拾参之陸拾伍 センサー
リンリン様の右前足でのタシタシは痛くないので、少しほっこりした気分になるので、そのまま放置して置いても何の問題もなかった。
むしろ私が気になったのは、頭の上に到達するまでの経路の方である。
かなりのスピードで頭まで到達したリンリン様だけど、床、机、肩と見える範囲だけでも、綺麗にエネルギー球を避けていた。
球体自体はそれなりに大きいので、着地にタイミングや場所が少しでもズレれば触れてしまいそうなギリギリなのに、擦り抜けている。
私自体、見える方法を得ているので、同じようにリンリン様も獲得しているのではと考えた。
気になることはすぐに確認したくなるもので、私は未だ前足で抗議しているリンリン様に聞いてみることにする。
「ところで、リンリン様?」
声を掛けると、前足タシタシが止った。
『なんじゃ、主様?』
リンリン様の返しからは、どこか探るような気配を感じる。
何を聞いてくるのかの予測が立ってないんだろうなと思って、自分の聞こうとしていることを浮かべると、その脈略の無さに噴き出しそうになった。
それを敏感に察知したらしいリンリン様が『なんじゃ、主様!』とタシタシを再開する。
「いや、聞こうと思ったことが、話の流れからかなり逸脱してるなと思ってら、少しおかしく思えて」
私がそう発言すると、リンリン様は少し間を開けてから『それで、何を聞きたいのじゃ?』と質問をしてきた。
「さっき、私の頭に飛び移ってくる時、リンリン様は私の出現させたエネルギー球を綺麗に避けていたから、見えるのか聞いてみようと思ったんだけど……」
私がそう言うと、リンリン様は『見えてはおらぬよ』とはっきりと言い切る。
「見えてはいないんですか?」
返ってきた答えに驚いた私の声は、思いの外大きくなっていた。
『わらわがこの目で捉えたものは、動画として記録されておるから、確認すれば、わらわの言葉が証明出来るはずじゃ』
ここまで言い切るリンリン様の発言がウソだとはとても思えないので、私は質問の切り口を変えてみる。
「だとすると、見えないものを避けていたってことですか?」
偶然と考えられなくもないけど、それにしては、的確というか、無駄がないというか、見えているとしか思えないような動きだった印象があった。
『見えはせぬが、感じられるのじゃ……ここには障害物がある……そう感じるといった方が適当やも知れぬ』
リンリン様の発言に、志緒ちゃんが興味を持ったようで「それは、センサーによるものですか?」と質問を投げ掛ける。
対して、リンリン様は『わらわの認識では、何か特定のセンサーが反応しているという感じはせぬな。敢えて言えば、特別な反応はしていないが、どのセンサーも動いてはいるといったところかの』とつかみ所のない答えを口にした。
私としては、その説明では上手く理解出来なかったのだけど、志緒ちゃんはそうではなかったらしい。
「なるほど……リンちゃんの放出するエネルギーに対して、明確に何かを感知しているセンサーはなく、感知している状態でも、各種センサーには特殊な動きはなく、平常時と変わらない動きをしているということですね」
『うむ』
リンリン様自身の肯定に、自らの顎に手を当てた志緒ちゃんは、何度も頷いてから、指を二本立てた。
「可能性は、二つ……って、事だね!」
ワクワクとした表情で、舞花ちゃんが聞くと、志緒ちゃんは大きく頷いてみせる。
その後で、志緒ちゃんは「まず一つはリンリン様のセンサーが複合的に補足している可能性」と口にした。
一つのセンサーではなく複数のセンサーの複合なら、そうなのかもしれない。
と、思っていたんだけど、志緒ちゃんの意見は違うみたいだ。
「でも、仮に複数のセンサーで感知しているなら、特に反応しているセンサーはない。じゃなくて、反応しているセンサーは複数あるって感じると思うのよ」
言われてみるとその通りなので、直前の納得はなんだったのかと、思わず乾いた笑いが漏れそうになる。
一方、本命が二つ目だと察した舞花ちゃんは、好奇心に満ちた表情で「じゃあ、二つ目は?」と催促をした。
志緒ちゃんは、舞花ちゃんの勢いに笑みを見せつつ「ずばり、リンリン様の特殊能力」と言い切る。
「特殊能力?」
首を傾げる舞花ちゃんに、志緒ちゃんは「例えば、ステラには変身をコントロールする能力があるでしょう?」と例を挙げた。
確かに、ステラは変身をする際の切っ掛けになっているので、コントロールしていると言えば、その通だなと思う。
「それで、リンリン様には、霊的な力があるんじゃ無いかと思うのよ」
確かにリンリン様には、そういう力があっても納得してしまいそうな雰囲気があるし、キツネといえば、伝承に語られることも多い存在だ。
霊力を持っていても、おかしくないと思う。
けど、それよりも皆が大きく納得したのは、続く志緒ちゃんの考えの方だった。
「そもそも、リンちゃんの『神格姿』を元にしているんだから、リンちゃんが出来る事をある程度出来ても不思議はないでしょう?」




