拾参之伍拾陸 動画確認
私の人形の髪に巻き付いた光の帯が細かな光のためへと変わり、そのまま光を残して宙に消えていった。
残された髪の毛は、アニメのような金髪というか、黄色には変わらず、元々の黒髪のままだったけど、気持ちふわりとウェーブが掛かったように見える。
神の変化が起こった後で、頭に三角形のとんがり帽子が現れ、マントがふわりと広がった。
指揮棒のように振られたステッキの動きをトレースするように、黄色い光の帯が曲線を描きながら、マントやスカートに張り付いて、魔法文字を残して消え去っていく。
タッと軽やかな足取りで一歩前に右足を踏み出したところで、全身の残っていた黄色い光が小さな粒に変わり淡く輝いた後で消えていった。
そこでピタッと動きを止めた私の人形に向けて、舞花ちゃんから『リンちゃん。、決め台詞!』と声が掛かる。
すると、ピクリと体を震わせた私の人形は、左足を『レ』の字を描くように跳ね上げた。
と、同時に『世界を支える大地の魔力を宿す魔女』というセリフの後、ステッキを持つ右手は体から遠い位置に、反対の左手は口元にそれぞれの拳を配置する。
そのタイミングで『ミル・アースリィ』という名乗りがされ、花火のように出現した黄色い光の球が弾けて飛び散った。
折角要して貰ったので、私は間を置かずにシャー君視点に切り替えた。
ポーズを決めたままの自分の人形の映像を見ているのが耐えられなかったのもあるけど、リンリン様に協力して貰った動画の確認を、先に済ませてしまおうというのもある。
視点が後ろからに代わってはいるものの、基本的な流れは一緒なので、大きな変化はなかった。
ただ、視点が背後からなので、決めポーズなどは全体ではなくほんの一部が写るだけなので、そこから全体像を想像しさえしなければ、まったくダメージはない。
基本的に大きな違いは無かったものの、背後からの視点ということもあって、ステラの視点よりも髪の毛の変化がわかりやすくなっていた。
ストレートだった髪の毛が、黄色い光の帯が結びつく前に、三つ編みを結ったように一瞬でまとまる。
それを覆い隠すように黄色い光の帯が巻き付き、それが解かれると共に、少しウェーブが掛かった状態で、髪が出現していた。
後はこのままポーズを決めて終わりを迎えるので、私は確認をここで止めてリンリン様にお礼を言う。
「リンリン様、無事確認出来ました。ありがとうございます」
私がそう伝えると、リンリン様は『主様の願いを叶えるのも、わらわの役目じゃからのぉ』と鼻を天に向けて笑みを深めた。
『変身解除』
ステッキを天高く掲げてそう口にすると、全身が黄色一色に包まれた。
体を包み込むようにステッキから放たれた黄色い光の帯が全身を包んだのだと思う。
視界の情報だけで言うと、その直後に黄色は細かな球状に変わり弾けて散った。
元の教室の風景が戻ってきて、私はミルキィ・ウィッチの世界の制服姿になっている。
膝丈の靴下ではなく、タイツなので、志緒ちゃんの人形の制服の筈だ。
証拠になるかは微妙だけど、私の人形が着ていた制服は、少し離れたところに畳んで置かれている。
変身が解除されたので、志緒ちゃんと舞花ちゃんが私の人形が立つ机の周りを取り囲みながら確認作業を始めていた。
『それじゃあ、リンクを切りますね』
私はそう宣言して、再びリンクを解除する。
ここまでは再度リンクする前に確認した段取りの通りなので、二人からのアクションは特になかった。
空調が効いているので暑さなどはない筈なんだけど、それでもヘルメットを撮った直後に、スッと頭が冷える感じがして、その心地よさに思わず私はフーと息を吐き出す。
直後、頭にドッと重みが掛かった。
「リンリン様」
『呼んだかのぉ?』
予想通り頭の上から声がする。
もう流石に慣れてしまったので「ひょっとしてお気に入りですか?」と聞いてみた。
『そうじゃのぉ、座り心地は良いのぉ』
リンリン様はそう返事をした後で、私の頭の上に寝そべったらしく、設置面積が一気に増す。
「あの、リンリン様」
『なんじゃ、主様?』
私の声掛けに、すぐに返事がきた。
「落ちないように気をつけてくださいね」
そう私が告げると、リンリン様は『この場所はわらわの特等席じゃからのぉ。そんなマヌケはせぬのじゃ』と言いつつ、タシタシと前足で頭を叩いてくる。
そんなリンリン様の返しを微笑ましく思っていると、舞花ちゃんがこちらにやって来るのが見えた。
「リンリン様とリンちゃん、なかよしだね」
舞花ちゃんにそう言われて、リンリン様は『そうじゃな』と返す。
私は微笑みを苦笑に切り替えつつ、ヘルメットを差し出した。
「もう、確認は終わったから次って事だよね?」
舞花ちゃんにそう尋ねると「そういうこと」と返して、ヘルメットを受け取る。
一応、無事変身出来たので、今度は舞花ちゃんの人形で、私の着ていた制服を着てセレニィへの変身が出来るかを試す予定だ。
「頑張ってね」
私は少し変かもと思いながらも、そう声を掛ける。
舞花ちゃんは笑みを浮かべて「任せておいて!」と胸を叩くと、ヘルメットを装着した。




