拾参之伍拾玖 下着
舞花ちゃんは人形の体を巧みに動かして、新たに身につけた下着の様子を確認していた。
志緒ちゃんは自分のタブレットに、ステラとシャー君の視点を表示して、舞花ちゃんに「こっちの方が見やすいよ」と見せる。
志緒ちゃんの配慮に感激した舞花ちゃんの人形は『ありがとう、しーちゃん!』と大きく腕を振るって気持ちをアピールし始めた。
自分の体のままだったら抱き付いていそうだなと思いながら、二人がやろうとしているのは下着のチェックなので、私は息を殺して存在感を消すことにする。
そんな私の肩に急に重さが乗っかってきた。
『ふむ。手鏡は持っておらぬのだな』
耳元で肩に乗ってきたリンリン様がそう呟く。
化粧をする年でもないので、そもそも手鏡自体を持っていないかもしれないが、理由として私的に一番しっくりとくる「手鏡は授業に必要なものじゃないからね」と答えてみた。
それで納得したのか、リンリン様は『なるほどのぉ』と口にした後、肩の上で丸まる。
なんだか微笑ましいなと思ってリンリン様を観ていた私に、志緒ちゃんが「リンちゃん、良いかな?」と声を掛けてきた。
なんだろうと思いながらも、拒否する理由がなかったので「はい。いいですよ」と軽い気持ちで返す。
「ありがとー」
志緒ちゃんはそう言うなり、おもむろに私の人形を手に取った。
「へ?」
そのまま志緒ちゃんは私の人形の制服を脱がせ始める。
「ちょ、志緒ちゃん!?」
動揺で声が大きくなった私に対して、志緒ちゃんは「制服着たままだと、下着の確認しにくいからねー」と何でも無いことのように言い切った。
その上で、私の方を見て「大丈夫! 流石に下着を脱がしたりはしないから!」と志緒ちゃんは言う。
まったくもってそういう事じゃないんだけど、私が返す言葉に迷っているうちに、制服はタイツに至るまで脱がされてしまった。
『おー、大人のパンツとブラジャーだ!』
自分の横に置かれた私の人形をクルクル回りながら確かめる舞花ちゃんの人形は、そう感想を口にした。
「お、大人のって……」
なんだか妙に恥ずかしくなる枕詞に、ポツリと呟く私の横で、志緒ちゃんが「あー」と手を叩く。
「公式設定だと、蓮花と夏希はワイヤータイプのブラで、一葉と双葉は肩が紐になってるキャミで、真冬はスポーツブラなんだよね」
志緒ちゃんの説明に、舞花ちゃんの人形はわざわざ自分の身に付けているものを確認しながら『ブラジャーもそうだけど、パンツもなんか違う』と口にした。
それに対して志緒ちゃんは「ゴムのタイプが違うからだと思うな」と言う。
「ゴムのタイプ?」
思わず口を挟んでしまった私に振り返り、志緒ちゃんは「そう」と頷いた。
「リンちゃんの人形が元々履いていたパンツの形状がインゴムタイプで、今履いてるのがアウトゴムだね」
志緒ちゃんの解説に対して、私より先に舞花ちゃんの人形が『お腹……おへそまであるのがインゴムで、おへそが出てるのがアウトってこと?』と質問する。
対して志緒ちゃんは軽く首を振りながら舞花ちゃんの人形に振り返って「そうじゃなくてね」と説明を始めた。
「ゴムが布に包まれてるのがインゴム、包まれてないのがアウトゴムっていうの」
そういう違いなのかと言われて、私の人形のパンツを見れば、確かにゴム部分がむき出しになっているように見える。
インゴムの方は、さすが二枚かちゃんの人形を見て確認するのは抵抗があったので、スカート越しに自分の履いているものに触れてみた。
スカート越しとはいえ、布がゴムを包んでいるのが確認出来る。
『そっか、お腹が隠れてるかどうかじゃないんだね』
舞花ちゃんの人形はそう口にしながら、納得したように頷きを繰り返した。
「大人用は隠す面積が小さくなる傾向があるし、インゴムは子供向けが多いから、覆う面積も大きい。だから、舞花ちゃんのイメージも間違いじゃないけどね」
下着の確認が終わった私に突きつけられた新たな試練は、舞花ちゃんの人形が着ていた制服を着ることだった。
「き、着れるかな……」
私の発言に、志緒ちゃんが「余裕だと思う」とピシャリと言い切る。
対して「ダメだったら……」と口にした舞花ちゃんが「あっ!」と声を上げた。
「ど、どうしました?」
つい動揺で突っかかってしまったものの、どうにか質問は言い切る。
対して、舞花ちゃんは目を輝かせて「アップデートすればいいんだよ。制服のサイズが変わるように!」と興奮気味に口にした。
素直に良いアイデアだと思った私は、自然と「あー、確かに」と頷く。
それが嬉しかったのか、舞花ちゃんは更にニッコニコになって志緒ちゃんに視線を向けた。
志緒ちゃんは舞花ちゃんの視線に応え、自分の考えを口にする。
「うん。既に他の人形が着ていた制服を着るとどうなるか確認出来てるし、制服を進化させるのはアリだね」
これを聞いた舞花ちゃんは更に柄がをキラキラに輝かせた。
どうせ着替えるなら、ちゃんと着れるものを一回で着てしまいたいという思いもあって、私は「それじゃあ、早速アップデートしちゃいますね」と宣言する。
必要なエネルギーを集めるために、掌同士を隙間を空けて向かい合わせたところで、気付いたことを確認してみることにした。
「全員の制服をアップデートした方が良いですよね?」




