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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾肆章 天姿無縫
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拾肆之弐拾捌 検証その参

「ふむ。無事、私の囁きでも『変化』出来るようだね」

 月子先生はそう言いながら私の周囲を回りながら、変化の確認を始めた。

 私は体からずり落ちる体操服を押さえるのだけ精一杯で、月子先生に何かを言う余裕はない。

「その小さな体では、脱げ掛けている服を支えるのも大変そうだ……元の姿に戻ってみてはどうだろうか?」

 表情一つ変えずサラリと言い放つ月子先生に『誰のせいだと思っているんですか!』と一言文句を言いたいところだけど、舌戦で勝てる気がしないので、さっさと元戻ることにした。


「よし、次は、私が予めイメージを送るタイミングを伝えるから、それを拒んでみてくれ」

 喜々とした声で言う月子先生に、私はジト目を向けて「少し待ってください」と告げた。

 というのも、ぶかぶかになってしまった体操服を抑えながら元に戻ったせいで、いろいろズレてしまっていて、着心地が悪いどころの話では無い。

 めくり上がった袖を引っ張って本来の半袖に整え、ズボンを引き上げ、腰に移動させ、手足以外がちゃんと隠れるように整えた。

「はぁ」

 一息ついたところで、月子先生が「それでは、いいかな?」と尋ねてくる。

「早いですよ! 少しは休憩させてください!」

 思わず強めの口調で返してしまったが、月子先生は気にした素振りも見せずに「ふむ……疲労感があるということかな?」と首を傾げた。

「それとも、変化するためのエネルギーに不足を感じるのかな?」

「え?」

 想定していなかった問いに、思わず思考が止まる。

「どういう感覚があるのか教えてくれるかな?」

 思考が止まったところで、月子先生にそう尋ねられた私は、気付くと「えっと……体に違和感はありません」と答えていた。

「では、実験を再開しよう」

 あっさりと言ってのける月子先生なら、すぐにでもイメージを送りつけてくると、確信した私は、肩に伸びてくる手を見ながら『変化しないぞ』と強く念じる。

 そうして身構えていた私の肩に、月子先生の手が触れた瞬間、体中を衝撃が走った。

 痛みがあるわけでも無いし、暑さや冷たさを感じるわけでは無い。

 ただ、何かが体の中でぶつかりあっている感覚があった。


「ふむ……変化が起きないね」

 そう言って月子先生が手を離した瞬間、体内の何かがぶつかり合う感覚が消え去った。

「はぁ」

 意識せずに息を吐き出した私に、月子先生は「大丈夫かい?」と尋ねてくる。

 私は即答を避けて、手を握ったり拡げたりして、果敢格に違和感が無いことを確かめてTから「大丈夫そうです」と答えた。

「それは良かった」

 月子先生はそう言って笑むと、そのまま私の肩に触れる。

 直後、肩から手の先、足の先へと何かが広がる感覚がして、直後視界が急に切り替わった。


「強く意識していないと、拒絶出来ないというワケか……」

 顎に手を当てて思案を始めた月子先生を睨みながら、再び元の姿に『変化』した。

 二度目なので、先ほどよりは悪戦苦闘せずに体操服を整えることに成功する。

 不意打ちでの検証なのだと、結果から考えれば理解出来るものの、完全に油断していたところへのイメージの送り込みだったので、してやられたという気持ちが強かった。

「検証としては、いつから他者の影響で『変化』出来るようになったのかを検証したかったが、コレばかりは無理だね」

 思案の間中、顎に当てていた手を離し、月子先生は大きな溜め息を零す。

 そんな月子先生の態度に感化されたわけでは無いけど、いつから他の誰かのイメージや囁きで『変化』するようになってしまったのかは知っておきたいと思った。

 何しろ、最初からそうだったのか、それとも、何かの切っ掛けで『変化』するようになったかではかなり状況に違いがある。

 後者の場合は、切っ掛けをどうにかすれば、他の誰かの影響で『変化』しなくなるはずだからだ。

 なので、私としては出来ればどうにかして底を見極めたかったけど、月子先生の方は早々に諦めたらしい。

「ひとまず、囁き……命令と言っても良いかもしれないが、変身の切っ掛けは『声』だと思っていたのだけど、そうでは無いのかもしれないね」

 月子先生がそう言って切り出した新たな切り口に、私はハッとした。

「……確かに、月子先生の囁きを聞いていないかも……」

 私の呟きのような発言に頷いた月子先生は「代わりに、私が君の肩に触れたのが、切っ掛けに見えたが……」と言う。

 なるほどと思いながら「確かに、私も、月子先生に肩に触れられた瞬間、何かが全身に巡って言った感覚がありました」と感じたものを報告した。

 月子先生は深く頷くと「この場合は君への接触が切っ掛けということかな」と軽く首を傾げる。

 何故月子先生が考え込んでいるのかわからず様子を覗っていると、雪子学校長がポンと背中から腰に触れた。

 直後『変化』したときほどでは無いけど、何かが体中に広がる感覚が走る。

 振り返って、手お主が雪子学校長だったことを確認してから「どうしました?」と尋ねてみた。

 ちなみに、私の体には『変化』は起こってない。

 私の背中から手を離した雪子学校長は、自分の手を見ながら「幼女の姿になれと念じたが、変化は起こらないようだね」と呟いた。

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