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放課後カミカクシ  作者: 雨音静香
第参章 下地構築
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参之玖 探求

「それじゃあ、次の実験に移ろう」

「は、はい」

 巻き戻しの能力で髪を乾かして貰ったモノの、雪子学校長の言葉に素直に頷くには多少の抵抗があった。

 そんな私の心境を敢えてスルーして、雪子学校長は「今度は雨が降るイメージをせずに『狐雨』を唱えて欲しい」と、次にやる実験内容を伝えてくる。

 私はイメージを抱くか抱かないかで術の発動をコントロール出来るか見るのだと、その意図を理解して、なるべく無心になりつつ呪文である「『狐雨』」を声に出した。

 すると、今度はパラパラと数滴の水が湯船を叩く。

「ふむ。限りなくゼロに近いとは言え、呪文を口にすることで、効果が発動してしまっているね」

 雪子学校長の言葉に私は頷いてから「一つ、試したいのですが……」と切り出してみた。

 これに対して、雪子学校長は満面の笑みを浮かべて「大いに挑み給え」と頷いてくれる。

 どの前向きな肯定の言葉だけで、直接触れられたわけでもないのに、背中にバシッと気合を注入されたような感覚がして、私の中にやる気が溢れだしてきた。

 私のやる気を簡単に引き出してしまった事実に、本当にスゴイなと雪子学校長に尊敬しながら、私は実験を始める。

 目を閉じて意識を集中し、雨が降っていない快晴の空と強い日差しを脳裏に描いた。

 その上で「『狐雨』」と呪文を唱える。

 それから数秒待っても、何の変化も感じなかったので、私は恐る恐る目を開いた。

 すると、満面の笑みを浮かべた雪子学校長が「今、完全に術は発動していなかったよ」と断言する。

 実験の成功に私は思わず「やったーー!」と両腕を天に振り上げて歓喜の声を上げてしまった。


「なるほど、雨とは真逆、快晴のイメージか……考えたね」

 雪子学校長の言葉に、とても誇らしくなった私は、気付けば「はいっ!」とハキハキした声で返事を返していた。

 なんだか心の奥底まで子供に、小学生になってしまった感覚がして恥ずかしい反面、今の自分にはピタリと嵌まっているような感覚もある。

 体に引き摺られていると言うことなのかも知れないとも思ったが、今はそれよりも実験の成功が嬉しかった。

 そんなタイミングで、花子さんが「じゃあ、もし曇りとか、雪とか、霧とかの天候を想像したらどうなるのでしょうか?」と疑問を口にする。

 こんなタイミングでそんな提案をされたら好奇心がうずかないわけが無かった。

「早速試して……」

 そう口にした私を雪子学校長が「待ちたまえ」と引き留める。

 思わず何故ですかという気持ちを込めて、私は雪子学校長に視線を向けた。

「イメージによって術に変化が生じる可能性は高い。試す必要はあるが、湯船に浸かっているとは言え、雪やみぞれなどは、発動してしまった場合に危険が生じる可能性がある。まずは曇りと霧だけ試して、後は防寒対策をして別のタイミングで試すのが良いだろう」

 雪子学校長の言葉で零細を取り戻した私は、自分が逸っていたことを痛感する。

 確かに、雷の一件もある以上出来るかも知れないだけで挑むのは、雪子学校長の言うとおり危険だと、私も思った。

 雪子学校長の考えを聞くまでは、止められたことに何故という気持ちが強かったが、話を聞いた今、むしろ自分が何故あんなに逸っていたかの方に、何故という気持ちが湧いてくる。

 そんな私に苦笑いを浮かべた雪子学校長は「なに、好奇心というモノはままならないモノだよ」と気遣ってくれた。

 けど、その後、キリッとした真剣な表情を浮かべる。

「しかし、卯木くんには子供達の現場での安全を最優先で考えて欲しい。難しいかも知れないし、君に背負わせるモノが多くなってしまうが、それでも、好奇心を抑えて、皆の安全を一番に考えて欲しい」

 私はその言葉を聞いて、頭を強く叩かれたような衝撃を受けた。

 そもそも子供達を護りたい、助けたいという思いでこの『神格姿』を手にしたというのに、自分のことで一杯一杯になって、肝心なことを忘れていたことに気付く。

「私……」

 恥ずかしさ、申し訳なさ、自責、マイナスな感情で頭がいっぱいになってしまった私は、続きを口にすることは出来なかった。

 そんな私に代わって、雪子学校長は「気にしすぎるな」と声を掛けてくれる。

「事が起きる前に意識出来ているんだ。何かが起こってしまった後じゃない。後悔というのは、取り返しのつかない状況になってから味わえば良い。今は試行錯誤を繰り返して、失敗しても成功しても、最善手を探求するべき時だよ……そうだろう?」

 雪子学校長の言葉が耳に入ると同時に、ジーンと胸が熱くなった。

 思えば、コレまで雪子学校長が怒ったのも、忠告してくれたのも、私や私の周りに危険を及ぼす可能性があった時だったと思う。

 挑戦も無謀でなければ、私に任せてくれていた。

 コレが教育者の導き方なのかも知れないと、私は雪子学校長への尊敬の念を強くする。

 そして、自分自身にも取り入れて、動画作りや教材作りに活かそうと、私は誓った。


「まずは曇りですね」

 私の言葉に雪子学校長は「頼む」と笑顔で頷いてくれた。

 それだけで、私のやる気はもの凄く高まる。

「行きます! 『狐雨』!!」

 直後、ブワッと私の周囲に何かが満ちる感覚がして、何が起こったのかと慌てて目を開けると、視界が完全に覆われていた。

 ほとんど白で塗りつぶされた視界の向こうに、薄らと雪子学校長や花子さんが見える。

「卯木くん、コレは曇りと言うより『雲』だね」

「濃霧という感じもしますね」

 二人の言葉に何故そうなったのかと考察をしつつ、心の中で『狐雨よ辞め』と念じると、周囲を覆っていた白いヴェールは瞬時に消え去った。

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