拾肆之弐拾弐 休息
流石に魔女服の時に続いてなので、制服自体の測定もそれほど國は鳴らなかった。
サイズも幼女の姿の自分が着るサイズなので、決して大きくはないし、魔女服から、制服に姿を戻した現状では、アジャスター機能が働いてしまう可能性があるので、他の人には任せられないし、手も借りられない。
メジャーで測る作業は、やり慣れていることじゃない上に、急に手指の長さが縮んでしまったこともあって、なかなかに難題だった。
私が計測している間、皆が私を見ているのだけど、裏を返せば、それは待たせているのと同じ事なので、時間がたつ程、申し訳ない気持ちが強くなってくる。
けど、手や指が小さくなってしまったこともあって、作業は思ったようには進められず、それが焦りにつながり、ますます覚束なくなってしまった。
その間待っている皆は、イライラしたりはしないのだけど、代わりに慈愛に満ちた目で見守ってくれている。
見た目が幼くなっている上に、慣れない作業で苦心している姿が、庇護欲を刺激するのは理屈ではわかっていても、暖かく見守るような視線を浴び続けるのは、もの凄く居心地が悪かった。
進まない作業に、気持ちを揺さぶってくる皆の視線、その成果少し視界が揺らぐ。
ツンと鼻の頭が痛くなった事で、視界の揺れが涙ぐんでいるのだと気付いた私は懸命に頭を回転させて、踏み留まるために一つの案を導き出した。
「り、りんりんしゃま! てつだってちょーらい!」
私の口から飛び出した舌っ足らずな言葉は、明らかに震えていて、即座に頭の中が『やってしまった』という失敗を認識する言葉で一杯になる。
絶望感でその場で折れてしまいそうになった瞬間、私の頭に『押し切ればどうにかなる』という根拠の無い言葉が閃いた。
恐らく、コレがわらを持つ噛む思いということだろう。
ほんのわずか頭に浮かんだほんの小さな方針に縋るようにして、私は声を出した。
「リンリン様、ここをおさえてくだしゃい!」
多少噛んだものの、リンリン様は私の示したところを無言で抑えてくれる。
「ありがと、リンリン様」
リンリン様が抑えてくれている間に私はメジャーで計測し、その数値を口にすると、志緒ちゃんが「はい」と記録をしながら返事をしてくれた。
ヴァイアを含めた他の面々から声が掛かること無く、私は底から黙々と作業を進める。
皆が気遣ってくれていることを痛感しながらも、まずは作業を終わらせなければと、計測に意識を集中挿せた私は、リンリン様と連携しつつどうにか作業を終わらせることに成功した。
「リンちゃん、お疲れ様ー」
そう言いながら椅子に座る私に、花ちゃんがコップに入ったお茶を手渡してくれた。
「あ、ありがとう」
私がそう言って受け取ると笑顔で頷いたまま固まる。
要求しているのが何か見当が付いた私は内心で溜め息を吐き出してから「花お姉ちゃん」と付け足した。
それに満足したらしい花ちゃんは「いいのよぉ~」と口にしてから「舞花さんも、志緒さんも、一服しましょう」と言って、お盆にのったコップをそれぞれに渡していく。
その後、お茶が全員に行き渡ったところで、花ちゃんの音頭で、私たちは休憩に突入した。
休憩の間、ヴァイア達は何をしているのだろうと思って様子を覗うと、それぞれが非接触式のアダプターの上に陣取って固まっているのが目に入った。
そもそも家電製品なので、理屈はわかるのだけど、自分の意思で動くヴァイア達が、ミルキィ・ウィッチなんかのアニメの影響もあって生き物のように思えていたので、違和感がもの凄い。
ヴァイア達のシュールな充電の様子を見ていた私に、志緒ちゃんが「あれ、リンちゃん、充電してるところ見たことなかった?」と尋ねてきた。
「はい。初めて見ました」
私はヴァイア達を見詰めたまま、そう答えると、舞花ちゃんが「可愛いよね」と聞いてくる。
「かわ……うーん」
私としては違和感が強いなという視点しか無かったので、つい首を傾げてしまった。
「だって、皆目を閉じて、お昼寝してるみたいじゃない?」
「あ、確かに、皆目を閉じてますね!」
舞花ちゃんに教えて貰うまで気付かなかったけど、ヴァイア達は目を閉じている。
ただ、目だけで無く体も一切動いていないので、生き物から無機物に変わってしまったように思えて、私には少し不気味に見えてしまった。
結果、舞花ちゃんとは意見が合わなかったのもあって、返答に困る。
が、返事をしなかったせいで、舞花ちゃんに「どうしたの? 大丈夫?」と心配されてしまった。
ここは編に言い訳をするよりも、ちゃんと思ったことを伝えた方が良いと考え私は「舞花お姉ちゃん、ごめんなさい」と謝る。
目をパチクリさせて、私の謝罪の意味がわからず「ん? どういうこと?」と舞花ちゃんは聞いてきた。
「えっと、わた……凛花には、眠っているっていうより、生き物だったのが、生き物じゃなくなったように見えて……」
私がそこまで言うと強めに頭が撫でられる。
「うぇっ?」
何故頭を撫でられたのかわからず変な声が出てしまった。




