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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第拾肆章 天姿無縫
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拾肆之弐拾漆 元の姿

「それにしても、体のサイズに合わせて伸縮する服というのは、随分と無茶苦茶を通したものだね」

 呆れているのか、感心しているのか、わからない口調で私の背後に回った月子先生は呟いた。

 志緒ちゃん制作のワンピースは、背中にボタンが付いているので、今の体では脱ぎ着が少し難しい。

 普段なら手が届くのだけど、体の感覚が違うのでうまく出来そうに無く、下手に力を込めて折角の志緒ちゃんの作品をダメにしてしまうのは忍びないので、早々に手伝って貰うことにした。

 ジッとファスナーが下がる音がして、服でせき止められていた髪の毛がサラリと背中に触れる。

 そう言えば髪の色も変わったままだったなと思い出しながら、元の姿に戻る時に、髪の色も考えた方が良いのだろうかと新たな疑問が思い浮かんだ。

 ただ、このタイミングで考えていると、服に傷を付けてしまいそうだったので、ワンピースを上へ引っ張り上げながら頭を通す。

 腕を抜いて下から脱いだ方が楽だけど、床に付けると汚してしむかもしれないので、少し苦戦しそうだったけど、上から脱ぐ方向で頭を通したところで手を細かく動かして布を引っ張り上げた。

 徐々に裾が上がってくるので、それが触れる感触と、むき出しになる足が少し肌寒い空気に触れる感覚で進行状況を把握しながら作業を進めていると、もたついていると判断したのであろう月子先生から声が掛かる。

「お手伝いしましょうか、お嬢様?」

 完全に馬鹿にされているか揶揄われていると感じたものの、ここで跳ね返しても得るものが少ないと判断した私は「お願いします」と手を借りることに決めた。

 どうやら私の反応は月子先生にとっては予想外らしく「おや」と呟く。

 対して私は「志緒ちゃんが作った服ですから、変に力を入れて傷つけたくないので、手伝ってくれるなら、お願いします」と言い加えた。

 すると、月子先生はフッと笑ってから「もちろんだとも、そもそも私から切り出したことだしね」と言いつつ、脱ぐのを手伝ってくれる。

 一人だともう少し時間が掛かったし、苦戦しただろうけど、適切に手を貸してくれる月子先生のおかげで、無事ワンピースを汚したり傷つけること無く脱ぐことに成功した。


 服を脱ぎ、下着姿になった私に対して、月子先生は「では、先に元の姿に戻ってみようか」と次を示してきた。

「えっと、元に戻れ……で、大丈夫ですかね?」

 手がかりというか、どうすれば戻れスカのイメージが付いてなかったので、そう尋ねてみると、月子先生は少し考えてから「そうだね。大丈夫だと思う」と頷く。

 そこから少しだけ間を開けて「まあ、切っ掛けは志緒君からの囁きだったが、その姿は普段の変化と同じと考えても問題と思う……つまり、手順はいつも通りの筈だ」と言い加えてくれた。

 私はその言葉で覚悟を決めて、頷きを返してから、コレまでの『変化』の経験を思い出しながら意識を集中する。

 身長を元通りに、体重を元通りに、と普段よりも一つ一つの要素を意識しながら、最後に髪の色を元通りにと念じた。

 すると、すぐに、感覚的にいけそうだという実感が湧いてくる。

 それを合図に私は自分の体を変化させ……いや、元に戻した。


「落ち着いたかな?」

 着慣れた体操服になった私に、温かい紅茶の入ったカップを手渡しながら、雪子学校長は首を傾げた。

 両手でカップを受け取りつつ「はい、大丈夫そうです」と頷く。

「では、ここからは検証の時間ということで良いかい?」

 月子先生が私の横に座りつつ、そう尋ねてきた。

「もちろんです」

 頷く私に尼頷きで返した月子先生は「雪姉の力で幼女の姿に戻るかどうかは後で聞くから、頭の隅にでも置いて置いてくれ」と言い加える。

「わ、わかりました」

 そういえば答えを出してなかったなと思って頷くと、月子先生は「気になる点としては、君の『変化』が暴発した理由だ」と切り出した。

「ぼうはつ……」

 口に出してみて、改めて確かにと思う。

 触れられて囁かれただけで変化してしまうのでは、とても正常とは言えないし、思わぬ事故になる可能性だって考えられるのだ。

 で、あれば、再発防止……要は、暴発しないように、制御出来るようにならないといけない。

 とはいえ、私にはとっかかりがイメージ出来ていないので、情けないと思いながらも、ここは大人しく助けを乞うことにした。

「それで……あの、何をどう進めたら、いいですか?」

 私の問い掛けに対して、月子先生は馬鹿にした素振りも揶揄う素振りも見せずに、真剣に思考を巡らし始める。

 ややあってから、月子先生は「やはり、最初は再現だろうね」と言いながら、私の肩に手を当てた。

 向かい合った状態からくるりと体を回転させられて、背中にピタリと密着される。

 あっという間の出来事に戸惑う間もなく、耳に月子先生の吐息が掛かった。

「ひゃっ」

 思わず出てしまった声に、慌てて口を押さえる私の耳に月子先生の囁きが届く。

「幼い子供の姿になりたまえ」

 月子先生の言葉に私の体は軽く震える……と、同時に『変化』が始まる予兆を感じ取った。

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