拾肆之拾壱 月の魔女へ
全員が配置についたところで、指示を出した志緒ちゃんは大きく頷いた。
それを合図と受け取った舞花ちゃんが「それじゃあ、始めるね」と口にする。
志緒ちゃんが頷きで肯定すると、舞花ちゃんは改めて視線をステラに向けた。
それだけで自分の役割を理解したステラは頷いた上で、右手を高く上げる。
『行くよ、マイちゃん! ミルキィ・チェンジだ!』
ステラの掛け声に頷いた後で、舞花ちゃんは右足を前にカルクだし、左足を引いた。
持ち上げた右手の甲を前に出して、顔を半分隠す。
低い声を意識して、舞花ちゃんが「了解よ」と口にした。
完全になりきっているんだろうなと思っていると、舞花ちゃんは「太陽の分身に、今、月を重ねて!」
とセリフを口にする。
直後、セリフに呼応して、舞花ちゃんの目の前に、光り輝くもう一人の舞花ちゃんが現れた。
その認識が違うと気付いたのは、髪の結び方が左右逆だったからで、よく観察してみると、靴下も違う。
舞花ちゃんが私の人形の着ていた制服を着ているので、靴下は黒のニーハイソックス、目の前に立っている光る結花ちゃんは膝下丈、黒のハイソックスだった。
シルフィに変身する舞花ちゃんの着る制服は、同じハイソックスでも白だったので、そこからも違いがわかる。
そんな結花ちゃんの分身と向かい合った舞花ちゃんは、ゆっくりと額を重ね合わせた。
「ここでアニメ通りだと、マイちゃんの意識がユイちゃんの体に移るんだけど……」
不意に志緒ちゃんが発した言葉に、私は驚きと共に「そうでしたっけ?」と口にする。
言われてみれば、最初に私を元にした人形の『アル』が変身した時、本体はその場に倒れ込んでいて、結花ちゃんの姿をした分身が変身したのを見た。
けど、直前の私も、舞花ちゃんの人形もそうはなっていない。
「アレンジしたんだよね~」
ニヤッと笑った志緒ちゃんの返答に、私はなるほどという思いで頷いた。
そして、目の前では志緒ちゃんの言葉を証明するように、結花ちゃんの分身は光の粒子へと姿を変えて、舞花ちゃんの体へと吸収される。
直前に見た舞花ちゃんの人形での変身と同じ変身の進み具合に、確かに舞花ちゃんが倒れ込んだら危ないし、分身を生み出して、意識をそちらに移すっていうのは具現化するにしても難易度が高そうだなと思った。
少なくとも、私の実例で考えると、器となる人形を生み出した上に、ヘルメットで実現したばかりの意識のリンクをして、更に変身機能を付与しなければならないので、かなりの能力を掛け合わせる必要がある。
制服自体には人形から人間までのサイズ変更に対応していたり、変身機能が付いていたり、変身の過程でも体を原作通りに動かすようなアシストも付いていて、これだけでもかなりの能力量で具現化に苦しんだのに、まだ分身作成とリンクが足りていないわけだ。
志緒ちゃんの絶妙なアレンジに助けられていたことを今更ながらに噛みしめる。
結花ちゃんを構成した光が全て体に取り込まれたタイミングで舞花ちゃんは、右腕を空高く伸ばした。
直後、手の中に紫の光の球が現れ、光を握るように手を動かすと球初枝へと姿を変える。
手の中に出現した球が杖の形に変わったのとほぼ同じタイミングで、舞花ちゃんの全身が新たに出現したマントに包まれた。
「月の魔力よ、我が身を包め! ミルキィ・チェンジ!!」
舞花ちゃんの声が響き、紫の光が杖から放たれる。
熟練と思える程の洗練した動きで、マントを裁き杖を操り、体を動かして制服から魔女服へと舞花ちゃんの衣装が変わっていった。
「静かなる月の魔力を纏う魔女ミル・セレニィ」
名乗りと共に指が撫でた唇の色がピンクの輝きを放った。
耳に金色に輝く紫の宝石が埋め込まれた耳飾りが出現する。
舞花ちゃんは流れるような動きで、クロスさせていた足を開き、正対する相手に手を求めるように自らの手を差し出した。
ここで目を細めた舞花ちゃんは軽く小首を傾げて「静謐なる月夜へ誘いましょう」と口にして笑む。
無事変身の全ての工程がお買ったところで、志緒ちゃんから渾身の拍手が放たれた。
「スゴイ! 格好いい! マイちゃん、可愛い!!」
もの凄いテンションで拍手をする志緒ちゃんに、変身が終わった舞花ちゃんは照れてしまったらしく、体をくねらせる。
「さわっても……いい?」
志緒ちゃんの問いに、舞花ちゃんは頬を僅かに染めながら「いいよ」と同意した。
直後、もの凄い勢いで志緒ちゃんは舞花ちゃんを抱きしめる。
しばらくの間抱きしめた後で、今度は舞花ちゃんが身に纏う衣装に遠慮無く触れ始めた。
マントをめくったり、耳飾りやサークレットに触れたりは良いとして、問題はしゃがみ込んだ後である。
自分の無線の高さにアルスカートを容赦なくめくり上げた後で、ピッタリと足にフィットしているニーハイソックスをなで始めた。
「し、し~ちゃん!?」
明らかに動揺しているのがわかるほど舞花ちゃんの声は震えている。
が、志緒ちゃんは自分の欲望に従っているようで、その手を緩めることは無かった。
助けを求める舞花ちゃんの目がこちらに向いたものの、正直志緒ちゃんを止められる自信は無い。
申し訳ないと思いながら、私は手を合わせて頭を下げた。




