拾肆之参拾弐 気遣い
閃きを得てしまった舞花ちゃんは止まることを知らなかった。
「リンちゃん自身の能力で、私の妹になると負担になるかもしれないけど、雪ちゃん先生の能力なら問題ないよね?」
舞花ちゃんの問い掛けに、多少驚いた表情を見せているが、雪子学校長は「そうなるね」と頷く。
肯定されたことで、舞花ちゃんは笑みを深めて私に振り返った。
「じゃあ、リンちゃん、お休みの日は私の妹になれるね!」
「そ……そ、う、だね?」
頭の中に疑問符が飛び交っているけど、舞花ちゃんの勢いに飲まれて、混乱した頭のまま頷いてしまう。
「雪ちゃん先生、とういうわけでお休みの日はリンちゃんに妹になって貰うことに決まりました! リンちゃん本人の許可も貰ったし、良いよね?」
舞花ちゃんの確認の言葉に、雪子学校長は苦笑気味に「そうだね。まあ、毎回、卯木くんに確認した上でという条件入るだろうが、私は協力を惜しむつもりはないよ」と答えた。
雪子学校長の了承を得たことで満足そうに頷いた舞花ちゃんは「それじゃあ、リンちゃん。お休みの日は全部舞花に任せてね」と胸を叩く。
本当に嬉しそうにする舞花ちゃんを前に、今更なかったことにはできないと諦めた私は「う、うん」とぎこちなく頷いた。
「マイちゃん。私もお世話したいわぁ~~」
くねくねとしながらそう言って手を上げたのは那美ちゃんだった。
許可を求める先が、なぜ私でなく、舞花ちゃんなのか、ものすごく引っ掛かるものがあったのに、那美ちゃんのその希望が話の流れを決定づけてしまう。
「マイちゃん、私も!」
「あ、私もいいですか?」
志緒ちゃんに、花ちゃんも手を上げて参加表明した。
結花ちゃんは「皆で一斉にお世話しようとするのは、凛花に負担を掛けるから、順番をちゃんと決めましょう!」と仕切り出す。
さすがに、このままでは『流れに押されて、取り返しがつかなくなるのでは?』と危機感を抱いた私は「あの、私の意見は!?」と話の流れにくさびを打ち込んだ。
直後、皆の視線が改めて私に向いたので、推し切ってしまおうと息を吸い込む。
が、その間がいけなかった。
舞花ちゃんが私が話し出す前に「安心してリンちゃん。皆、リンちゃんが可愛くてお世話をしたいだけだからね。嫌なことは絶対しないから、お姉ちゃんたちを信じて!」と目をキラキラ輝かせて自信を見せる。
完全に出ばなを挫かれた私は、またも「あ、はい」とぎこちない返事しかできなかった。
「どうしてこうなった……」
頭を抱える私に声を掛けてくれたのは、東雲先輩だった。
「大丈夫か、凛花?」
私は「大丈夫ですよ! 体の見た目は大きく変わったりしましたけど、今は元通りですし!」と返す。
でも、それは東雲先輩の質問の意図には合ってなかったようで、東雲先輩は困った様子で動きを止めてしまった。
「あ、なんか……違うことを答えちゃいましたか?」
「いや、その……なんというか、無理をしているんじゃないかと思ったんだ」
探り探りといった感じで、とても気を遣ってくれているとわかる東雲先輩の態度に、なんだか嬉しくなって口元がもにょもにょと勝手に動き出してしまう。
東雲先輩に限って、私の表情を見て馬鹿にしたりはしないと思うけど、なんだか自分でも認識出来ていない表情を見られるのがもの凄く嫌だった。
そう思った瞬間、私の体は勝手に顔を両手で覆い隠してしまう。
直後、すぐさま反応をした東雲先輩が「凛花!?」と驚いた様子で私の名前を呼んだ。
そこで自分が顔を覆ってることに気が付いた私は「な、なんでもないでしゅ!」と噛み噛みで答えてしまう。
当然、東雲先輩に『何でも無い』と思って貰えるわけが無く、真剣な眼差しを向けられてしまった。
「凛花は優しいから、皆の気持ちを裏切りたくないって言う気持ちはわかる。でも、皆のために自分を犠牲にするという考え方は良くないぞ」
「し、東雲先輩」
熱く訴えられた東雲先輩の言葉はじんわりと子Kじょろに温かいものを齎してくれた。
一方で、その切っ掛けは自分でもよくわかっていない感情を元にした顔を隠すという謎行動なので、もの凄く居心地が悪い。
どうしようという思いで頭がいっぱいになって、上手い返しを思いつけないまま、ジッと見つめ合うことになってしまった。
お互い行動を起こさなかったせいで、見つめ合う時間がそれなりに長くなってきて、今度はその事で心がざわめき始めた私は、無理矢理話を切り出した。
「あー……えーーと……」
とはいえ、苦し紛れで発する言葉に明確な指針があるわけも無く、まともな形には組み上がらない。
そんな私に、東雲先輩は穏やかな口調で「言い難いなら無理に言葉にしなくていい」と言ってくれた。
切っ掛けが私の得体の知れない気持ちだというのが申し訳ないくらい真剣に考えてくれていることが申し訳なくて仕方ない。
尚も「凛花の思うようにやって、本当に辛くなったら俺に言え。頼りないかもしれないが、凛花の力になるつもりだ」と優しい言葉を重ねてくれた。
そんな東雲先輩に状況説明も出来ず、私は申し訳ないとは思いながら「ありがとうございます
」と言うことしか出来ない。
対して、東雲先輩は「凛花がしんどくなければそれで良い」とだけ言って私から離れて行った。




