拾肆之参拾 抗議
「まあ、私も凛花君を大事に思っているからね。愛情が条件という可能性は否定出来ないが……」
澄ました顔で、そんなことを言う雪子学校長に、私はジト目を向けていた。
既に体は元の五年生相当の姿に戻している。
一応、この姿が今の私の基本になっているので、これより幼い姿というのを維持すると、歪みが生じるかもしれないという月子先生の話は、納得できるからだ。
にも関わらず、実験とはいえポンポン姿を変えられているという現状に不満を感じる。
なので、速やかに抗議の声を上げることにした。
「私に本当に愛情を抱いてくれているなら、実験する必要があっても、そうコロコロ姿を変えようとしてこないでください!」
渾身の私の言葉に対して、雪子学校長は「それもそうだね。実験はしばらく控えるとしようか」と頷く。
「へ?」
想定していた返答と違ったせいで、間の抜けた声が出てしまった私に、月子先生も「肉体的な疲労は計測や観察でわかることだが、精神的な部分は君の主張に頼らざるを得ないところがあるからね。負担を感じているなら、しばらく休むことにしよう」と続いた。
更には「ああ、もちろん、他の子達にも伝えておく。なに、君の身体を思ってのことだと伝えてれば、皆理解した上で協力をしてくれるよ」と微笑む。
「え、えーと……」
なんと言ったら良いかわからず、言葉が出てこない私に、月子先生が心配そうな表情を向けて「今日は検証を終わりにするかい?」と声を掛けてくれた。
心配してくれているのが嬉しいと感じる一方で不安もある。
下手に悪寒が得ても言葉が出てきそうに無いので、不安な気持ちに任せて尋ねてみることにした。
「あ、の、いいんですか? その、検証しなくて……」
急な流れの変化に、私の中の不安はドンドン増してきている。
そんな私に苦笑を浮かべた雪子学校長は「確かに凛花君の能力を把握するのは重要事項ではあるがね。君に負担が掛かるような選択をするつもりは無いんだよ」と言い切った。
雪子学校長は更に「君はうっかり忘れていることが多いが……」と口にして、柔らかな目を私に向ける。
一拍、間を置いてから「凛花君も可愛い生徒の一人なんだ。忘れないでくれたまえ」と行って私の頭を撫でた。
「どうしたんですか、凛花ちゃん?」
並んで、布団に横になっている花ちゃんから、そう問われた私は答えに困ってしまった。
私で遊ばないようにと苦言を呈した時は、言葉の応酬をする覚悟だったのに、結果的には夜の講習も検証も今日は終了となってしまっている。
既に入浴も終えて、こうして花ちゃんと枕を並べて布団に入っているのだ。
切っ掛けは私の言葉だけど、行き着いた先が予想外で、なんと答えるべきかが浮かんでこない。
私が黙ってる間に、いろいろ考えさせてしまった花ちゃんが体を起こしてしまった。
「大丈夫ですか、凛花ちゃん?」
心配そうにこちらを見る花ちゃんの表情を前に、私は慌てて「大丈夫です!」と答える。
けど、言葉だけでは全く納得してくれなかったらしく、心配そうな表情は変わらなかった。
これは説明するほか無いと察した私は、目論見が外れたことを笑われる覚悟で、事情を説明する。
真面目な表情で聞いてくれている花ちゃんだが、鼻がヒクヒクして大きく膨らんだり、唇の端がもにょもにょしているのを私は見逃さなかった。
私の説明の後、少しの沈黙を挟んで、花ちゃんは口を開いた。
「まあ、絶対とは言えないけど……お姉ちゃん達も凛花ちゃんとの距離の取り方には苦労してると思うんだよ」
「……距離の取り方ですか」
そこはわからなくも無い。
冷静に考えて、新たな教員が、小学生の生徒になったら、確実に私だって戸惑ったはずだ。
単純に生徒として扱えれば簡単だけど、中身が教師の端くれではそう簡単には扱えない。
逆に、大人として気を遣えば、今度は他の子達との差が顕著になってしまうはずだ。
我ながら扱いにくい存在だなと、苦笑いが出てしまう。
そんな私のおでこに前髪をかき分けるようにして、花ちゃんの柔らかな手が触れた。
「急に女の子になってしまったんですから、精神的にも、肉体的にも、影響が大きいですし、五年生相応の体なら思春期という心の成長も影響してくる年頃ですからね。しかも成長期は自分でも、不調に気付きにくいですからね。でも、皆が凛花ちゃんを好きなことは間違いないので、安心してくださいね」
おでこを撫でる手は優しい。
とても心地よくて眠りに差添わらそうだった。
けど、花ちゃんの口にした言葉に対する違和感で、私は「あれ?」と疑問の声を上げる。
損私を不思議そうに見ながら「どうかしましたか?」と尋ねてきた花ちゃんに、私は何も考えず、今し方考えていた教師の資格を持った生徒の扱いの難しさに苦戦しているのでは亡き後言う見解を示した。
結果、花ちゃんはお腹を抱えて笑ってしまっている。
「は、花ちゃん!」
「はっ!!」
私の怒りの籠もった声に我に返った花ちゃんは、飛び起きて体を回転させると、なんと綺麗に正座を決めた。
その一連の動きの淀みの無さに驚く私を見た花ちゃんは、盛大に噴き出す。
「ちょっと、花ちゃん!?」
怒りで体が震えるのを感じながら二度目の抗議の声を上げると、花ちゃんは笑いながら「すみません」を繰り返し口にした。




