拾参之伍拾捌 チェンジ
舞花ちゃんの本体の状況確認に、リンリン様を残して、私と志緒ちゃんは並んで机の前に立っていた。
目の前の机には、リンク状態の舞花ちゃんの人形が下着姿で立っている。
流石に下着姿だけで恥ずかしくなることはないが、とはいえ、いつまでもその格好というのはどうかと思うので、志緒ちゃんに「風邪は引かないとは思いますけど、手早くやってしまいましょう」と声を掛けた。
「リンちゃんがいけるなら、私はいつでも大丈夫だよ」
志緒ちゃんはそう言いながら私の肩に手を置く。
「始めますね」
それだけ口にして、私は目を閉じてアップデートに必要なエネルギーを集め始めた。
変更は下着を替えるだけなので、想定通り手足の甲から捻出されたエネルギーの球は小さく、一瞬で両掌に送り込むことに成功する。
これを下着に送り込めば良いのだけど、光って透明化するなら、舞花ちゃんの人形は裸になってしまうんじゃないかと気が付いた。
それは流石に大問題だと思うので、先に志緒ちゃんにイメージを送って貰って、エネルギーの送り込みから変化までの時間を極力減らしてみることにする。
「志緒ちゃん、イメージを送って貰って良いですか?」
すると志緒ちゃんから「もう、イメージを送って良いの?」という問いが返ってきた。
時間が短かったことか、舞花ちゃんの下着に変化がないからか、何に引っかかりを覚えたのかはわからないけど、間違いなく志緒ちゃんは違和感を覚えているらしい。
その鋭さに凄いなと思いながら「ちょっと試したいこともあるので、お願いします」と告げると、志緒ちゃんは「了解」と納得してくれた。
私が思いつきを試していると伝えたことで、違和感というか、いつもと違うのはそれが理由だと納得してくれたんだと思う。
こちらの考えを読み取れる那美ちゃんと違って、志緒ちゃんは会話から察してくれているはずなので、もの凄いことだ。
少なくとも私にはない能力だと思う。
と、考えているうちに、新たなエネルギーが両手足の甲から捻出された。
捻出されたエネルギー量はかなり少ない。
エネルギーの送り込みから即座に変化するイメージも付与したけど、それほどエネルギーを必要とはしなかったようだ。
抵抗なく腕を伝わったエネルギーも注入出来、掌の間に出来ていたエネルギーの球体が一回り大きくなる。
エネルギーが全て移動したのを確認した上で「志緒ちゃん、ありがとう!」とお礼を伝えた。
その後で「舞花ちゃん、こっちは準備完了です。そっちは準備は良いですか?」と確認する。
『舞花はいつでも良いよ』
すぐに帰ってきた舞花ちゃんの返事を切っ掛けに私は、エネルギーを送り込んだ。
舞花ちゃんの人形に向けて移動を開始したエネルギーの塊である光球は、染み込むように身につけた下着に入り込んでいった。
直後、光の入り込んだ下着も輝きだしたのだけど、ここで予想外の変化が起きる。
光り出した舞花ちゃんの下着から光の球が飛び出した。
そのままどこかへ飛んでいってしまったので、私は慌てて頭の中に浮かんでいる映像を縮小して、強制的にズームアウトさせる。
舞花ちゃんの人形から距離を取り、画角を狭めたことで、どうにか舞花ちゃんの人形から飛んでいった光の到着地点を把握することが出来た。
飛び先では、光の球は既に別の形へと姿を変えている。
黒一色の空間に光の球が姿を変えたそれは、まさに下着だった。
それも上衣が、舞花ちゃんの人形が着ていたシャツやキャミソールではなく、ブラジャーになってしまっている。
しかも、恐ろしいことに、その場所から考えると、その下着を身につけているのは間違いなく私の人形に違いなかった。
これまで志緒ちゃんは、シレッと複数の人形の衣装を変えていたので、間違いないと思うし、おそらくだけど、舞花ちゃんの人形の下着をミルキィ・ウィッチ準拠に変えたのに合わせて、私の人形のもということなんだろうと思う。
勝手に私の人形の下着類を替えられたことにモヤモヤを感じたところで、舞花ちゃんの人形が『スゴイ! 一瞬で変わっちゃった!』と声を上げた。
その声で、いつの間にか舞花ちゃんの人形の纏う光が消えていることに気が付く。
光が消えたということは、下着の変化が終わったということで、それはどうやら私の人形の方もらしかった。
既に光を失った下着類は形状だけでなく、色も淡い紫色に変わっている。
私の人形自体はイメージの中では姿を現わしてはおらず、空中にパンツとブラジャーが浮いている状態だ。
ここから私の人形のイメージを強くしてしまうと、下着を身につけた姿がイメージに反映されそうなので、私は慌てて目を開く。
目の前の舞花ちゃんの人形は白いシャツとパンツを、淡いピンクに色を変えていた。
シャツの形状は肩が帯状のランニングタイプのものから、紐状になっているタイプに変わっている。
舞花ちゃんの人形の下着の変更が、無事成功したことにホッとしつつ、視線の動きに気付かれないようにして、チラリと確認した私の人形はしっかりと制服を着ているので、パッと見では下着を確認することは出来なかった。




