すると、志緒ちゃんはそれを切っ掛けに饒舌に話し出した。

「制服は、今、着ているものがあるじゃ無い? だから、構造とかがちゃんとしててもおかしくないと思うんだけど、魔女服の方は、参考になるものが無いと思うんだよね。だから、どんな構造になっているか、調べたいじゃ無い? 魔女服は脱げないかもしれないけど、服としてきた状態にはなるわけだから、これから先の課題をクリアするために調べた方がいいと思うんだよね!」

「え、あ、うん」

 志緒ちゃんの勢いに飲まれて、曖昧な返事をしたのに……いや、それが良くなかったらしい。

「だよね! リンちゃんもそう思うよね!」

 思わず『何が!』とツッコみかけた私より先に「じゃあ、舞花ちゃんにお願いして変身しよう!」と言い出した。

 そういう事かと、早口の説明で志緒ちゃんが導きたかったものを理解した時には、既に状況は取り返しの付かないところまで進んでいるという困った事態になる。

 まず、即座に反応したのは舞花ちゃんだった。

「わかったよ。しーちゃん、すぐにスーちゃんを呼ぶね!」

 そう宣言した直後に、家庭科を担当する花ちゃんに視線を向ける。

 両腕を上に上げて大きな丸を作った花ちゃんを見た舞花ちゃんはすぐに鞄からスマホを取り出して捜査を始めた。

 私はそこでようやく行動を起こさなければと志緒ちゃんに振り向く。

「待ってください。変身は志緒ちゃんがしてもいいんじゃ無いですか?」

 志緒ちゃんはそんな私の質問に首を横に振って「リンちゃん。冷静に考えて」と真面目な顔で返されてしまった。

「え、えーと?」

 返す言葉に詰まった私に、志緒ちゃんは「もしも脱げない構造だった場合、自分で着てたら、構造とかサイズとか調べられないでしょ?」と諭すように言われてしまう。

 そんな志緒ちゃんに対して、私は無意識に「確かに」と頷いてしまった。

「ご理解いただけたようで何よりです」

 にっこりと微笑んだ志緒ちゃんは、そのまま私の腕の上に、制服一式をあっという間に乗せてしまう。

 その上で「着替えは……」と口にしながら花ちゃんを振り返った志緒ちゃんは大きく頷くと、こちらに顔を戻して「準備室で、ね」と笑みを浮かべた。

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