拾肆之弐拾 威力
「スゴイ、スゴイよ、志緒ちゃん!」
未だ小学生の志緒ちゃんが、そんなことをしていたなんて、驚きと尊敬で私の胸は一杯だった。
だからこそ、私は溢れる感動の勢いのままに、思った事を言葉にする。
対して、志緒ちゃんは言いたいことが上手くまとまらないらしく「ちょっと、は、恥ずかしいから、辞めて、リンちゃん! た、ただの、その趣味の延長というか、状況を利用してるだけというか」としどろもどろになってしまった。
ここで追い打ちを賭けるのも可愛そうだと思った私は「わかりました」と伝えて、もう大丈夫だという気持ちを込めて、ギリギリまで背伸びをして、志緒ちゃんの頭を撫でる。
私の手に驚いたように飛び退いた志緒ちゃんから「にゃっ!?」と驚きの籠もった声が漏れた。
神世界での志緒ちゃんの姿、神格姿が猫娘だったことをその反応で思いだした私は「そーでした。志緒ちゃんは猫娘でした!」と手を叩く。
たまに猫が出るだなぁと微笑ましい気持ちで志緒ちゃんを見ていた私の頭に気になることが浮かんだ。
志緒ちゃんは、もの凄く警戒の色を見せているので、舞花ちゃんに視線を向ける。
「舞花ちゃん、凛花、狐が出てる?」
急に話を振ったからであろう舞花ちゃんは目を大きく瞬かせるだけで、それ以上の反応は示してくれなかった。
リボンの付いた頭を撫で、ワンピースのスカートの上からお尻を抑えて、耳や尻尾が出て無いことを確認してから、舞花ちゃんに「狐の耳とか、尻尾とか出てない?」と確認する。
しっかりと確認したいことを言葉にしたお陰か、今度は舞花ちゃんも「で、出てないよ」と答えてくれた。
それだけで嬉しくなって「答えてくれてありがとう」とお礼を伝える。
ただ、気になるところを全て確認出来たわけでは無いので、私は次の質問に移ることにした。
「あの、舞花ちゃん、凛花の語尾おかしくなってない?」
私の問い掛けに、舞花ちゃんは動揺した様子で「え? ごび? なに?」と上手く質問が伝わなかったらしい。
少し恥ずかしいなと思いながらも、大事なことなので具体例を出して聞いてみることにした。
「あの、文章の終わりに、です、ますじゃ無くて、こ、コンとか言ってないかな?」
「コ、コン!?」
驚きすぎたからか、舞花ちゃんの声は浦賀って締まっている。
とはいえ、ちゃんと伝わらないと、正確な返事も貰えないだろうから、私は軽く咳払いをした。
「コホン」
意図せず、コンに近い音を出してしまった私は「い、今のは違うよ!」と慌てて否定する。
舞花ちゃんはこくこくと頷いてくれたので、わかってくれたみたいだ。
わかって貰えて良かったという気持ちが続くうちに、私は本命の質問を切り出した。
「えっと、凛花が気付いてないうちに、最後に『コン』とか言ってないか、知りたかった……コン」
声にしただけで体が燃え上がるように熱い。
けど、恥ずかしがって最後の説明を失敗するわけにはいかないので、上擦った声のまま「い、今みたいに、無意識に『コン』とか、い、言ってなかったかな?」と尋ねた。
私としては、決死の思いでの質問だったんだけど、舞花ちゃんは固まったまま動かない。
「あ、あれ?」
どうしたんだろうと不安になったところで、花ちゃんが横から「リンちゃん!」と声を掛けてきて、私は思わず驚いて固まってしまった。
じっとこちらを見る花ちゃんの目を見ているうちに、少し落ち着きを取り戻した私は「えっと、なんですか、花ちゃん」と声を掛けた理由を聞いてみる。
が、帰ってきたのは答えでは無く「お姉ちゃんが抜けてるわ」という本当に心の底から面倒くさいと思う一言だった。
とはいえ、底を議論しても話が進まない上に精神が削られるだけなので「ゴメンなさい。花お姉ちゃん。クセで、抜けてました」と行って謝る。
直後、視界が真っ暗になって頭に圧力が掛かり、思わず「むにゅっ」と変化声が飛び出した。
むにむにと顔に押し付けられる感覚からし、花ちゃんに抱き付かれたらしい。
どうにも抜け出せず、もがいても押しとどめられてしまい、仕方なく手探りで花ちゃんの腕をタップして、話してくれるよう訴えた。
それでも、腕が解かれること無く、花ちゃんの「かわいい」を連呼する声が耳に届く。
いい加減にして欲しいという思いを込めて、タップする手の力を強め、離すようにアピールすると、ようやく腕の力が緩み海保された。
「花お姉ちゃん、くるしかったんだけど!!」
強めに怒ったことが幸いしたのか、花ちゃんが「つい夢中になってしまって……ごめんなさい」と言って崩れ落ちる。
素直に謝ってくれたので良しとしようかと考えていると、花ちゃんは頭を下げたままで「雪子お姉ちゃんや月子お姉ちゃんには言わないで……リンちゃん成分を立たれたら、体は無事でも心が死んじゃいます!」と言い出した。
「そんな……大袈裟な……」
思わず苦笑してしまった私の肩を掴みながら顔を上げた花ちゃんは「大袈裟じゃ無いの、本当に潤いを失ったら、やっていけないの!」と鬼気迫る表情で訴えてくる。
そんな花ちゃんを無碍に切り捨てることも出来ず、私は溜め息交じりに「今回だけだよ、花お姉ちゃん」と見逃すことにした。




