拾参之陸拾参 パン生地
「じゃあ、パン生地を思い浮かべて!」
明るく響く舞花ちゃんの声に頷きつつ、私は「う、うん」と口にして、言われるままにパン生地を思い浮かべた。
「麺棒でのばすでしょ? そうすると、うにゅにゅにゅって、大きくなっていくの」
言われるまま頭の中で捏ねた生地を麺棒でのばす過程を思い浮かべると、舞花ちゃんは「そんな風にお洋服が大きくなるのを想像したら、上手く行くんじゃないかな?」と言う。
直後、頭の私の全身を映す映像とは別に浮かべていたイメージの中の麺棒が消え、パン生地が制服に替わった。
その制服が、伸ばされて大きくなっていくパン生地のように、徐々に大きくなっていく様が鮮明になる。
すると、私の中に、いけそうだという感覚が、暗闇で灯された蝋燭に、ポツリと浮かび上がった。
「あ、なんとなく、鮮明になったかも知れません」
私の報告に、舞花ちゃんが「ほんとう?」と明るい声で聞いてくる。
肯定するために、私は「はい」と口にしつつ頷いた。
ただ、拡大のイメージはこれで上手くいきそうだけど、縮小はどうしようかと思い、更なるアドバイスを求めてみる。
「大きくするのはいけそうですけど、小さくするのはどうしたら……」
私がそこまで口にしたところで、志緒ちゃんがあっさり「逆再生したらイメージ完成じゃない?」と言い放った。
「あ、確かに」
そう呟いた瞬間、新たな光が胸の内に灯った感覚がする。
想像以上にあっさりとイメージが整理され、私の中で上手くいきそうな感覚が強まった。
「相談って大事ですね」
私が感動を込めてしみじみと呟くと、志緒ちゃんが笑いながら「今頃気付いたの?」と揶揄うように言ってくる。
舞花ちゃんも「リンちゃんは、一人でやろうとしすぎなんだよー。舞花みたいにちゃんと他の人を頼らないとね!」とダメ出しまでされてしまった。
私は少しふざけた口調で「勉強になりました先生方」と頭を下げる。
ほんの少しの間を開けて私たちはほぼ同時に笑い合った。
パン生地を伸ばすイメージで、制服を拡大出来るようになるかはわからないけど、試してみる価値は十分にあると判断した私は「それじゃあ、ちょっと試してみます」と皆に声を掛けた。
「もういけそうって事かな?」
真っ先にそう尋ねてきた志緒ちゃんに、私は「うーん」と少し唸って言葉を選ぶ。
まとまったところで、私は「パン生地の話と逆再生の話を聞いて、なんだか出来そうな感覚があったので、まずはアップデート出来るようになったかどうか試してみようかと思ったんです」と説明した。
「それじゃあ、もし、変な感じがしたら、すぐ中止してね!」
不安げな眼差しで言ってくれた舞花ちゃんに、私は「気をつけます」と返す。
その上で「推測ではありますけど、私が取り扱うのに難しいなら、自動でアップデートが止まる仕様になっているんじゃないかと思うので……」と付け足してみた。
が、それで舞花ちゃんの心配を解消出来なかったようで、ジッと見詰められてしまう。
その目から逃れるように視線を逸らしつつ「なので、まあ、大丈夫だと思います」と締めた。
直後、ガシッと腕を舞花ちゃんに掴まれる。
ビックリして視線を戻すと「絶対、無理しちゃ駄目だからね」と念を押された。
これはもう逃れようがないなと思った私は、しっかりと真っ直ぐに舞花ちゃんを見て「絶対に無理はしないので安心してください」と伝える。
ようやくこれで納得してくれたのか、舞花ちゃんは「信じてるからね」と言って手を離した。
「改めて、いきます」
宣言と共に再び目を閉じた。
黒一色の世界に浮き上がる私の全身像、今は手と手を向き合わせた旨の前にだけエネルギーが集まっている。
ここに先ほどの話し合いで少し輪郭がはっきりした拡大縮小のイメージを加えて、エネルギーに変化が起こるかを早速試すことにした。
まず描くのは制服が拡大するイメージで、人形サイズの服と人間の手を思い描く。
イメージのベースは、志緒ちゃんの手とその上に置かれていた人形サイズの制服だ。
この制服が人間の着れるサイズに拡大させるのが、第一の目標になる。
パン生地を伸ばすイメージを重ね合わせて、徐々に制服が伸びて大きくなっていく様を想像してみた。
僅かに両手の甲が光り始めているように見える。
黒い世界に一人椅子に座っているイメージの私を回転させると、足の甲も光を纏い始めているのが確認出来た。
その事実が方向性が間違っていないということを確信させてくれる。
自信を持ったことがプラスに働いたからか、手足の甲に集まる光が輝きを増した。
とはいえ、エネルギー球に変化する兆しは未だ見えない。
ここで一旦止めて報告をしようかと思ったのだけど、先に縮小するイメージを追加してどう変化するかを見てからの方が止めるにしてもいいかと考え、更なるイメージを送り込むことにした。
逆再生というアドバイスを元に、人間サイズになった制服が、元の人形サイズに戻るという変化を想像する。
徐々に縮んでいき、両手を使わなければ支えられなかった制服が掌に収まる姿を想像したところで、爆発するような勢いで両手からエネルギーが噴き出すのが目に入った。




